下巻は一気読み。古典で一気に読めるなんて!ディケンズすごい!
なんていうかもう小説全体が英国流のシニカルな笑いに満ちている。
ヒップの本当の恩人が誰であるか分かったときもそう。自分が裏切ってきたと思っていた故郷の恩人に胸の内を打ち明け、新たなスタートを切ろうとしたときに、相手から幸せの仕返しを受けた
...続きを読むときもそう。
一番好きなキャラクターはウェミック。シティ(ロンドンの仕事場)にいる時はカリスマ弁護士ジャガーズの有能な秘書として自分を出さずに淡々と仕事をこなしているのに、ウォルワースの城(郊外の自宅)へ帰ると全然違う。城の前に跳ね橋を付けたり、毎日決まった時間に大砲を打ち鳴らしたり、居間のドアに楽しい仕掛けをしたりして、シニア(父親)との穏やかでユーモアに満ちた生活を楽しんでいる。郵便ポストのような口を開けて食事をし、やることがミスター・ビーンみたいに面白い。「ちょっとした散歩に付き合って下さい」とヒップを連れて歩いた先にたまたまのように教会があって、その中にウェミックの花嫁が待っていた。この憎らしいくらい気の利いた演出の、でもささやかすぎる結婚式の数少ない参列者のなかにヒップを選んでくれた。弁護士事務所のクライアントであるヒップに私的にはそれくらい友情を抱いていたというところに心が温まる。
カリスマ弁護士ジャガーズもその強面と仕事での断固とした態度の裏には依頼人の人生について人知れず深く考えていて素敵。
英国人って恥ずかしがりやなんでしょうね。
そして、誰よりもヒップの本当の恩人…。人の価値は見かけや生まれや育ちで決まるものではないのですね。
「プライドには色んな種類があると思うの」という、上巻でのビディの言葉が印象的でした。
イギリスは階級による格差がはっきりしていると言うけれど、そこを超える冒険をしたヒップを通じて“本当の善とは何か”というのを考えさせられ、読者としても成長したと思います。
笑いもサスペンスも冒険も教育もあるエンターテインメント小説でした。