菊池寛のレビュー一覧
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役になりきる
名優と言われる役者は役に没入するために体型 容貌 言動 そのすべてを役にあわせる と言われるが、作者菊池寛は、その典型例 極端な例を描きこんでいる。作品の最後の部分、女の死を振り切って舞台へ向かう主人公の振る舞いが役者としての「業」を象徴していて大変に印象深い。
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祭り上げ
福祉制度が整い心身障害者が比較的まともに生活できるようになったのは、ごく最近のことである。それまでは家族の重い負担になっていたはずである。この物語のような話もきっとあっただろうと、リアル感を持って描きだされている。民衆の間で「義民」と英雄扱いされた人々の中にも、このような例があったのではないかと想像される。
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なんとも残念
幕末の最後の動乱期の悲しい話である。生死のあわいに立った人間の判断の困難さ 是非を比較的抑えたタッチで、しかしくっきりと描き出している。残念な結果になったことが、更に読者にとって印象深くしている。きっとフィクションなのであろうが、リアル感に満ちている。題名がイマイチな気がする。
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些細なことが
有名な吉田松陰の密航失敗事件を取り上げている。菊池寛の歴史モノには、定説通りのものと斬新な視点から描いたものの二種類があるが、この作品は後者の好例である。もしこの時、密航が成功していたら、松下村塾は開かれず、維新の英雄たちも随分と違ってきただろう と歴史ifを想像して面白い。
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人生の皮肉
自殺者を助ける副業をしている女が自らも という大変に皮肉なめぐり合わせを描いている。語り口の中に抑えたユーモアが含まれているのがとても良い。短い作品ではあるが、私は作者菊池寛の数多くの作品の中でも名作と言えると思っている。
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なにが幸せか?
鬼界ヶ島に流された俊寛が流人が自分一人になったあとも、ロビンソンクルーソー的な生活をして家族も持って生き続けるとあっても不思議ではない物語である。終盤のはるばる訪ねてきた都人と、俊寛自身の感じ方の対比が実にくっきりとしていて印象的である。なにが幸せか?を考えさせられる名作である。
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迫真のリアル感
阿弥陀経で説いてあるとおりの極楽へ行けた夫婦が、退屈しきってしまって...という話を、迫真のリアル感を以て描き出している。「隣の芝生は」の究極のたとえである。作者菊池寛は、このような冷徹な味方ができる作家だったんだな と認識を新たにした。
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人の幸せとは?
知的障害を持った人の幸せとは?ということについて正面から描いた短編戯曲である。現在でも知的障害者は敬遠され気味であるが、ましてや菊池寛の時代では「狐憑き」と言われて爪弾きにあっていた。その時代にこのような作品を書いた菊池寛に敬意を表したい。
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フルヘッヘンド
フルヘッヘンドに象徴される、パイオニアの苦しみと喜び を小品の中に鮮やかに描き出している。中学校の国語の教科書に出てくるほど有名な「蘭学事始」であるが、流石に菊池寛は杉田玄白の前野良沢に対する複雑な感情を視点を変えて描いている。拙速か巧遅か 現在でも様々な決断につきまとう問題である。
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古さを感じさせない率直さ
生まれたときから忖度され続け、真の意味の自尊心 アイデンティティを見出すことができない青年藩主の悲劇を描き出している。朱子学的な忠義に縛られた家臣群が更にそれを助長してしまっている。現在の日本においても皇室関連の人々が、忠直卿と同じような心情を抱いてしまっているのではないか。100年以上も前の作品なのに、作者菊池寛の筆は近代人としての忠直卿の心情を古さを感じさせない率直さで描き出している。
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まず形から入る
ハロー効果 というか 人は見た目が9割 というか、外見の持つ力 威力 そして怖さを十分に感じさせる作品である。昔 高校の国語の教科書に乗っていたので印象に残っている。最近の、反ルッキズムという運動 活動を考えると感慨ひとしおである。
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芥川賞と直木賞の創設者であり、文藝春秋社の創始者である菊池寛の長篇小説。
園遊会に招かれた華族に生まれた若い恋人達が、拝金主義の主催者の男と口論になり、お金こそ全てと信じて疑わないその男は、侮辱された恨みを晴らすため、女性の父が金策に窮することにつけ込んで罠に嵌めます。
追い詰められた女性は、恋人と引き裂かれて、憎むべき男と愛の無い結婚を選ぶことに。体を許さぬうちに、その男も亡くなりますが、美貌の未亡人を世の男性たちが放っておくはずも無く、サロンと化した自宅に集う男たちを翻弄することが常態化していきます。そのような様子から、しだいに妖婦と言われるようになりますが、はたして彼女の本当の心の内は -
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長さを感じず、あっと言う間に読める。面白い。
人間の表裏一体な感情が見事に描写されているように思う。特に女性の揺れ動く様々な感情が、さらけ出したくないのだが良くわかる。菊池寛、男なのに恐るべし。
人の感情は常に揺れ動く。しかし信念、信条をもって覚悟を決めれば揺るぎない人になれる。瑠璃子しかり、信一郎しかり...
この時代ならではの事情で、自分の思い通りにいかない結婚になった瑠璃子だが、揺るぎない覚悟は相当だったのではないか。自分の信念を貫くのか、人としてどうかという道徳。相反するときにとる行動は?
人としてを選んでいる私。そして常に不満を抱いている私。
瑠璃子は、芯があり、最高の美貌を -
Posted by ブクログ
「瑠璃子」さんにどんどん魅かれて、読むスピードも早くなってあっという間に読みきってしまった作品でした。本当に男性が書いたのかと思うような女性目線の作品です。時代設定もあるからか、男性と女性の価値観に関して、当時の社会や文化を知ることもできる。男性優位の社会のなかで、このような強い女性を描かれているので、時間が経っても色あせないので、今でも読まれている作品なんだと思いました。
最後のほうの主人公が瀕死状態のときに現れた昔の恋人とのシーンが忘れられません。唯一本当の主人公の姿を知っている昔の恋人への最後の笑顔を塑像すると、彼との約束を守ったことを無言で伝えたのではないだろうかと思えてきました。 -
Posted by ブクログ
ストーリーの展開を含めて、ぐいぐいと惹きこまれていく。
大正時代の小説、古臭い小説、との先入観を持つ必要は全くない。いや、大正時代だからこそ、新たな価値観の萌芽の時代だからこそ、男女の価値観において、このような興味深い小説が書けるのかもしれない。
女性の生き方、フェミニズムをテーマにしているのだが、今でも色褪せないテーマであるし、考えさせられることも多々ある。
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「男性は女性を弄んでよいもの、女性は男性を弄んで悪いもの、そんな間違った男性本位の道徳に、私は一身を賭しても、反抗したいと思っていますの。今の世の中では、国家までもが、国家の法律までが、社会のいろいろな組織までが、そうした間 -
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しかし、白蓮さんを重ねて読むのでなく、これはこれで小説として読むと、本の厚みの割りに、ドンドン読み進められ、先の気になる内容で、本当に面白く読んで良かった1冊です。