菊池寛のレビュー一覧
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「マスク」
大正時代にスペイン風邪が大流行したとき
その予防法として、やはりマスク着用が推奨されたらしい
しかし第一波の疲れが出て
第二派の到来するころには、もはや誰もマスクをつけなかった
そんなおり、筆者は野球場でマスクをつけた選手に出会い
なぜか不快さを感じる
「神の如く弱し」
師匠の娘に振られたことを根に持ち
小説のなかでさんざんにこき下ろしたりしたものの
スペイン風邪にやられて寝込んでしまったとき
師匠の家から親切な言葉をかけられ
それでやっぱり泣いてしまう
そんな男の、天然ダブルスタンダードを前にしては
情けなさよりも、むしろ恐怖が先に来るのだった
久米正雄がモデルの話だろう
師匠は夏目漱石である
「簡単な死去」
風邪にやられて新聞社の同僚が死んだ
実家とは縁が切れており、友人のひとりもない彼は
死んでなお周りの人に嘲笑されてしまう
死んだ彼も皮肉家で、世間を嘲笑してばかりだったが
しかし裏表のない人ではあった
「船医の立場」
吉田松陰が黒船におしかけたさい
船内には、これを擁護して
アメリカに同行させようという声も強くあったのだけど
船医の意見で却下されたという話
その時、松陰はたまたま疥癬にかかっていたため
防疫の観点から、渡航は認められないとする理屈だった
結果、吉田松陰は船を降りたのち処刑され
船医は自分の判断を悔やむことになる
「身投げ救助業」
明治時代、琵琶湖から京都に水をひいて、川が造られた
それが一時期、自殺の名所になっていたらしい
平安神宮に近い橋の下で商いをしていた婆さんは
自殺者を救助するたびに警察からの謝礼金を受け取って
ひと財産を築き上げるほどだった
ところが、その財産を娘に全部持ち逃げされてしまい
自分が川に飛び込んでしまった
「島原心中」
ここでいう島原は、京都にある花街のこと
その島原にあるおんぼろ遊郭の二階で、心中事件が発生した
取り調べに出向いた検事は、生存した男を巧みに誘導して
自殺幇助の罪を白状させた
それで内心得意になっていた検事だが
死んだ女に病の痕跡があることを知り
やむを得ない自殺の幇助がなぜ罪になるのかと自問する
「忠直卿行状記」
越前守松平忠直は、大阪夏の陣で大手柄を立てた武将だった
しかし甘やかされて育ったため、やや癇の強い性格だった
あるとき行った槍の仕合で
相手が手加減したことを偶然にも知ってしまい
そこから、孤独を感じるようになって
狂気におちいった
菊池寛の代表作のひとつである
「仇討禁止令」
幕末時代、讃岐・高松藩は佐幕派であったが
先導役の家老が何者かに暗殺され、じきに尊皇派へと鞍替えした
維新の後、暗殺者は東京に出て出世し、判事になっていた
彼は、家老の娘と婚約していたのだったが
心に隠した暗殺の事実が重荷になって
娘から逃げるように上京したのであった
しかし数年たって
そろそろ彼女も別の家に嫁いだろうと思ってた矢先
当の彼女が、弟をともなって上京してくる -
Posted by ブクログ
短編集で「スペイン風邪をめぐる小説集」を集めたもので
「100年前の日本人は、疫病とどう戦ったのか?」
というこんなご時世柄、文春文庫さんが文庫オリジナル版を編みなさったわけ。
「マスク」「神の如く弱し」「簡単な死去」「船医の立場」「身投げ救助業」「島原心中」「忠直卿行状記」「仇討禁止令」「私の日常道徳」
「マスク」
見かけは太っていて頑健そうに見えるが、実は弱いからだなんだ、と菊池寛らしい主人公は言う。何ですか、太っていたら成人病予備軍だよ、と突っ込みたくなるが100年前はね、栄養を取るのも大変だったでしょうからね、みんなガラガラにやせていたし、美味しいもの好きの主人公、ガッチリ美食していたのだね。案の定「インフルエンザにかかったら死にますよ」とお医者様に脅かされて、だから用心してマスクは手放せない。外出も避ける。死亡者数の増加に憂える。あら、今とおんなじだ。しかし、暑いような初夏にはとうとうマスクを外した。まだまだ感冒は流行していると新聞に書かれているのに、みんなしていないし・・・つける勇気が・・・でもでも、ある日、人だまりの野球場でマスクをしている人を一人みつけたよ!さあ、主人公はどう思ったか?
「スペイン風邪流行」ネタなのは「神の如く弱し」「簡単な死去」くらいで「船医の立場」「島原心中」は広義の意味で病気もの、「忠直卿行状記」「仇討禁止令」は有名時代ものだし「私の日常道徳」は作家の矜持がわかり、菊池寛は人間性を突く、おもしろい短編を書いた作家なのです。 -
購入済み
漢字タイトルだと印象も変わる
児童書の大定番、みにくいアヒルの子。漢字だと随分イメージが変わるものですね。翻訳の言葉も大人向けのような気がしました。色々な鳥が出てくるんですね。
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ネタバレ2002年の昼ドラの時に、興味は持ったもののドラマを観ていなかったので、せめてと買った小説が積読でした。
北村薫の『円紫さんシリーズ』で、芥川をめぐる文壇の謎解きから、この作品に言及され、引っ張り出して読みました。
凄いですね、メロドラマの元祖?
何が凄いって、男性の筆によるメロドラマだから。
女性の怖さ、男の愚かさが余すことなく書かれているから。
そして、文庫版の解説が川端康成だから(!)
川端先生の解説の結びでは、通俗小説ながら家庭の読み物としての健康を保ったのは、瑠璃子の悲劇と処女性に同情があったからのように、瑠璃子が美化されているけれど、この時代ではそうだったのでしょうか?
この悲劇の一番の戦犯は、瑠璃子のお父様ですよね~
時代が変わったのを御存じない。
家計の「収」「支」というものをご存じない。
高い志のためなら、借りた金を返さなくてもいいと思っている。
それを取り締まる法律を、「悪い奴に味方している」と、父娘そろって罵倒するという勘違いぶり。
そして、鑑定のために預かった書画を勝手に…
結局、この時代錯誤没落華族は、金で娘を売ったのだ。
そして、瑠璃子様ですが…
この時代では、操を守り通したところが美点だったらしいですが、むしろ、世の中そんなに甘くないよと思ってしまう。
群がり寄る浮ついた男たちはともかく、知的障害のある義理の息子をして、その障害ゆえの一途な思い込みをあおり、利用し、ついには成り行きとはいえ父殺しまでさせた罪は重いと思う。
どんなに美化されようと、この結末しかあり得ない。
しかし、そんな所が王道メロドラマとして非常に面白かったです。
成金の娘でも美奈子さんは天使。
そして、A級戦犯、瑠璃子父は、金で娘を売って、自分はまだ貴族院議員として生きながらえているのでした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレドロドロの昼ドラでやっていたという真珠夫人。すごく刺激的な内容なのかしらとドキドキしながら手に取ったが、大正時代の作品ということもあり、とても美しい印象を受けた。
まず、文章の美しさ。椎名林檎の歌詞カードを読んでいるような仮名遣いの数々。日本語ってこんなに美しい言葉だったんだと、今改めて思い出す。
そして、主人公瑠璃子の心の清さ。悪女といっても、今の時代の悪女とは全く違う、品のある心は真珠のような悪女。
物語も、現代小説を読んでいる時のあの残酷な刺激はなく、最後にはホロホロと涙が流れてしまう程度の心地よい読み終わり。
昼ドラではかなりストーリーが変わって毒々しかったらしいので、是非原作を読んでいただきたい。 -
Posted by ブクログ
☆あらすじ☆
真珠のように美しく気高い、男爵の娘・瑠璃子は、子爵の息子・直也と潔い交際をしていた。が、家の借金と名誉のため、成金である勝平の妻に。体を許さぬうちに勝平も死に、未亡人となった瑠璃子。サロンに集う男たちを弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化した彼女の心の内とは。話題騒然のTVドラマの原作。
500ページ以上もあるかなりの長編だったけど
すらすら読み進められました。
大正、昭和の時代の女性は初恋を大切にしていたのだと
しみじみ思いました。
当時は初恋の人と結ばれて一生添い遂げることが
一番の幸せだったんですね。
面白かったので、再読したいです。 -
Posted by ブクログ
若手作家たちに活躍の場を、と私財を投じて雑誌「文藝春秋」を創刊、破格値で販売。新人作家のために芥川賞・直木賞を創設。作家の地位向上と権利の擁護、文壇の発展に尽力した漢、菊池寛。
……と、菊池寛の小説をひとつもまともに読んでいない私にとって、菊池寛は作家というより実業家の印象が強いのですが、人気作家だったのだそう。(現代では田舎の小さな書店では出会いが無く読む機会に恵まれなかったと言い訳。いずれ読む。)
この本を読んで、菊池寛という人物は根っからの実業家だったんだな、と感じた。実業家への道筋や苦労が書かれているわけではないのだけれど、深い深い土の中で芽を出すタイミングをしっかり見定めていた人のように感じられる。文学を広め文士を守り育てたいという菊池寛の情熱を読みたかったな。
お芝居や文学、大正時代の人々の生活など、私にもう少し知識があれば「おもしろかった」と言えたのかも。「興味深かった」「愉快だった」止まり。漱石批判には驚いた。
菊池が友人芥川龍之介のことを書いた『芥川の事ども』と、芥川が菊池寛のことを書いた『兄貴のような心持』収録。それぞれの個性が滲み出る文体の違いにドキドキした。
この表紙で『私の日常道徳』を冒頭に持ってくるちくま文庫さんのセンス、最高です。