紀田順一郎のレビュー一覧
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さすがに紀田順一郎さん
『日本の下層社会』(横山源之助)、『最暗黒の東京』(松原岩五郎)は何度も書棚から手にとっては戻し、戻しては手に取り、を繰り返していたのですが、ようやくそれらの一端に手を触れられた気がします。
今からほんの百数十年前の文字を持たなかった(持つことが困難であった)人々の「暮らしぶり」にはずっと興味関心を持っていので貪るように読み進めてしまいました。
ややもすれば「明治維新」とかなんとか、といった日の当たるところばかりが喧伝されてしまう世の風潮の中で、こういう「負」の側面にちゃんと光をあてて、歴史的史実を確認していくことは本当に大事だと思ってしまう。
権威者(権力者)に -
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貧困にあえいでいるのは、努力しなかったからだ――
そんな言いように腹が立ってしかたがなかったのに、それにどう反論すればよいのか、わからなかった。
また、私自身も心のどこかで、もう少し一生懸命働けば苦労しなかったんじゃないの、と思っていた節があったのだとおもう。
そもそも、貧困とは何なのか。なぜその暗い穴に陥ってしまうのか。
本書を読んで、ようやくその答えが見えてきた。
まずもって貧困とは当人の如何なる性質に寄るものではなく、ひとえに外因性、それは景気とよばれたり、資本主義だったり、病気だったり、ほんの小さな不幸の積み重ねだったり、また、無知によるものだったりする。
誰だって貧乏暮らしは -
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良い本。こういう本が読みたくて探している時に出会えたのでまた感動もひとしおです。
「中学受験 進学レーダー」という雑誌に「このほんがおもしろいよ」という題で連載していたものを纏めた一冊なのですが、まず第一にすごく子供(特に対象であるところの小学生)に向けて書いてあるんだよねえ。でもちっとも子供騙しじゃなくて、子供だからと言って容赦もなくて、ありふれた言い方だけど大人が見ても読みたい!と強く思わせてくれる紹介の仕方なんです。
それもその筈、ここに紹介されている本はどれも著者が少年時代に読んで面白かったものだそうで、紹介がまた絶妙。正直あらすじの纏め方とか文章能力はフツーなんだけど、紹介する本 -
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明治から戦前の昭和初期まで、スラム街などで暮らさざる得なかった人々の実態を伝える良書。つい「最近」まで、日本はこんな状態にあったのか、と驚き、また哀しく・せつなくなります。
この本、スラム街に住んだ人々や、公娼・私娼や女工となった女性らの暮らした世界を膨大な資料から描いています。描かれる暮らしぶりは、あまりにも悲惨で人々が、その環境下で生きていられたというのが信じられないほどです。
知らない日本がこの本の中にはあります。
ただ、この本にあることは単なる「昔話」ではないと思います。この貧富の差が激しかった時代は、「格差社会」などと言われる現代と共鳴しています。
読むことで「今」を知ることにも -
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ネタバレ明治維新は我が国において「革命的」なできごととしてしばしば喧伝される。大局的には欧米列強に比肩する歴史的転換点であろう。この歴史的事実が放つ光が大きければ大きいほど、まばゆい光に隠されて見えなくなることも多いのではないだろうか。
『東京の下層社会』はタイトル通り、革命的なできごとが放つ光に隠されて、あまり語る者の多くない場所を手燭の光を灯すようにしてかき集めた当時の社会ルポである。この分野の記録はそう多くないだけに、記録的価値は高い。著者は先人の手になる記録を参照しながら検証を進めているが、その記録が貧民窟(スラム)に暮らす人々に紛れ、実体験をもとに描かれたものだけに今読んでも臨場感はいや増 -
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明治~昭和の大戦中までの、東京周辺の貧困層の生活と、娼婦や女工の経済的および社会的な立場というものを、過去の文献から解説する論文。
東京墨田区あたりの長屋もしくは木賃宿に住む労働者は、風呂にも入れない劣悪な生活をしていたことを、新聞社の記者が変装してレポートする。また、私娼や紡績工場の経営者はヤクザまがいの立ち回りをして、女性たちを逃げられない様がんじがらめにした挙句、ボロ雑巾のように利益を吸い上げていく。
新潮45という、悪趣味な雑誌に載せていたレポート記事だけあり、残飯をすするような嫌悪感を抱かざるをえない表現がたくさん出てくる。しかし、単なる一次的なインタビューや、過去の論文の丸写し -
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過去の東京に存在した恐るべき貧困の実相を探るのが本書の目的である。帝国主義の時代を脱していなかった当時の国際社会にあって、日本政府が福祉政策に舵を切れなかった事情については、ほとんど考察と言える考察はないが、むしろそういった考察があっては、スラムの実態に対する切込みは甘くなる。本書は、その意味で、贅肉をそぎ落としたスマートなつくりになっている。
本書に描かれたスラムの実態は、現代人の感覚からすると、およそ想像もつかないほどひどい。「残飯」の流通一つとっても、考えただけで吐き気を催すほど。もらい子殺しや娼婦、女工の虐待など、現代社会のどんな凶悪事件と比べても、その残虐性、凶悪性は比類なきものがあ