池田信夫のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
いつもブログを読んで勉強させてもらってる池田信夫氏の新著。
ハイエクといえば、一般的にはケインズに対置される存在の人物として理解されているのではないかと思います。
政府支出による有効需要創出を唱えたケインズに対して、サッチャーやレーガンによる「小さな政府」を志向した新自由主義思想の後ろ盾となったハイエク、というイメージがあるのではないかと。
そういうイメージで捉えると、昨今評判の悪い「市場原理主義者」の教祖みたいに思われてしまいそうですが、ハイエクの思想は決してそんな単純なものではない。
ハイエクの思想のうち、自分が最も共感するのは、人間の不完全性を認めた上で、理論で社会をコントロールしよ -
Posted by ブクログ
アダムスミスから受け継がれる市場経済に立脚したハイエクの思想と、それと対峙した社会主義やケインズ主義を中心に主要な経済学思想との比較を論じている。
当初は、異端であると考えられ評価されていなかったハイエクの自由主義的経済は、既に現在の米英的な資本主義経済を中心とした先進国経済の活動の中核的な理論となり主流となっている。
また、フリードマンを中心としたシカゴ学派による定量的なアプローチによって経済学の前提は、自己の利益を最大限に追求する個人としての経済人であり、これが経済学を現実の社会から乖離されている。ハイエクはこうした経済人的な個人の前提を否定し、人間は常に合理的な判断をすることができな -
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経済学の基本も学ぶことができる内容だった。
ハイエクの思想は、ウィーンに生まれたことで大陸の遺産を受け継ぎ、英米に移住することで新しい世界と交わってできた。市場経済を擁護し、歴史の進歩を信じる理論のようでありながら、近代の合理主義を否定し、人間の無知を前提に置く。
ハイエクはオーストリア学派に分類される。その創始者のメンガーは、価値が消費者の必要で決まると考え、その心理に依存する相対的なものと考えた。市場の機能を高く評価する点ではシカゴ学派がその伝統を受け継いでいるが、シカゴ学派が新古典派の均衡理論を取り入れているのに対して、オーストリア学派は人間の非合理的な行動を分析することに注目した。 -
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池田信夫さんの本は久しぶりに読んだ。著作自体も久しぶりなのではないだろうか。SNSやブログでの発言はずっと目にしているので、その主張には違和感はない。本書は、「戦後の政治史を追って、自民党が一貫して多数派に迎合するポピュリズムの党だったことを明らかにする」というものである。「財政や社会保障を考えるうちに、その根幹には日本の政治システムの欠陥があることに気づいた」からだという。その欠陥は結局は日本に蔓延する「無責任の体系」といっていい。
戦後の政治史を追った、ということだがざっくりと書くと、60年安保闘争などの結果による左翼による政治争点の矮小化、田中角栄が利益誘導のばら撒き政治のシステムを確 -
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マルクスの『資本論』や『経済学批判要綱』を、現代のグローバル資本主義に対する優れた分析として読みなおし、修正を加えるとともに、マルクスの提出したアソシエーションはグローバル資本主義に対峙するための有効な処方箋とはならないとしてこれを退け、将来の世界経済および日本社会について考察を展開している本です。
著者自身が「はじめに」で「本書の理論的コアになるのは第一章の後半の企業理論(不完備契約理論)だ」と語っています。ここで著者は、労働者が窮乏化するというマルクスの予想が外れたと断じ、オリバー・ハートの指摘に従って、資本家と労働者の間の権力の配分メカニズムに資本主義のもっとも大きな問題が存するという -
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80ページほど。分厚いピケティの『21世紀の資本』を開設してくれる。忙しい人には、この解説本だけで良いのでは?それくらい、分かりやすい。
資本主義の根本的矛盾 r>g つまり、資本収益率が必ず成長率=国民所得の増加率を上回るため、格差拡大傾向を持つという矛盾。技術移転に格差縮小の効果があるが、資本蓄積は格差を拡大させる。この格差傾向を是正するには、グローバルな課税が必要であり、タックス・ヘイブンに資本逃避されると、上位層の所得が捕捉できない。
格差の大部分は同世代で起こっており、それは遺産相続によって拡大再生産される。この相続効果が現在の不平等の最大の原因だ。また、ハーバード大学の親の平均 -
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官民問わず意思決定不全による失敗を繰り返してきた日本の歴史を神話や古事記の時代から振り返り、丸山真男や山本七平といった過去の学者や思想家による論考も引用・解釈しつつ、「空気」という概念を軸に問題の本質を明らかにした集大成的な日本人論。
著者は、日本が地政学的な特性によって、歴史的に外部からの侵略をあまり受けることなく技術や文化の吸収に成功した一方、農村共同体に端を発するボトムアップ型利害調整メカニズムも時代を越えて温存されてきたため、国や企業がタコツボ型・部分最適思考に陥り、責任の所在が曖昧な「空気」による意思決定が今日もまだ横行していると主張する。
その解決策として、著者の持論で