瀬川拓郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレこれまで読んだアイヌ学(?)関連の本は、おそらくインターネット以前のものだったためか、どうしても今ひとつ情報源が少なく不明点も多かった気がする。それに対し、本書は、より新しい多くの論文や情報を丁寧に組み合わせて立体的に論を展開することに成功していると思う。
本書は「アイヌ学入門」という、とても広いタイトルになっているが、網羅的な学術入門書になっているかと言えば疑問が残る。とはいえ、時代的にはとても広くカバーされ、研究報告はワクワクさせてくれるし、現代アイヌの章も、示唆に富んで意味深い。新しく豊富な興味深い内容だけでなく、歴史へのロマンやマイノリティー問題も感じさせてくれる私のイチ推しの書であることは間違いない。
内容は、大胆にもアイヌと縄文文化や縄文人の関係から始まり、古い時代からアイヌの歴史のさまざまな内容を説明する。一応は時系列に説明されるが、様々な内容が、往々にして章をまたぎながら展開することにもなるので、少し戸惑う。
大和政権以後の和人中央政権とアイヌの関わりが、思いの外深くつながり、中でもアイヌの宗教儀礼な宗教的な用語に深く和人文化・古代日本語が関係していたことに驚いた。私はアイヌがもともと東北地方からサハリンまで広く居住していた民族で、もしかすると大陸に起源があるのかもしれないとさえ思っていた。ところが、縄文人を起源としてアイヌはそもそも北海道が拠点で、北海道からサハリンに進出したことも初めて知った。東北地方のアイヌの語地名も、アイヌが北海道から南下してから生まれた地名だということも驚きだった。東北地方の日本海側から北上するアイヌと、東北地方の太平洋側から北海道東・千島へ拡大するアイヌ、というダイナミックな民族移動も初めて知った。とても興味深い。
さらに、早くも10世紀に修験者が北海道進出していたり、さらには5世紀の古墳時代にさえ渡来人が北海道に鉱脈探索に来ていたらしいことにも驚いた。
ただ、アイヌと大陸や北方アジアとの山丹交易、オホーツク人、トビニタイ文化については説明が少ない気がする。日本の論文・文献だけではカバーできず、また、中国やロシアでは少数民族の研究は盛んではなく、政治に左右されて公開されない情報も多いのかもしれない。
第7章とあとがきの、アイヌと和人と金の深い関係はとても興味深く読んだ。これまであまり論じられなかったことだとのこと。著者が様々な論文・文献を駆使し、実際に現地で金を発見して考察する文章は、ロマンを感じさせてくれて実に爽快。
第8章は、他の章が著者が積み上げてきた研究とは異なり、考えさせてくれるドキュメンタリーとして読んだ。
P.S.
第8章は、ほぼ全部が1961年旭川生まれのアイヌ女性Aさんへのインタビューが一人称で語られる。Aさんは私よりはんの少し若く、年齢が近いのでより一層身近に感じられる。両親はアイヌで非常な苦労をしたけれども、旭川でこれくらいの時期に生まれた人は、いじめや差別を受けたことはあまりなかったらしいと知って少し安心した(平成23年(2011年)の調査で差別を受けたことがない人36%、自分または知人が差別を受けた人33%)。とはいえ、アイヌを恥ずかしいと思う心や、アイヌと言われることへの恐怖心は、28歳の転機(アイヌ民族文化祭)が訪れるまで持っていた。
アイヌを恥ずかしいと思う気持ちが生まれた原因について、(差別よりも)親や大人のアイヌの態度から恥ずかしい気持ちが生まれたのだと知った。平成23年調査では、アイヌではない知人・友人に加え、教師がアイヌがいやだと感じる原因になっている。
和人から「アイヌなのに頭がよい」と陰で言われたことに対して、「アイヌは頭がよいと感じた」と言っている言葉には、少し共感した。漢字を使い始めた日本人と比べ文字のない文化を1500年ほども経てきた民族なのだから、遺伝子に記憶力の良さが刻まれたのかもしれない。
アイヌ語を学び出したAさんは、「お前のアイヌ語は本物ではない」「いい気になるなよ」と言われてアイヌ語の活動から距離を置くようになる。これは悲しい話。それは間違ってる!と言いたい。なんだか思い当たることもある。アカデミズムの中心にいると思い込んでいる学者とか、自分こそが正しいアイヌ語を広めなくてはならないと思い込んでいる人たち、つまり、思い上がった人たち(あなたこそいい気になるな!)が想像できてしまう。
「人には役割があります」という言葉、これはあちらこちらで語られる有名なアイヌ語の言葉のことだと思う: カント オㇿ ワ ヤㇰ サㇰ ノ アランケㇷ゚ シネㇷ゚ カ イサㇺ(天から役目(役割)なしに降ろされたものは、ひとつもない)。とてもいい言葉じゃないですか。
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購入済み
知らなかった日本史
縄文文化の流れ、北海道からサハリン、アムール川流域、カムチャッカ半島までの広い文化圏と民族の動き、殯の風習など一冊で知ることが多く、日本史の見方が変わりました。素晴らしい力作だと思います。
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購入済み
縄文びとが残したもの
過去の民俗学や文化人類学の遺産である民話や伝承と、最新の考古学が合わさって、雄大な物語を読むように感じました。日本人の起源がアイヌと不可分であること。海民の旅のスケールが昔から非常に大きかったことなど有史以前の世界が目の前に蘇るようです。
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Posted by ブクログ
貧富の差のない縄文時代に、農業がもたらされて弥生時代が始まった。こんな直線的な理解を打ち砕く名著。
南方から渡来した原日本列島人=縄文人のもとに農業がもたらされる。縄文人は農業を部分的に受け入れ、渡来人と混血しつつも沿岸部を拠点とする「海民」として幅広い交易で繁栄する。縄文と弥生は長く併存するのだ。
沖縄とアイヌの共通の文化的属性、DNAの解析、山陰と東北の言語的共通性などから「日本人の源流」が浮かび上がる(ここで、奥出雲弁と東北弁が非常に似ている、ということが推理のカギとなる松本清張「砂の器」を思い出す人はするどい)。
日本各地の神話で、海にある洞窟はなぜ山の頂上につながっているのか。そして美しい姫が黄泉の国で醜い姿になっているのはなぜか。著者はこうした点を丹念に分析し、海の民が農耕系王朝に駆逐されていく過程を描いていく。
本来の(美しく多様な)日本像を実感できる本。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ漂海民は魚などが銭で変われることを好まず、陸上の知人に贈り物として与え、その返礼として催事に招待をしてくれることを良しとし、そうした関係を親戚とよんでいました。この親戚は、漂海民にとっての疑似親族、中立地帯であり、彼らはこの親戚を通して外部の商品経済との関係を保とうとしていた。アイヌが守り通そうとした縄文思想とは人々を親戚として結びつける連帯の原理であり、商品交換を忌避したのは、それが人々を不平等化し差別化していく原理だったから。縄文の思想を知る意味とは、非対称化していく歴史のなかで原郷の思想である連帯と平等をかたくなに守り通そうとしてきた人々が今なお私たちの目の前にいること、さらには漂海民のようについ最近まで私たち自身のなかにもいたことを通して、その意義に今一度おもいをめぐらせてみる。
ここまで新書1冊で来られる。なんとはるかに。 -
Posted by ブクログ
アイヌとは北海道に孤立した民族だと思っていた自分には衝撃的な本。
古代から和人・渡来人・大陸とグローバルに交流し、交じり合い、影響しあう人々の生き生きとした姿が描かれます。
アイヌの風俗に和人が及ぼした影響、義経伝説の影響、日本語起原のアイヌ語、驚くべきアイヌの躍動する姿。いやあ、知らなかったことばかり!
それにしても、現代でもアイヌがおかれた厳しい状況、貧困、学歴といった問題にも驚き。こういったことはある意味隠されているんだなぁ。
ただ、内容は筆者の仮説にとどまるものも多く注意が必要です。
アイヌとはどのような人びとか
縄文―一万年の伝統を継ぐ
交易―沈黙交易とエスニシティ
伝説―古代ローマからアイヌへ
呪術―行進する人びとと陰陽道
疫病―アイヌの疱瘡神と蘇民将来
祭祀―狩猟民と山の神の農耕儀礼
黄金―アイヌは黄金の民だったか
現代―アイヌとして生きる
第3回古代歴史文化賞
著者:瀬川拓郎(1958-、札幌市、考古学者) -
Posted by ブクログ
考古学者が、縄文人の生き方を律した思想、あるいはかれらの他界観や世界観といった、生々しい観念の世界に新たな発想・アプローチの仕方で、われわれ日本人の鬱なる「縄文性」に迫った著作です。
その方法ですが、芸術的な感性などではなく、考古学と神話から具体的な資料にもとづいて縄文の思想を明らかにしたのです。
内容
はじめに
生き残る縄文/なぜ共通する神話/伝説があるのか
周縁・まれびと・修験者/アクチュアルな生の思想
なぜいま縄文なのか
序章 縄文はなぜ・どのように生き残ったのか
第1章 海民と縄文――弥生化のなかの縄文
1 残存する縄文伝統
2 海民の誕生
第2章 海民とアイヌ――日本列島の縄文ネットワーク
1 海民のインパクト
2 交差する北の海民・南の海民
3 離島の墓に眠るのはだれか
4 謎の洞窟壁画
第3章 神話と伝説――残存する縄文の世界観
1 共通するモティーフ
2 他界の伝説
3 縄文神話とその変容
4 伝播した海民伝説――アイヌの日光感精・
卵生神話
第4章 縄文の思想――農耕民化・商品経済・
国家のなかの縄文
1 呪能と芸能
2 贈与と閉じた系
3 平等と暴力
4 動的な生へ
おわりに
ですが、日本の歴史、弥生〜商品流通経済・現代なのですが、縄文人が培ってきた日本人の原点は現代の日本社会に必ずや残されているはずだという私の思いにこたえてくれる素晴らしい本でした(感謝)。 -
Posted by ブクログ
おもしろい!
サブタイトルの通り、「もうひとつの日本の歴史」が鮮やかに描かれている。
ひとつひとつ実例を混じえ論理を積み重ねていきつつ、
全体としてとてもダイナミックな構成となっている。
古代から中世にかけて日本にに数々の民族が存在したことを、
恥ずかしながらよく知らなかった。
彼らの文化、言語、DNAが今の日本人とどうつながっているのかなどは、
非常にわかりやすく興味深い。
また、交易や埋葬についてはかなりページが割かれており、
その民族の文化の中で相当重要な位置を占めていたこともわかった。
複雑な話をここまでわかりやすく描ける筆力もあるのだろう。
アイヌや縄文というキーワードだけでなく、民族、文化、精神性などに興味がある人には広くおすすめしたい。 -
Posted by ブクログ
アイヌと縄文 瀬川拓郎 ちくま
同じ縄文人を祖先に持つからと言って
2千年以上も異なる歴史を歩んできた私たちは
互いに補い合う精神的な文化を選んだアイヌと
権利を主張し合い知識による文明を目指す弥生文化を選んだ本土人を
同一視することはできない
しかし現代の日本人として縄文的精神文化を振り返り
彼らが大事にしてきたお互いの関係に自主的な参加をする全体感という
総合的な生き方を取り戻すことが可能なのだとつくづく思わされた
それにしてもアイヌと一口に呼べないほどこの二千年は多様であり
意思を貫きながらも生き延びるために
互いを補い合う譲渡の文化と駆け引きによる交易の二刀流を使い分けた
したたかさに頭が下がる
所有意識がもたらした侵略という競争に依存する行為が
物的な文明の促進のみを目的にする視野の狭さを
育ててきたことの愚かさに気付かされる
そろそろ欲ばかりでなく自主的な選択で
前向きなしたたかさを手にして私達も
墓穴の中から這い出すことが大事なのだと
この本で学ばなければならない峠を向かえているのだと思う -
Posted by ブクログ
“アイヌ”というのは、壮大な交易を行っていた人達で、アイヌが伝えてきた様々な文物には、古来からアイヌが自身で産み出しただけではない、日本等の隣接する他文化の顕著な影響を認めざるを得ない部分も在る。また日本で古来から珍重された様々なモノの中には、アイヌがもたらしたと考えられるモノも実は色々と在るという。そんな物語を考古学や近年の歴史研究の成果を踏まえて綴ったのが本作である。アイヌは文字を持っておらず、文書記録が「間接的なモノ」になってしまって限定的なので、「北海道辺りの歴史」にはマダマダ“不詳”、“不明”が多いことが否めないのだが、そういう部分を埋める様々な物語が本作の中には在る。
アイヌが壮大な交易の中に生きた民であったという物語が、本書には判り易い型で収められている。「必読!!」という感…面白かった!!