桜木紫乃のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
おすすめ文庫王国2022からのチョイス(って、いつの話だよ)、恋愛小説ベストテンの第8位(この微妙な順位のどこに惹かれたのだったけな)。
定職を持たず時々入る映写技師の仕事をしながら映画評論や脚本を書いて暮らす信好40歳と、昼夜の看護師を掛け持ちして彼を支える紗弓35歳。
親ともあまり関わらず近所付き合いもないような二人だけで暮らす世界で、甲斐性のなさに後ろめたさを持つ夫と、そんな夫の屈託を理解し彼の心に踏み入らない妻。
それぞれの心の中にある小さな棘や夫婦であっても相手に話さぬ気遣い話せぬ秘め事、そうした夫婦の微妙な心根と日常が交互の視点で描かれていく。
仲の良い、健気な夫婦の話は、悪い話ではないが、二人の間柄が年齢の割には青臭い気もして、あまり私の気持ちには入ってこなかった。
寧ろ信好の中の、母が逝ってから時間が過ぎた後に『つくろいたいあれこれが、胸から溢れて』きたり『ただ疎ましかった通院の付き添い、実家通いの際に感じていた焦りが一気に押し寄せて』きたりする心情のほうが、久し振りに実家で母の顔を見た今の私には沁みるのだった。 -
Posted by ブクログ
著者在住地が舞台となっています。実際にあるビストロもそのままの名で出ていることから、何となくリアリティーを感じてしまいそうでした。
同級生のビストロでアルバイトをしながら小説を書き続ける柊令央。
新人賞に何度応募しても落選。しかし、ある編集者から声がかかる。期待して会うと、母親に対し、乾いた感情を持つ自分の親子関係を書いた小説を令央の胸をえぐるような短い言葉でダメ出し。でも、視点を変えてこの小説を書き直すことを勧められる。
何度書き直しても、表情も変えずダメ出しされるが、しがみついて書き続ける令央。
母親とはどういった人物だったのか、それを知るために母を昔から知る、そして自分も出産のときにお世話になった助産師を訪ね、知らなかった母親の姿を知るのです。
小説を書くことで、家族のことを理解し、見ないふりをしていたものに目を向ける。
1冊の小説を書く生みの苦しみというのは、凄まじいな、と感じました。そして、編集者の腕の見せ所、というか、優秀な編集者がいて、初めて読み手が面白い小説が書けるということがある、ということも知りました。
家族関係のことがテーマなのかもしれないけれど、私は、編集者と作家の関係や、本ができるまでの大変さの方が心に残りました。
2021/12/22 -
Posted by ブクログ
北海道・江別市に暮らす柊令央は、友人が経営するビストロ勤務で得る数万円の月収と、元夫から毎月振り込まれる5万円の慰謝料で細々と暮らしていた。いつか作家になりたいと思ってきたものの、夢に近づく日はこないまま気づけば40代を迎えた。
ある日、令央の前に1人の女性編集者が現れ、彼女は強い口調で今後何がしたいのかと令央に問うた。彼女との出逢いにより令央は過去に書いた自伝的小説の改稿に取り掛かることになる。理解しきれずにいた亡き母のこと、そして他人任せだった自分自身のことを見つめ直した果てに、令央はひとつの小説を書き上げる。
主人公の令央は作家志望の女で、作品の中で令央は小説を書く。令央が書いた小説の一部が時折挟まれていて、読んでいてとても不思議な感覚になる。なぜなら、どちらも主人公が令央だから。
何世代かにわたる女の小説的な作品が桜木紫乃さんはとても巧い。親子だからこそ知らないことがある。知ろうともしない事実もたくさんある。それで当たり前だと生きていたけれど、小説を書き上げるために令央は徐々に向き合い始める。
そうしているうちに彼女自身も気づかない内面の変化があり、周りとの人間関係が変化していく。良い風に変わった関係もあるし、悪い風に変わった関係もある。
自分と向き合う、ってどういうことだろうと考えたりする。よく使われる言葉だけど、向き合っているつもりでも自覚的に自分自身と向き合うことはなかなか難しい。つい「これでいいや」「こんなものだろう」と思ってしまうのが人間だと思うから。
令央はあまり良い女ではない。容姿という意味ではなく、生き方や性質にあまり賛同はできないという意味で。自分から逃げてきた結果、うだつの上がらない生活をしている。そしてひとつ秘密を抱えている。
だけどそういうところが「でも解る」という感じで共感も出来てしまう。どこにでもいるような人間にも、探ってみればひとつの濃い人生ドラマがある。
令央も、母のミオも、妹の美利も、編集者の乙美も、それぞれに一癖ある。
小説家が書く小説だからこそ、「小説を書くこととは」にスポットを当てた、ある意味でとても苦しい一冊なのかもしれないと思った。