桜木紫乃のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
北海道釧路市のラブホテルをキーとして進んでいく、
第149回直木賞受賞の連作短編集。
少しずつ、でも、確かに深みにはまっていくような読感。
初めの一篇はなんのことなかったのに、
次の短篇を読み進めていくことで重なっていくものがある。
「つらさ」、「悲しみ」とか「寂しさ」とか、
そういう言葉が陳腐になってしまう。
たとえ人生の中の短い瞬間であっても、
そこに感情の多層性、現実の状況・局面の多層性、関係の多層性などがあることを
作者はそのフィクション表現のなかでつまびらかにしているからだと思う。
ラブホテル業はうしろめたい商売です。
そして、この小説に登場する人々は金銭的にだったり人間関係的 -
Posted by ブクログ
「ルイカミサキに行かなくちゃ」認知症を発症した母の呟きから、自分の出生の秘密を知ろうとする娘。
海で亡くなった女子生徒を救えなかったという苦い思いを、定年後の今も抱えている元中学校教師。
一つの歌ひ引き寄せられ二人が出会うとき、釧路と根室、ふたつの地を結ぶ因縁が明らかになる。
拿捕、諜報船、抑留、遊郭・・・桜木さんの描く北の町の過去はいつも辛く、哀しい。
生徒を救えなかったけれど最後まで教師を貫いた父と、教え子に自殺され、教師であり続けられなかった息子。
書道教室を営む母と、それを受け継いだ娘。
それぞれの親子関係が切ない。
ラストシーン、涙香岬で何も知らされず海に花を手向ける娘が愛おしい