中路啓太のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
良いフィクションというものはジャンルに関係なく、今の人の生き方や世界の在り方を問うものもあるように思うけど、この『ロンドン狂瀾』も今の世界や人の在り方を問うような重厚な物語だったと思います。
上巻でロンドンでの軍縮会議を終え、話は国内へ。条約の内容を受け入れられない、日露戦争の英雄、東郷平八郎をはじめとした海軍関係者、政変を狙う野党、そして大きな影響力を持つ枢密院。
米英との軋轢を避けるとともに、軍縮による財政健全化と不況脱却のための減税を実現したい浜口内閣は、各方面に粘り強い交渉を進めていくが……
歴史的な記述の詳細さは上巻でも健在。特に天皇の政治的な部分に関しての当時の人々の思考の再現であったり、憲法解釈をめぐる攻防であったり、そこをめぐっての展開が丁寧になされていたと思います。
要所要所で感じられるのは、国益であるとか、国民を置き去りにしていく政治家たちの様子。政権交代をもくろむ野党は、国全体のことを考えず自分たちの権力拡大のために内閣を攻撃し、内閣は内閣で不答弁の戦術を繰り返す。今も昔も政治は何も変わっていない。
そしてメンツやプライドから妥協点を見出せくなっていく、海軍司令部や東郷平八郎。浜口総理大臣に対し、嫌がらせのような質疑を繰り返し、条約批准を防ごうとする枢密院。国益や、日本の国際的な立ち位置などを度外視し、自身の立場からしか物事を考えられない権力者たち。思想が凝り固まった人間たちの厄介さというものを、いやが応にも感じさせられる。
下巻では浜口総理大臣の姿が印象的。自身の命に代えても、国のため、国民のため条約を絶対に批准させるという信念がすさまじかった。それは軍部との対立だけでなく絶対的な力を持った枢密院との対立も辞さない姿勢にも表れていると思います。
小説によると、国内は不景気にあえぎ、上記したように軍部の反対論も根強かったものの、内閣や浜口総理に対する支持率は高かったそう。それもこの信念の強さや、国を想っての行動というものが、伝わったからではないかと思います。
だからこそ物語のラストの展開、そしてその後の日本のたどった道筋を含め皮肉というほかない気がします。1930年の軍縮会議もむなしく、その後満州事変、515事件や226事件で軍部の力は強まり、そして太平洋戦争へ。
こうした日本の流れも、この『ロンドン狂瀾』を読んでいると、すでに予兆はあったのだなと感じます。国民の政治家への失望と、一方で勇ましい軍部への期待。軍縮会議で掲げられていた協調と和平は彼方へ遠ざかり、日本は戦争へとひた走っていく。
最初に『ロンドン狂瀾』も今の世界や人の在り方を問うような重厚な物語と書いたけど、政治不信と救世主への待望は、アメリカのトランプ大統領をはじめ世界中で起こっているし、日本の政治不信ももちろん深刻な状態で、それが今と重なったからこそ、こう書いたのだと思います。
人は歴史から学ぶのか、それとも歴史は繰り返されるのか。
1930年激動の時代を描いたこの『ロンドン狂瀾』は、単に歴史上の出来事を小説に落とし込んだだけでなく、今の時代に対し問いかける物語でもあった気がします。 -
Posted by ブクログ
『人は上に昇れば昇るほど、濁ってゆかねばならんのだ――。』
『ロンドン狂瀾』の下巻の帯に書かれていたこの言葉にただならぬものを感じ、著者も作品の評判も満足に知らないまま購入しましたが、上巻を読み終えた段階では、その選択は大当たりでした。とにかく抜群の読み応え!
1930年、日米英など五大海軍国によるロンドンでの軍縮会議が間近に迫り、外務省の雑賀は軍縮会議への随員を命じられる。しかし会議の首席全権候補の筆頭である若槻は、困難が予想される会議で責任を負うことを拒否。雑賀は若槻の説得を始めるが……
米英との軋轢を避けるとともに、軍縮による軍事費の削減は、不景気に沈む日本にとっては何よりも必要なもの。一方で日露戦争の勝利後、発言力を増す海軍関係者は軍縮に対し、日本の主張が認められないならば、軍縮の条約を結ばないこともやむなし、と徹底的な反抗を示す。
一方で米英は日本の財政事情を知っていて、最終的には軍縮の条約を結ばざるを得ないと考えているため強気に交渉を進めてくる。
海軍の顔を立てつつ、いかに妥協点を見出すが軍縮会議の大きなポイントとなってきます。
歴史的な記述が多いので、最初は少しとっつきにくさは感じましたが、当時の国内外の政治や海軍の状況を詳細に小説に組み込み、話を展開していく手腕はとても巧く感じました。相当取材を重ね資料を読み込んでいることが伝わってくるし、それによってより読み応えが増している。
歴史的記述だけでなく人間模様も読ませる。国益、国民を第一に考え粘り強く交渉に臨む雑賀や若槻。二人に信頼を寄せる浜口総理の決意など、彼らの気概や、矜持もともても熱い。
当時は今以上に政治家の命が狙われることの多かった時代。それでも自身の命の危険すらも顧みず、国のため国民のため行動し、そして決断する。そうした彼らの心理も読みごたえの一つ。一方の海軍側の動きも詳細に描かれていて、内容はより濃くなっていきます。
発言一つで交渉が不利になり、共に会議にやってきた海軍側の人間は若槻や雑賀に再三圧力をかける。そして国内の軍関係者も不穏な動きを見せるなど、軍縮会議は波乱万丈の展開が続きます。
上巻でロンドンでの軍縮会議は終わるものの次に待つのは、様々な反対派が待ち受ける国内での条約の批准をめぐる攻防。
下巻も読みごたえのある展開が期待できそう。 -
Posted by ブクログ
中路啓太!
なんとも興味の募る作家に出会ってしまいましたよ!
この作品、すでに日本史でご存知のとおり、改革に失敗、老中の座を陥落した人。水野忠邦の改革の頃、その家臣でもある物集女蔵人が主人公。
主君の志を叶えるべく奔走、しかし途中でその甥、水野主馬の陰謀で島送りになる。
そこで出会ったヤクザ、源九郎と共に島抜けする。
改革に至るまで、そして頓挫し勢力闘争。
そんな中に再び身を投じる蔵人。
だが蔵人も源九郎も主君、水野忠邦側、その政敵側双方から追われる。
信じられるのは己の忠義の志。それは正しいと自惚れる武士の本懐。それを応援する妻。男、蔵人に惚れ込む商家の主人。
不器用な生き様を己の本懐のために命を削る男の物語は壮絶ですざまじい。
涙が何度も波のように繰り返し流れるのを我慢できない。
この作家、今まで時代小説作家が踏み入れない分野にも、名作が多いようで、これはたまらない! -
Posted by ブクログ
ここにも日本の恩人がいました。
吉川広家。
歴史好きといいながら、適当な時代や人物をつまみ食いにしてきたので、知らないことがたくさんあります。
吉川広家の父の吉川元春はよく知っていましたが、広家のことは名前くらいしか知らず(^_^;)
関ヶ原で動かなかった毛利勢という薄い認識しか。
毛利元就の孫同士、従兄の輝元が器をわきまえずに西軍の総大将に担がれ、毛利家は滅亡寸前。
そこを広家の執念で毛利の家名を守り通す。
領地は三分の一になるものの、関門海峡に沿う位置に毛利家を存続させたことは、260年後の明治維新につながる。
大河ドラマ「花燃ゆ」とつながるんですよ。
長州藩の城地を日本海側の萩に置くことになったのも関ヶ原の一件から。
偉大なる祖父、元就。
毛利の両川と言われ名将の名高い、父、吉川元春と叔父小早川隆景。
毛利家の伝説的存在の3人への劣等感から逃げていた彼が、叔父と太閤秀吉の死をきっかけに立ち上がり毛利家を守っていく。
う〜ん。
ここにも日本の恩人がいました。 -
Posted by ブクログ
日本の自虐史観に一石を投じていた。
西欧列強の植民地から解放してくれたと感謝するパラオ人との友情を軸に物語は構成されている。
これまで残忍な日本軍の本ばかり読んでいたので、新しい戦争への視点で興味深かった。(いばり散らす嫌な人物や、全体主義の空気も描かれながら、一般の日本の兵隊の善良さも描かれている。)
白人の奴隷であった有色人種の中で唯一一矢報いた日本。ということが強調されており、戦争しなければ支配されていたじゃないかと語られる。
植民地支配についても現地の発展に尽くしたと好意的で、パラオの日本人への感謝と憧れがベースとなっている話。
戦争の悲惨さもしっかり描かれており、戦前の日本人の美徳を現代日本と絡めて描いているが、決して今流行りのナショナリズムに帰結することなく、過去から目を逸らさず、明日を生きろというメッセージがよかった。
パラオのシゲルの人物像がチャーミングで素晴らしい。