奥村宏のレビュー一覧
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資本主義について、株式会社とは何かという点から解き明かす。起源のおさらいから理解できるので、断片的な知識も繋がり、本質的理解に有効。何より驚くのは、著者が80歳超えという点。本著を出版して間もなく逝去されるが、流石に歴史を踏まえた重みのある内容だ。
株式会社とは。株主が有限責任で、倒産しても責任を取る必要がない。出資額以上に損する事もない。倒産してしまえば良いのだから,借金踏み倒しで、好き勝手やれそうじゃないか。いや、借金は貸し手がいるから成立するのであって、貸し手も馬鹿じゃない。従い、債権者は、株主が支払った資本で購入された資産を担保に差し押さえる必要がある。つまり、資産状態を公開する義務 -
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不和を生まないための”予定調和の構造“が、権力の暴走を生む。
これはトップの暴走に限らない。例えば、若手同士がLINEで会社の嫌な奴の悪口を言い合う構図は、私の付き合いのある企業の方からもよく聞くし、ツールが違うだけで、昔からある事だろう。居酒屋での愚痴が、LINEやTeamsに変わる。また個人間だけではなく、集団同士も結局は予定調和の構造、寝た子を起こさぬような配慮が国の暴走を生むこともある。そこに通底するのは、相互不可侵条約のような自衛の構造だ。時にそれが相互確証破壊のようにエスカレートしても、暴走さえ止められていれば良いとも言える。
予定調和の構造が暴走を生む、そのメカニズムを本書が -
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会社はなぜ不正を行うのか。会社の利益追求と倫理観の対立、従業員の利益追求と倫理観の対立、無知や無能による過失の三点に大別されるだろうか。大企業の場合、従業員の不正を社長が関知していない事も多く、そうならないようなガバナンスが求められる。中小零細の場合はワンマン社長に抑制が効かない事もあるようだ。
利益追求が無条件の場合は虚偽、改ざん、公害、会計不正、贈収賄や談合もやりたい放題であり、法秩序による統制が必要。そう考えると、そもそもレッセフェールなんてあり得ない。スポーツがそうであるように、ルールは必須であるが、ルールがあるだけでは成り立たない。審判が必要だが、企業に対する審判機能が不在が脆弱か -
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ピケティに欠けている株式会社という視点、という副題がつけられている書籍で、実を言うともしかして、ピケティを読んでいなくても別の意味で役に立つ本かもしれない。株式会社の成り立ちのいきさつや、日本でたどった特異な歴史に触れられているからである。
読み始めると、株式会社について相当にながい記述が続く。また、著者の前身が記者で、そこで取材されたことや、目にしたことが、書かれる。あれ、と思うのだが、それは、もう、続く。株式会社が産声が上げた頃からの話だ。そして、それが実を結ぶのは、株式会社が、一方で株式会社の実質的所有者である株主の有限責任、つまるところ、株主は、買った株に出資した以上に責任を問われる -
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ネタバレエンロン事件、ワールドコム事件、ライブドア事件、プリンシパルエージェンシー問題、村上ファンド事件、利益相反など、近年の資本主義市場において起こった問題の理論的/歴史的背景を概観できる良書である。ある程度知識があった状態で、知識の体系化として読むのが良い。
主な論点は以下の通りである。
【エンロン/ワールドコムを粉飾へ駆り立てた構造】
・所有と経営の分離→プリンシパルエージェンシー問題→ストックオプションの導入による投資家と経営者の利害関係の一致(背景にはインベスターキャピタリズムによる株価上昇圧力の問題)→時価総額経営→粉飾へのインセンティブ増大
【各社の粉飾スキーム】
エンロン→SPE -
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「ピィティに欠けている株式会社という視点」という副題がなければ手にしていない本だったかも知れない(笑)。
しかしながら、奥村氏宏氏の経歴を知ることなり、楽しく読めました。
氏が、哲学書青年であった大学時代を過ごし、産経新聞の経済担当記者が「株式会社」をその後研究する市井の学者になっていったという件が面白かった。
また、一貫して「株式会社」の研究を継続されている真摯な態度に共感するものがありました。
機関投資家資本主義、会社が大きくなりすぎている、そして、法人としての会社が自然人を想定している刑法の枠外に位置することの理不尽さが書かれている。
宇沢弘文氏との接点があり、「シンクネット・センター2 -
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皮肉な話だ。
サミュエルソンの助手を務めたマートン。彼は、株式投資のオプション理論の論文で有名になった。数学の天才と言われた。サミュエルソンは合理的期待仮説を投機的な株式市場の分析に適用していったのだが、そこでマートンの協力を得たのである。サミュエルソンがマートンにこう言ったらしい。「若いの、もし君の頭脳がそんなに優秀ならば、なぜ君は金持ちではないのかね」マートンは元々自ら投資もしていたが、その発言をきっかけとしてか、MIT教授のポストを捨ててウォール街にとび込んだ。ところが、ロシアの通貨危機のあおりを受けて大損。自分たちで開発した金融工学の理論を実践して証券投資を行なった結果、大損したばか