【感想・ネタバレ】トップの暴走はなぜ止められないのかのレビュー

あらすじ

私はほぼ半世紀にわたって株式会社の研究を続けてきたが、そのなかでいま世界的に株式会社が危機に陥っているということを認識するに至った。
そういう見地からオリンパス、大王製紙の事件が何を意味しているのか、ということを明らかにしようとしたのがこの本である。
「失われた二〇年」といわれるような長期の混迷状態から日本が脱出するためには、日本経済を支えてきた株式会社のあり方にメスを入れる以外にはない。
多くの人によって「資本主義の危機」といわれているのは、実は「株式会社の危機」である。この危機から脱出していくためには株式会社にメスを入れるしかない。それによって新しい道が開けてくるのではないか……。
二〇一一年三月一一日の東日本大地震から発生した東京電力の危機も、それは株式会社の危機を告げるものである、ということを前著『東電解体―巨大株式会社の終焉』(東洋経済新報社)で書いたが、本書はそれに続くものである。
この本で取り上げているデータはすべて新聞や雑誌などに発表されているものであるが、このデータに基づいて、会社学研究家としての私の考え方を展開した。(「はじめに」より)

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Posted by ブクログ

不和を生まないための”予定調和の構造“が、権力の暴走を生む。

これはトップの暴走に限らない。例えば、若手同士がLINEで会社の嫌な奴の悪口を言い合う構図は、私の付き合いのある企業の方からもよく聞くし、ツールが違うだけで、昔からある事だろう。居酒屋での愚痴が、LINEやTeamsに変わる。また個人間だけではなく、集団同士も結局は予定調和の構造、寝た子を起こさぬような配慮が国の暴走を生むこともある。そこに通底するのは、相互不可侵条約のような自衛の構造だ。時にそれが相互確証破壊のようにエスカレートしても、暴走さえ止められていれば良いとも言える。

予定調和の構造が暴走を生む、そのメカニズムを本書が明らかにしていく。理路整然としていて痛快ですらある。

― (日本の)多くの会社では取締役会で社長を選出することになっているが、その取締役を選ぶのは株主総会である。そこで会社は株主総会に先立って取締役候補者を決め、それを株主総会にかけるが、ほとんどの場合、会社側が提示した案がそのまま認められる。部長、あるいはそれに匹敵するようなポストにある従業員を取締役候補者として指名するのは人事権を持っている社長であるが、その際、社長は自分に反抗するような人物を取締役候補者にすることはしない、というよりも社長に忠実な部下を取締役候補者にする。そこで、社長が取締役を決め、その取締役が社長を選ぶということになる、ということは、社長が自分で自分を選んでいるのと同じである。こうして"ワンマン社長”が生まれるのであるが、それはその人物が偉いかどうかということとはあまり関係がなく、社長に対して忠実な人間が取締役になり、そしてその取締役が社長になるという、このような会社のあり方がワンマン社長”を生んでいるのである。

― 会社同士が相互に株式を持ち合うことで、経営者同士が相互に任し合う。株主総会ではお互いに相手方の会社に対して委任状を渡すか、あるいは賛成の投票をする。これによって社長が提案した取締役、監査役の候補者が自動的に承認される。そこで社長は自分に都合の良い人事を行い、社長が次の社長を決める、ということになる。

― 二〇世紀に入って株式会社の規模が大きくなるとともに、株式所有の分散化、それに基づいた「経営者支配」が進行し、その結果、株主総会は形骸化し、経営者の思った通りの決議がなされるようになった。こうして近代株式会社の原理である株主主権のたてまえは崩れていったのであるが、ここで忘れてならないのは株主総会での委任状である。経営者は委任状を集めることで自分の思う通りの決議を株主総会で通すことができる。もし委任状が認められなかったなら、株主総会ではどんな決議も通らない。委任状による議決権を行使する経営者は株主の代理人としてであり、本人ではない。この代理人である経営者が会社を支配するということは「代理人による支配」であり、それは「所有なき支配」であり、「根拠のない支配」だということになる。書面投票についても同じことがいえる。

この構造が日本の無責任資本主義を生んだのだという。体感としても、きわめて分かりやすい話だ。だが当然、至近は企業もそれを是正しようと躍起である。窮屈だと思うのも仕方がないのかもしれない。

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2025年05月26日

Posted by ブクログ

株式会社が将来なくなる、という話しの本が続いています。
1社の暴走ではなく、現在の会社のあり方の問題という主張。

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2012年08月14日

Posted by ブクログ

オリンパスと大王製紙で起こった社長の不祥事を題材に株式会社制度の持つ問題点にメスを入れた作品。

自然人だけでは対応できなくなった経済活動のスケールの拡大に対処すべく発明されたのが「法人」にも人格を与えようというものだった。

所詮、人間が発明した制度。万全はありえない。

株主、社長、所詮、欲のかたまり。

そして、近年では、株式会社の巨大化、機関投資家などの出現。

人類は、あらたな経済活動の主体をどう形作っていくのか、答えはなかなか見出しにくい。

表面を浅くなぞったという感じの作品でした。

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2012年07月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

■会社経営の失敗事例に興味があり、この本を手に取った。
■10章立ての構成になっているが、最後の第10章に筆者の主張が強く打ち出されている。この主張を導き出すために、その前の9章がある。
■巨大株式会社が企業の不祥事から日本のバブル景気、金融危機を生み出したという主張は理解できる。しかし、日本の社長、株主、従業員の実態を事実として述べたとしても、それが巨大株式会社だからという主張には、少し論理の飛躍があるように感じる。
■但し、株式会社という制度は、今のグローバル展開を想定したものでも、巨大化したものを想定したものでもなかった、というのも確かであろう。よって、筆者の主張にも耳を傾けるところは多分にあると感じた。

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2012年06月03日

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