久世光彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
私にとって久世光彦さんと言えば「寺内貫太郎一家」ではなく「時間ですよ」でもない。
私にとって久世さんと言えば「刑事ヨロシク」だ。
当時肩をカクカクさせながら「冗談じゃねねえよコノヤロウ」とかを速射砲的早口でまくし立てていた主演のビートたけしと、小刻みにギャグを間に挟んだかと思えばジェットコースターのように場面を転換させる久世の演出法とが絶妙に合っていたと当時思ってたけど、その演出法が世間より少し先んじていたのか、大ヒットとまでは至らなかったと記憶している。
この「卑弥呼」でも、久世さんの自分の興味と知識と、現場や私生活で積み上げたアレコレとのテンコ盛りな展開がスピード感を伴ってすごく気持ちよ -
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一番、大切な本の次にはこれが好きと言える。
三姉妹の凛々しくて、強かな姿。霧の中を、ただ一点だけを見詰めて歩き続ける後姿。
秘めた決意であったり、狂おしい恋情であったりを胸の内に仕舞って、互いにそれを静かに見ている距離感が凄く好き。
三者三様の恋愛模様もいい。真琴の恋愛には、あまり共感できなかった(好みの問題)けれど、菊乃が鶴吉と対峙するときやゆり子と結城の最後の逢引なんかは本当にドキドキした。
鶴吉や結城の息遣い、菊乃やゆり子の胸のざわめきなんかが聞こえてきそうな文章だった。
濃厚な物語。薄い頁が人肌みたいで、細い文字が吐息のように思える繊細な文章。
とても綺麗。狂おしさが生きている。
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久世輝彦さんの傑作中の傑作です。
1934年の冬、極度のスランプに陥った乱歩は行方をくらまします(事実)このことに着想を得た著者は、この間に乱歩がホテルの一室にこもり「梔子姫」という新作を書き上げたという話を作り上げました。ただこれだけの話です。ただこれだけなのに久世さんはものすごく面白い話にしてしまいました。
乱歩の人物描写が秀逸ですが、それ以上にすごいのが「梔子姫」という小説です。乱歩が書き上げたことになっていますが、もちろん久世さんのオリジナルです。妖艶で奇怪なストーリーは、もう言い切ります! 乱歩以上にすごいです!
もう亡くなってしまわれたのが残念ですが、久世さん以上に、妖 -
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もうこんなペダンティックな文章で書かれた新しい小説は二度と読めないと思うと、残念というより悶え苦しむほど口惜しいのです。
まさしく自らの嗜好と性癖と偏向に呪縛されたイマジネーションの産物以外の何ものでもない、ピーンと張ったひとすじの妖しい耽美的感覚は、至上の喜びであると同時に戦慄の恐怖でもあるのです。
5年前の2006年3月2日、久世光彦は心不全で忽然と逝ってしまいました。享年70歳。
実際にひどいスランプになったことがある江戸川乱歩ですが、はるか80年を経た後年、自分が主人公にされて、環境の変化を求めて麻布の張ホテルで缶詰になり、そこで探偵小説狂いの人妻や謎の中国青年に悩まされつつも幻 -
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ネタバレ― 1934年(昭和九年)冬、東京。
雑誌「新青年」に頼まれた小説の原稿が進まず、衝動的に逃亡を図った江戸川乱歩(40歳・作家)。
都心のホテルに一時避難し追手からは逃れたものの、このままでは作家の名が廃る。
何としてもこの「梔子姫(くちなしひめ)」(←タイトルだけは決まってる)、完成させなければ… ―
(※この作品に登場する「乱歩」はほぼ著者の妄想の結晶に近く、実在する「江戸川乱歩」とは多分に異なる人物である恐れがあります)
何というか、一言で率直に申せば、萌えました。
乱歩氏のどこまでも等身大の40歳な感じといい、華栄青年の絶妙な魅力といい、
昭和初期のやや陰のある独特の雰