久世光彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
私の中で、じわじわとダメージが来るようなニュースがありました。
久世光彦さんの死去。
ふと、読み返したいと思ったのはエッセイ集でした。
「触れもせで。」「夢あたたかき」などなど。
いつかお会いしたいなと思っていた人は、どこか遠くへ出かけてしまいました。
だから、久世さんの大事に丁寧に表現されていたその世界の素晴らしさをどこかで表現していきたいなと思います。
久世光彦 様
あなたがいなくなったことを思うと寂しい気持ちが溢れます。
それは、毎年楽しみだった映像もあなたの選ぶ言葉も見れないからだと思います。
でもきっとほんのちょっとそれは寂しいだけで、私はときどきふと思い出すだけの話です。
例えばそうだな、コーヒーにミルクを入れ忘れたまま飲み続けるそんな感覚です。
でも、思い出すたびにきっと「ああお会いしたかったな」とか「ドラマ観たいな」とかそんなことを勝手に思うのだと思います。
それはそれできっと構わないですよね?
私はそう思って生きていくことにします。
追伸 あなたが居なくなった世界は、私にとってあなたの世界から向田さんが居なくなった世界のようです。
とんでもなく大きな落し物です。でも私はそれを大事にしますから、よろしくお願いします。 -
Posted by ブクログ
初版は新潮社より1996年刊行。向田邦子とコンビを組んだ作品のテレビドラマ演出で著名な著者が、二・二六事件をモチーフに描いた小説。陸軍中尉・剣持梓と白山上の銘酒屋で生きる女性・弓を視点人物に、超越者としての天皇との性的な一体化を夢想する青年将校の心性が描かれる。義眼にした右目の裏側に極小化された「御真影」を貼り付けた人物として登場する北一輝の不気味さが強調されて書き込まれる。
「現人神」としての天皇に対する崇拝と性的なエクスタシー=忘我とを結び付ける展開にさほど新味はなかったが、この小説の要諦はむしろ女性たちにある。石川啄木の故郷に生まれ、彼に倣ってローマ字で日記を綴る弓は、梓との結婚生活を夢想しながら、千里眼と百面相を得意とする芸人たちの性を受け止め、梓の姉・遊子は戦死した兄への思いを募らせる余りに精神を病んで、梓を兄と見ちがえて性的な交わりを求めていく。弓の同輩である朝鮮人女性・鳳仙花は祖国の独立を夢見る同郷の男を自室にかくまい、最期には二人で命を絶つ選択をする。革命を夢見た男たちは超越者に魂を捧げ、女たちは現勢に残る男の身体を待望し、受け入れる。と書いてみて、いかにも通俗的な定型の物語が反復されていることに気付かされた。 -
Posted by ブクログ
大人は過去の経験を分類し、記憶にとどめ、その文脈で今の体験に対して判断を下したがる。これは教育を通り越し、自己洗脳といえるのかもしれない。
多くの人は大人になるにつれて忘れてしまっているが、本来誰しも子供のころは持っていたように思う感覚。
この本で著者は、そういった経験知が成立する以前の感覚を表現している。
病弱な子供の頃、布団の中で感じた生死が隣り合わせの感覚。戦時空襲の中で体験した現実と認識の乖離感。
薄暗い白熱灯、障子越しの光と影。水漏れ、隙間風、虚無僧の尺八、隣家の暮らしの音。金木犀、便所掃除口のそばに生えるドクダミのにおい。
社会通念や条件付けられた感情の決まりきった反応ではなく、表現しがたい生々しい感覚なのだ。