堀川志野舞のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ピーター・ヘラー『ラスト・サバイバー 下』ハヤカワ文庫。
リドラー・スコットによる映画化されたベストセラー小説。2015年刊行の『いつかぼくが帰る場所』を改題、分冊、文庫化。
疫病により人類がほぼ全滅した後の世界を描いたディストピア小説である。上巻の長閑でのんびりした雰囲気から一転、下巻は怒涛の展開が待ち受ける。
愛犬のジャスパーを失い、打ちひしがれる中、3年前に無線から聞いた声を追い、セスナ機で飛び立ったヒッグ。
セスナ機が着陸したのは、父娘が暮らす農場だった。父親はヒッグを危険な侵入者と見做し、銃を向けたが、ヒッグは少しずつその誤解を解き、3人で食事を共にするまでになった。父娘も疫病で家族や多くの知人を失っていた。
父親も疫病に感染したのだが、ウイルスへの耐性があったのか回復し、娘も父親と同様に疫病から生還していたのだった。また、娘は感染症の専門医でウイルスの由来や発症を遅らせる方法も知っていた。
ヒッグは父親からの要請で3人でバングリーが残るヒッグが暮らしていたコロラド州へとセスナ機で向かう。
そこでヒッグたちを待ち受けていたものは……
本体価格1,200円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
ピーター・ヘラー『ラスト・サバイバー 上』ハヤカワ文庫。
リドラー・スコットによる映画化されたベストセラー小説。2015年刊行の『いつかぼくが帰る場所』を改題、分冊、文庫化。
冒頭から主人公のヒッグによる独り語りによる展開が続く。登場人物は40歳になったばかりの飛行機乗りのヒッグ、年老いた愛犬のジャスパー、隣人でガンマニアのハングリーだけであり、ヒッグの静かな語りはどこか寂しさを感じさせ、その描写は詩的でもある。この雰囲気はパット・メセニーの傑作『ミズーリの空高く』だろう。
舞台は9年前に発生した謎の疫病で人類がほぼ全滅した後の世界であり、設定はリチャード・マシスンの原作で映画化された『アイ・アム・レジェンド』や、さいとう・たかをの『サバイバル』に似ている。
コロラド州で老犬のジャスパーと共に辛うじて生き延びていた飛行機乗りのヒッグは妻や友人を失い、隣人でガンマニアのバングリーだけが話し相手で、互いに助け合う関係だった。ヒッグは数年前に無線から聞こえて来た呼び掛けの声を忘れられずにいた。思い出すのは亡き妻との思い出と世の中にまだ鱒があふれていた時の楽しい釣りの記憶だった。
時折、ヒッグとバングリーの暮らすエリアに食糧や物資を強奪しようと武装した疫病の感染者が数人で近付くが、大概はバングリーがライフルで狙撃し、射殺していた。武装した感染者の中には幼い子供もおり、ヒッグはその度に心を痛めた。
ある日、ヒッグはかつて目にしたヘラジカを追って老犬のジャスパーと共に山を彷徨い歩くが、朝方にジャスパーが冷たくなっているのを目にする。ヒッグは打ちひしがれ、さらに山を彷徨い続けるが、バングリーと暮らす地に舞い戻る。
ヒッグは3年前に耳にした無線の声がずっと気になっていた。ヒッグはバングリーに別れを告げ、何処かに居るだろう生き延びている誰かの姿を求め、セスナ機で新たな地へと飛び立つ。
本体価格1,200円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
ピーター・メイ『ロックダウン』ハーパーBOOKS。
2005年に余りにも非現実的との批判を浴び、陽の目を見なかったミステリーが緊急刊行。小説の中に描かれる状況が、新型コロナウイルス感染禍の現在の状況と酷似していることから緊急刊行となったようだ。
確かに本作に描かれるパンデミックの状況は今の世界の現状と本当に酷似している。都市封鎖、マスク、仮設病院の突貫工事、医療関係者の相次ぐ感染による医療崩壊に陥る様子はまさに世界の今という感じだ。また、最初はミステリーとしてはイマイチかなと思ったのだが、終盤の怒濤の展開には驚いた。そして、まさか少女の殺人事件が感染症とリンクするとは全くだに予想しなかった。
舞台は致死率80%のH5N1鳥インフルエンザが猛威を奮い、ロックダウンと戒厳令に人びとが喘ぐロンドン。仮設病院の建設現場で肉を削ぎ落とされた子供の白骨が発見される。人手不足で辞職前日に駆り出された刑事マクニールは身元の割り出しを急ぐが、最愛の息子・ショーンが感染し、あっという間に死亡するという悲劇が……
マクニールの捜査と平行して描かれる謎って殺し屋のピンキーの目的は……ピンキーの背後にいるミスター・スミスの正体は……
本体価格1,200円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
ネタバレ短編7つ。挿絵はヨシタケシンスケさん。意外。理屈のない奇想天外なお話って現在はなかなか発表されない(破天荒である場合理由付けがされる)ので昔のこういった作品を読むのは心躍ります。いくつか既読作品あり。
「彼は生きているのか、それとも死んだのか?」
詐欺話。今でも成功しそう。
「ギャズビーホテルに宿泊した男」
「実話一言一句、聞いたとおりに再現したもの」
既読。前回読んだものより優しく訳してあり読みやすい。
「天国だったか?地獄だったか?」
未読。個人的No.1。真実そのものと優しい嘘を神の天秤に載せるとどうなる?
「病人の話」
「ジム・スマイリーと飛び跳ねるカエル」
既読。
「百ポンド紙幣」
既読。面白さでいうと群を抜いている。 -
Posted by ブクログ
イギリスの作家グレース・マクリーン、2012年発表の小説。「エホバの証人」をモデルにしていると思われるキリスト教の異端の一派の熱心な信徒の家庭に育った少女の一人称の物語り。宗教や奇跡が大きなテーマとなっていますが、宗教的な物語りというより、父子家庭の父と娘の絆の再生を描いた物語りであり、とても心に響く暖かな結末の作品。良いです。
10歳のジュディスは工場労働者の父親と二人暮らし、間もなく起こるはずのハルマゲドンとその後に訪れる「最も美しい土地」を信じる純真な少女です。自室にはガラクタや廃物を利用して「最も美しい土地」のジオラマ模型を作っており、豊かな想像力ととても繊細でナイーブな感性を持っています。しかし異端の宗派の信徒ということもあって学校ではいじめにあっており、学校へ行きたくないと言う気持ちで模型の街に雪を降らせると、実際に季節外れの大雪となって学校は休校に・・・。
妄想と現実がリンクして追いつめられて行くジュディスを描いてなかなか見事な作品です。
一人称で語られるジュディスの繊細なものの見方、感じ方、そしてその表現が非常に素晴らしい。また、宗派の善良で愚直な信徒たち、伝道で対話する主に下層階級の様々ないわば異形の人々の描写も秀逸。道徳のテキストにでもなりそうな物語りではありますが、10歳の少女の独り語りということもあって説教臭さや押し付けがましさは感じられず、わりと素直に感動します。 -
Posted by ブクログ
原題は〈The Land of Decoration〉。ハルマゲドンで世界が滅んだ後にやってくるとされる〈最も美しい土地〉のこと。
いじめに苦しむ10歳の少女ジュディスは、自分の部屋に〈最も美しい土地〉を作った。そこに雪を降らせて神様に祈ると、外の世界にも雪が降った。過酷ないじめが待ち受ける恐怖の月曜日に起きた奇跡。
学校や仕事へ行きたくない時に嵐を起こす力や、自分をいじめる奴に復讐する力があったらどんなにいいか。でも、行動には必ず結果が伴い、その結果を取り消すことはできないのだ。
ジュディスの苦悩よりも、彼女の父親の苦悩の方が胸に迫ってくるものがあった。信仰の篤い大人ゆえの、父親ゆえの孤独な闘いを強いられる。怒りにかられている時こそ、信仰は試されるのだ。
読み終えたときに、サッと霧が晴れるように物語の構図が見えて感動した。やはりタイトルは原題のままのほうが良かったのではなかろうか。