S・A・コスビーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ホンモノのノワールがやって来た。古いフレンチ・ノワールの世界が、現代に帰ってきた。そういう小説の時間をもたらしてくれる作品である。
70年代のアメリカン・ニューシネマのフィルムの傷を想定しながら読む。暗闇に潜んで見上げていた傷だらけのスクリーン。暗くくすんだカラー。映画館内に漂う煙草のにおい。小便臭いコンクリート打ちっぱなしの廊下の匂い。しかしスクリーンの向こうには、野望を持つ男と女のしゅっとした切れの良さがある。銃口と硝煙。カーブの向こうを見据えるドライバーの冷徹な眼差し。
それらは大抵。美しい犯罪ストーリーだった。生と死、疑わしい愛、安全さに欠ける大金、それらがやり取りされていた。魅せられるが、脆過ぎる。ぎりぎりの展開。破滅か生存かを賭けて、犯罪、裏切り、脱出や生存の可否を、いつも秤にかけていた。
本書は、南部の田舎町のトレーラーハウスに生活する黒人の一家の物語である。ビターの効いたホームドラマと言って言えないこともない。主人公ボーレガードは自動車修理工場を営むが、競争相手の出現で破産を目の前にしている。目の前には、過去からやって来た犯罪という餌がぶら下がり、彼は家族のため、敢えて餌に喰らいつく。危険だが、それしかもう道はない。追いつめられた状況劇。
うまい話には裏がある。裏切りに満ちた犯罪者たちの個性ある顔ぶれ。ボーレガードの運転技術が凄まじい。自動車を知り尽くしているゆえ、犯罪に用いる車に関しては整備も運転も100%引き受ける。路上のアクションを主体にした小説作品はそう多くないだろう。ギャビン・ライアル以来、あまりお目にかかっていないかもしれない。
一人一人の書き分けも素晴らしい。癖のある男と女。ボーレガードの家族と彼らの長年の仕事仲間。こちら側の人間たち。愛と友情。一方では悪玉が列をなす。こわもての狂犬たち。裏切り者たち。ひとつの犯罪仕事をきかっけに、次々と組織間の衝突が巻き起こり連鎖する。一人一人、順番にこの世とおさらばをしてゆく。いとも簡単に。静と動を絡み合わせたクライム小説。銃と、暴力と、カーチェイス。
こう書いてみると単純に見えるかもしれないが、前半部は少し長めの導火線であり、静である。だが爆発物に近づいているのはわかる仕掛けだ。とりわけボーレガードと家族たちは追い込まれてゆく。かつて失踪し、この世から消滅してしまった父の物語。いなくなった父から引き継いだ愛車ダスターへのこだわりが、夫婦間の平和を切り裂く。子供たちを切り裂く。実はこの前半によって後半の物語にも厚みが出る。
家族。消えた父。育ちゆく息子たち。彼らに迫る危険な奴ら。家族を生き延びさせるために、ボーレガードが何をしなくていけないのか。
大一番の賭けに出る男たちの、知略の勝負を描いて圧倒するクライムの傑作が登場した。この作家の今後が楽しみだ。そのくらい活きのいい一冊である。 -
Posted by ブクログ
アメリカ南部の街で、自動車整備工場を営む黒人男性ボーレガード。
周りに犯罪者が多いような環境で育ち、友達の誘いに乗って、ちょっとした悪事に加担したこともあったが。
何よりも好きなのは、車。
走り屋だった父の面影は理想で、家族を捨てて去って行った男でも、憧れをぬぐい切れずにいた。
自分は家族を愛し、妻にも子供たちにも、あたう限り、まともな暮らしをさせてやりたいと思っていたが。
経営が苦しくなり、思い余って賭けレースに参加した。
ところが失敗、さらに追い詰められる。
そこへ、強盗の仲間に加われという誘いが。
走り屋の腕を生かせば、逃げ切れるかもしれない‥
妻には、愛車のダスターを売れば、資金難は解決できると再三言われていたのだが。
もはや、それでは間に合わない‥
ボーレガードが愛車で走る疾走感は出色の描写で、これだけでも読む価値あります。
ただ、クライムノベルなのでね~
真面目に働いて、貧困を脱し、ある程度までは成功した。
だが、多くを望み過ぎた男の、選んだ道は。
ボーレガードはいい人みたいに描かれているけど、いやダメだって。
状況が丁寧に描かれているので、アメリカの悲劇という見方もしそうになりますけれど。
いや…悲劇というのともちょっと違うし。
こんなやり方じゃ、家族を巻き込むに決まっているでしょ? 妻子に何させてるの。ど素人じゃないんだからさ~。これじゃ、子供たちはどうなるの。捨ててはないけど、家族の元に戻ったとは言えませんよ。
という怒りが込み上げてきた結末でした(笑)
でもまあ、この妻も、こういう男を選んだんだしね‥
一種の業みたいなものかしら。
息子がこんなことに負けずに、力強く生きてくれますように! -
Posted by ブクログ
息子たちが殺された。守るもの、守るべきものだった、親の情愛と慚愧・深い悔恨に突き動かされて父親たちは命を懸ける。
二人の息子が拳銃で撃たれて死んだ。黒人のアイザック(アイク)の息子アイザイア、同性婚の相手白人のデレク。同性を恋人と呼ぶ二人の生き方を父親たちは許さなかった。アイクは結婚の許しを請うアイザイアを締め出してしまった。ドアを閉めた時の怒りの音が今も耳に残っている。
デレクの父バディ・リーは息子の墓が荒らされたことが許せなかった。悲しみと憤怒でアイクに復讐を持ちかける。
彼は無気力にトレーラーハウスに住んでいたが悲しみのどん底から立ち上がろうと思う。病身をおしてアイクを訪ねてくる。
「警察は手ぬるい、二人で犯人を突き止めよう」
だがアイクは一瞬逡巡する。二人の残した最愛の孫がいる、努力と忍耐で築きあげた仕事もある。それを投げ捨てることが出来るか。
ふたりとも刑務所に入った前科がある。しかし有能で優秀な子供たちを深く愛していた。
出所後アイクは、露ほども疑いを持たれないよう細心の注意を払って暮らしてきた、たまに黒人というだけで車を止められ免許証を確認されることもあったが些細なことは耐え忍んだ、今では造園業も社員を抱える会社に育っていた。
しかし今度は墓石が真二つに割られていた。それで決心がついた。
息子たちはリッチモンドのオフィスビルで堅実に仕事をしていた。そして自宅にしているクラブハウスで襲われた。
二人は初めて子供たちの居なくなった家に来て控えめで堅実な暮らしを見た。
「幸せそうだな」「ああ幸せそうだ」
ここで息子たちの家を見た親たちの、悲しみと後悔の深さに泣ける。そして読者も暴力とアウトローたちの世界に抵抗なく入っていく。
アイザックはジャーナリストだった。なにかニュースの手がかりを求めて取材をしていたらしいそれがもとでギャングに襲われたのではないか。
ふたりは息子たちの遺志を汲みニュースの深みを探して真相に近づいていく。それは犯人に確かにつながっている。
最後まで二人は力の限りを尽くして闘う。迫力があり読みごたえがあった。
ノワールでもあり、人種問題、LGBTQについても記述は深い。ストーリーの単なる素材ではなく直面する今について考えさせられる。流血のハードボイルのようで、裏社会に繋がる流れを見せながら、やはり親子の深い情愛と、失ったもの残ったものの悲しみの重さを昇華させるストーリーで、最後まで楽しんで読んだ。 -
Posted by ブクログ
読みながら圧を感じる。
主人公の黒人保安官、タイタス・クラウンは悲惨な現実の前に、母の言葉を思い出し、神の言葉にもこう言ってのける。
「御言葉もそれを読む人間と同じくらい堕落していることに気づいた。旧約聖書も新約聖書も、ただの”ことば”にすぎない。」
差別をに向き合う?
そんな生易しいことは言ってられない。
神に祈る?
どんなに祈っても、母の命は救ってくれない。
現実はクソだ。それでも生きていかなければいけない。
戦わなければいけない。
そんな現実に逃げ出すものもいる。
愛する人を置いて。
それも理不尽なのだろうか。
答えはない。
この物語は神の福音か、悪の咆哮か。
タイタス・クラウンの腹の底からあふれ出るゴスペルであってほしい。 -
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「憎しみだ。人は復讐を正義のように語るが、復讐はちょっといいスーツを着た憎しみさ」
黒人の父親、白人の父親、惨殺された息子たち――
血の弔いが幕を開ける。
後悔、悲嘆、憎悪、復讐・・・亡き息子たちへの懺悔と非情な暴力への怒りが壮絶に描かれ、読んでる内に感情移入してしまう恐ろしい作品でした
何より登場人物の圧倒的なキャラクター性が魅力的で、ハードボイルドなオヤジたちの最期を覚悟した復讐劇に痺れました
一つ一つのやり取りの情景が目の前に映し出されるように鮮明に浮かび、手に汗握る大立ち回り!何よりクライマックスは・・・!是非ご自分の目でお確かめ下さい!!
(そのまま脚本にもなりそうだし、映画化・ドラマ化してくれないかな。ダメかな。絶対見るんだけどな)
この物語の重要なテーマの一つは人種差別やジェンダー、LGBTQ+だと思います。犯罪小説でこうした問題を主眼に置いた小説ってはじめてかもしれませんね。
これまでの人生の大きな価値観を揺さぶられ、戸惑い、間違い、それでも理解を諦めず自分なりの回答を探していく姿が人間くさくてとても良かった・・・!
仮に理解が難しかったとしても、自分の息子である限り、せめて幸せを一緒に喜んであげることができないか、葛藤から彼らなりの答えを導き出していく過程が深く刺さりました・・・同じ立場になったら自分はどうなんだろう。。。
ノワール小説を初めてちゃんと読んだ気がしますが、これはクセになってしまうぞ・・・!なんと恐ろしい・・・! -
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ネタバレ「頬に哀しみを刻め」と同じ作者だったので。
桜の樹の下には死体が埋まっていると言ったのは、誰だったか。
ミステリーファンならば、
死体が埋まっているのは土の酸性度で色が変わる紫陽花だろう。
実際にそういうミステリーがあるかどうかは別として。
それゆえ、息子が高校の教師を殺したと知った母親が、
息子は先生のことが好きでふたりで居残りをしていた、と語った時には、
ミステリーファンならそこに何が埋まっているのかに気が付いたはずだ。
意外だったのは、早々にその最優秀教師の裏の顔が掘り返されたこと。
奴隷制度の過去が色濃く残るアメリカ南部の町の高校で発砲事件が起き、
白人の教師が殺され、犯人の黒人青年を白人警官が射殺した。
まさかこの町に誕生するとは思わなかったと言われた黒人の保安官は、
教師の携帯の中におぞましい写真を見つける。
七人もの黒人少女少年を殺した犯人はもう一人いて、
大人を殺しはじめる。
歴史的な諍いを抱える町の空気感は非常によく描かれていて良かったが、
判明した犯人が唐突で、いったい誰なのかわからなかった。
保安官の恋人が去っていったのも残念。
面白くはあったのだけれど。 -
Posted by ブクログ
息子たちを殺された二人の父親が、復讐する物語。
その父親たちの経歴がひどい。
一人は貧乏白人で、アル中で、前科持ちで、刑務所帰り。
もう一人は黒人で、人殺しの前科があり、もちろん刑務所帰り。
さらに、殺された二人の息子たちはゲイで、生きている間の親子関係は最悪だった。
とにかく、二人が暴力的で殺しまくる。
警察もあまり出てこない。
少しご都合主義的な展開もあるが、
復讐を通して、
人種間のわだかまりが実は子どもの頃から
植え付けられた古びた価値観だったり、
命を張って助け合うことで、人間としての本質的な良さを知り、
友情を深めていく。
暴力に彩られた、大人のファンタジーでもある。 -
Posted by ブクログ
作品の舞台はアメリカ、バージニア州リッチモンド
黒人で過去に服役しがらも、地道に働き庭園管理会社を経営しているアイク
白人で妻に捨てられ、酒浸りになっているバディー・リー
彼らの息子同士(ゲイ)は互いに父親に祝福されることなく結婚していたが、ある日警察からこの息子たちが撃ち殺されたとの連絡を受ける
男の世界を生きてきたアイクとバディー・リーは息子を愛しながらも、息子たちの性について理解できず向き合うことを避けてきた…
それに対する後悔や贖罪が二人の男を掻き立て、息子たちを殺した犯人への復讐に向かっていく
とにかく元囚人のおっさんたちのこと…
いくら息子たちを殺されたからといって、やること全てすごい!戦争状態
もう歯止めがかからない…
でもついこの不器用なおっさんコンビにクスッ!と笑い共感してしまうのだ
たがテーマは重い
人種差別、暴力、性(LGBTQ+)…
読後にタイトルが深く胸に突き刺さる -
購入済み
人間性や社会問題を深く掘り下げ
ただの復讐劇ではなく、人間性や社会問題を深く掘り下げた作品
息子を殺された二人の父親が復讐を誓う物語だが、その中で描かれる父親たちの感情、特に哀しみ、怒り、そして愛は非常に深い
語は非常にスリリングで、暴力描写もリアル。
コスビーのスタイルが如実に現れているが、それが単なる暴力描写ではなく、背景に深い人間ドラマを持っている -
Posted by ブクログ
定義というよりもイメージしているクライム・ノベルというのがあって。これが完全にイメージ通り、読みたい、完全にクライム・ノベルな一冊。
引退して自動車修理工場を営む元凄腕のゲッタウェイ・ドライバー、ライバル店の出現で生活がピンチに陥ったところに過去に仕事でトラブった相手からデカい“仕事”の誘いが。これが最後とその“仕事”を受けることにするが…
こんな話は何年か前の深夜にDVDで観たことがある、そんな気もしてくる“良くある話”だ。だけど、そんな“良くある話”とドラマ、そのなかに書き込まれるディティール、生活や文化や街並み、様々な引用や知識、哲学が読みたいのだ。
“良くある話”にスムーズに乗って、ディティールに惹きつけられ、そこにドラマが加わりグルーヴが生まれる。そのなかで主人公はじめ登場人物たちが解決しようとするのは、起こした、起こってしまった事件ではなく、人生そのもので。それは銃撃戦が終わっても、最後の頁を捲っても、あるいは希望が書かれたとしても、決定的に解決することが出来ない物語。解決することのない人生、人生の解決の出来なさを書くのがクライム・ノベル、というような気もしてくる。
久しぶりに読んでも最高だった。最高にクライム・ノベルだった。S・A・コスビーはこの一冊で大好きな作家になって、2,3作目もとても良かったけれど、いちばん好きなのはこの1作目。”良くある話“と書き込まれるディティール、解決しない物語。クライム・ノベル。