蝉谷めぐ実のレビュー一覧
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あと5cm背が高ければ。あと少し鼻が高ければ。あと少し胸が大きければ。男に生まれれば。女に生まれれば。誰もが思ったことがあるであろう願望。それさえ叶えば、完璧な人間になれると思っているが、奇跡的に叶ったとして、完璧な人間にはなれない。
目さえ見えれば。という願望をそれと同じだと、健常者の私が言ってしまうことは適切ではないのだろうけど、叶わない願望としたら同じこと。目明きであれば果たして保己一が望んだことをすべて実現できたか。
目明きと同じ土俵に立ちたい、どこまでがんばったら、なぜ目暗が学問をすることが奇跡だと思われ、神聖化されてしまうのか、普通の人間だと思ってくれないのか。痛いほど伝わってくる。
あるラジオDJ(日本人)とアメリカ人の夫との子が学校で、見た目が外国人であることからか、日本人と同じように扱ってもらえない。些細なことで大げさに褒められ、みんながやっている義務(掃除や宿題など)から外される。親が何度訴えても、特別扱いをやめてくれない。諦めて沖縄に移住したと言う。
慣れの問題か。女性、外国人、障害者、子ども、などなど、「弱い」「自分と違う」とされる対象に対して、自動的にフィルターをかけてしまうのだと思う。人生あと何周したら、何にも影響されず、人の人間の中身だけを見られるようになるだろう。とりあえずこの人生で、できるところまでがんばってみたい。 -
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保己一には何かが見えていたのでしょうか?(°▽°)
「目が見えない人にだけ見える何かが見えていた」?(°▽°)
本当にそうでしょうか?(°▽°)
そのように漠然と言ってよいものなのでしょうか?(°▽°)
保己一は「ずっと何も見えていなかった」のではないでしょうか(°▽°)
見えないという大前提の事実があり「目が見える人とは違う人生を送った」(°▽°)
それが全てだと僕は思います(°▽°)
誰しも目には見えないものがあります(°▽°)
心、温もり、優しさ、痛み、希望…(°▽°)
たとえ見えなくても、そこには間違いなく「ある」(°▽°)
それを分かろうとする気持ちだけは持ち続けていたい(°▽°)
保己一の人生を垣間見てただただそんなことを思いました(°▽°) -
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・さまざまなものごとの対比が上手く描写されてて沁みる。
タイトルの意味と最後の一行、見えるものと見えないもの、見えることと見えないこと、等々
個人的には映画「国宝」と同じくらいのインパクトがあった
一人の天才の人生と、その才に翻弄される人々を描いてるという点では似てる構図かも
・盲の世界の捉え方もかなりレトリックがお洒落。
"本屋の主人は、いつだって古書に懐かれているような良い匂いをさせている。"
保己一が人々の声から得た情報を脳内で整理して記憶してる様を「頭の中の抽斗」として描写してるシリーズも好き
"声によって頭の中で拵える箪笥の材と飾りが随分と変わる。"
大切な言葉は"朱塗り螺鈿作りの箪笥に大事に大事に仕舞われている。"
・各章のタイトルがダブルミーニングになってるのがかなり良い!!
読み終えてあらためて見ると「あ~そういう…」としみじみ
第三章でぐっと辛くなり、第四章はぜひ映像化されてほしいと思った
・全体的にレトリックがすごく好みで印象深いけど、もちろんストーリー自体も良かった。
人間誰しも、それぞれの立場や考え方(見え方)を持っているという当然のことをあらためて突き付けてくれる。 -
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江戸時代後期の国学者・塙保己一。盲目でありながら学問を究め国家的大事業を成し遂げた、その史実だけでも十分ドラマです。
しかしさらにエンタメ的盛り上がりがマシマシ!
幼少期・寅之助時代のいじらしさ、母親の想い。失明後はもう貪欲に、驚異的記憶力で書物を暗記しまくります。
周りに疑心暗鬼になったり、気遣われてやるせない気持ちになったり。近い人・親しい人とのすれ違い、どこまでわかりあえるのか。なんだかんだあってやっと「あぁよかったな、成し遂げたな」と浮いた気持ちでいたら、そこをバチンと叩き落としてくる展開。「そ、そうだったんかい!」×10!みたいな。
とにかく畳み掛けがすごくて感情が忙しかった。蝉谷さんの文章も楽しかった! -
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江戸時代、塙保己一という偉大な人物がいたことを今まで知らなかった。5歳で失明した保己一。盲目になった後も学問を続け、周りの人に読んでもらった書物を凄まじい記憶力で記憶し、内容を確認し、頭の中で整理し、貴重な古典・歴史資料を集めて、『群書類従』という膨大な資料集を編纂した人。
日本の文化・歴史資料を後世に残した、とんでもない人。
目で見えているから見えないもの。盲目だから見えるもの。
1章から5章までは同じ言葉から連想する異なる意味での副題が付いている。例えば第一章 むしの子のタイトルには(虫の子・無視の子)と。これがまた素晴らしい。各章読み終えるごとに副題に戻りあ〜なるほど!すごい!ってなった。第6章ではタイトルが一つになり、絡まる。目明きと目暗はどうしても違いがある。だけど、目が見える人は皆同じ考えかと言えば違うし、目が見えない人もしかり。どちらであっても結局はその人の心持ちだ。心の目で真を見る。みんなそれぞれ見たいように見るのだから。
目が見えない人は、ちょっとした人の顔色や態度の変化が分からないから、この世の中の良くも悪くも嘘だらけの世界で人を信じることはハードルが高いんだなと気付かされた。 -
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風変わりな夫婦のラブストーリー。なんだかホッコリした。
歌舞伎の女形喜多村燕也。妻となる志乃。縁談が来て、祝言はあげず顔も見ぬまま木挽町の夫の家に移り住んで2月。夫はいつも女の姿でいる。それはともかく演じる役になりかわって人格が変わる。紅が合わないと言われ買いに走る。
時姫役の舞台の中に、志乃のしぐさや振舞いが書き入れられていて、観察されていたのだと知る。武家の娘だからあの人に買われたのだ。武家の娘でいていいらしい。
女が家にいる。不義密通を疑われて志乃は芝居小屋に連れて行かれる。初野寿太郎と名乗る男の前に連れて行かれたが知らない。悪かったわね、あんたじゃなかったと言われてもね。
松虫を購入する。燕也の芝居相手の仁左次がやってきて、志乃にあいつをこれ以上男にしないでやってくれという。その話をしたら、できてるね、と言われた。
志乃は父と会う。父は離縁せよという。だが燕也は舞台で倒れた。病だという。燕也は役者をやめて商売でもしようと。 -
購入済み
保己一の盲人としての苦しみや学者としての矜持、保己一の家族や門弟らの崇拝や劣等感等、複雑な感情が描かれます。他人を信じられなくなり血の繋がった家族だけを信じる保己一の姿が痛々しく感じられました。目が見えていても見えていなくても他者を理解するのは難しく、結局見たいものを見たいようにしか見ないのかなと思いました。
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幕末の江戸、歌舞伎役者の中に鬼が紛れ込んだ。鬼探しを依頼されたのは、元女形の魚之助と鳥屋の藤九郎。魚之助は壊疽が原因で舞台を務められない。こういう話を読んだと思って調べたら実在の人物がモデル。(後書きにも書かれている。私が前に読んだのは「狂乱廿四孝」。他にも彼を描いた本はたくさんあるらしい。)
役者の妬み嫉み、良い役が欲しい。全ては芸のため。一方で家柄だけと言われたくない。華やかな舞台の裏の嫌な部分が描かれる。演目が「曽根崎心中」で、少し前に見た「国宝」の映画にも出てきたので、場面が目に浮かぶ。
探偵役が、仕方なく舞台から距離を置いている魚之助と、ほとんど歌舞伎のことを知らない藤九郎という組み合わせも良い。思うようにならない身体に癇癪を起こし、我儘に振る舞う魚之助。鳥以外は不器用な藤九郎。続編があるというので、彼らの活躍が楽しみ。個人的には、蘭方医見習いのメルにもうちょっと活躍してほしい。 -
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1年半ほど前に著者のデビュー作『化け者心中』を読んだ時は、新人とは思えない密度の文章に率直に凄いと感じたものの、盛りだくさんのテーマと練られすぎた構成がちょっと物語を窮屈にした印象があったのと、自分自身の好みの問題もあって、個人的にはそこまで高い評価にはしていなかった。
本作は前作に引き続き歌舞伎を扱っているが、主人公が歌舞伎役者だった前作とは異なって、歌舞伎のことを何も知らない女形役者の妻を主人公に据えており、歌舞伎に関しては客観的な視点で語られている。その世界に疎い自分のような読者にとってはニュートラルな書きっぷりがありがたかった。
本作は役作りのために日常から女として過ごす夫と、その妻である主人公がひとりの女性として自身の存在意義を模索する物語であるが、特殊な世界で生きる者たちの苦悩と覚悟がリズミカルな筆致で描かれており、読んでいて二人の関係性がとても愛おしく感じられた。
他の役者の妻たちもキャラクターが立っていて面白いし、終盤に歌舞伎の演目に引っかけて物語が展開するあたりもうまい。幕引の締め方も文句なし。
ミステリの要素を排したことで筋立てがシンプルになり、リーダビリティの向上とともに読者への訴求力が高まったように思う。
本作は読もうか読むまいか迷ったのだけど、読んで正解だった。今回は自信をもって書こう、傑作です。