上出遼平のレビュー一覧
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何軒目か分からないクラブへ向かうタクシーの中で、私たちはミッドナイトピッツァクラブという名を授かった。嘘じゃなくて、私たちのタクシーに衝突するようにして、その名前は私たちのもとにやってきたのだ。
阿部ちゃんは「実際」という言葉を句読点のように用いる。
「砂埃が待ってるからだろうね、光が綺麗に見える」
いつかケニアのゴミ山で見た二重の虹も、空気の汚れによって出現すると聞いた。因果なものだと思う。綺麗な世界では、綺麗なものが見えなくなる。
砂糖と一番相性の良い飲み物はチャイなのでは?という太賀くん
上質な休憩をするために、過酷な旅を必要としているのだ。
31歳という若さもあるだろうし、持ち前の体の -
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人は生きるために食べていく。それはどんな環境であろうと。
著者はカメラを向ける事は暴力性を孕むと書いている。全くその通りだと思う。人は見せるために生きているわけではない。受け取るこちら側は勝手に想いを託し、読み取った気になり、自分の物語として消費していく。傲慢に。自分勝手に。
それでも、語りたい人がいるから撮ることが出来る。見てほしい人がいるから撮ることが出来る。
極限状態での生活を切り取る切口としての食事。非常に個人的な行為。でも個人の行為は社会の影響を受けざるを得ない。
生きる事は食べること。社会から与えられた影響の結果、今日の食事になる。人の生に目を向けた良書だった。 -
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いやー面白かった。
これは…なんてカテゴライズしていい本なんだろう?
とにかくすごい構成だった。
前半の第一部と後半の第二部で全く読後の印象が異なる本。白だと思っていたものがいつの間にかグラデーションを経て黒に変わっていたような感覚を覚えた。
後半を読んだ後に前半を読み返すと、ああなるほど、ここで著者が言っていたのはこういう意味だったのか、と腑に落ちるところが多々ある。やはりこの本は、「ドキュメンタリー作家」が書いた仕事術の本なのだ。
そして後半は、前半で著者が書いていた「ドキュメンタリーの本質」が実際にどういうものなのかを正に“実践的に”教えてくれている、ということが読み返したことで改め -
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上出遼平と仲野太賀がオサレな本を出しているなと本屋で見かけたのがきっかけで何も知らずに手に取った。旅行記兼写真集のようなもの。
阿部裕介という写真家が共通の知人で繋がった3人だが、ニューヨークで集合して仲良くなったMidnight Pizza Clubはネパールに行くことになり、そのネパールで起きたことを綴っている。
クスッと笑える部分もありつつ、人やお礼の仕方などに対して悩んだりモヤっとしている作者がそのまま書いている感じが満遍なくあって面白かった。
耳の聞こえない女性のパン屋で食べたりんごモモがとても気になったし、不便な谷の中で暮らす21歳の少年がリゾート施設を出すまで頑張ってほしいなと思 -
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この本は私の経験を裏切ってくれた。
旅本が好きだ。旅にはいつでも昂る気持ちが付く。不安に期待に興奮に。その昂る気持ちが、ユニークな表現となり、個性溢れる文章となり、そして魅惑的なエッセイとなっていると思う。これまで自分を魅了した紀行文は1人ものが多かった。
1人で黙々と歩くからこそ思考が同じ所を回り、ある気持ちが綿飴が出来る時のように大きくなっていく。肥大した気持ちが良いエッセイの源泉だと思っているし、1人だからこそ肥大しやすいのだと思ってきた。
で、この本はその経験をぶち破った。自分の気持ちを醸造する前に吐き出す相手がいても、文章からネパールに対する著者の温度を感じられる。寧ろ、吐き出 -
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ネタバレ元々番組を観ていて、好きな番組だったけど本も出たというので読んでみた。とても興味深い内容ではあったし、大変な環境を生きる人々の現状が垣間見えるのはジャーナリズムとしても意義深いことだとは思うけど、なんていうかな。生まれる土地は選べない悲しさというか、そういうことを思ったりもした。特にスカベンジャーの回はかなりつらいものがあった。年端も行かない子供がシンナー吸ってるのとかね。先進国の少子高齢化が進む中で発展途上国ではどんどん子供を産んでいるみたいだけど、この先世界の人口動態はどうなっていくんだろうな、とも思った。
一番印象的だったのは、ロシアのカルト宗教の話。ミッドサマーっぽい風景にぎょっとし