保坂祐希のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「女の幸せ」ではなく「私の幸せ」を選び取るために闘った人々の、静かで熱い記録。
映画の公開が気になっていたところ、Audibleでも配信されているのを見つけて聴き始めました。映画館へ足を運ぶのが先か、原作を耳で味わうのが先か迷った末の選択でしたが、通勤中に最後まで聴き終えた後、胸に迫るものがあまりに深く、休日にこうしてもう一度聴き直しながらこのレビューを書いています。村上麻衣さんの過度に煽らない落ち着いた朗読のおかげで、当時の空気感と言葉の芯がじっくりと胸に染み渡る、素晴らしい音声読書体験になりました。
物語は、平成元年の福岡で起きた日本初のセクハラ裁判に着想を得た実話法廷劇です。気になって実際の裁判を調べてみると、当時はセクハラという言葉や概念すら法的に存在せず、勝訴の可能性が極めて低いと言われる中で、実名を出せない「原告A子」として孤立無援の戦いに挑んだ女性の手記が残されていました。フィクションとしての本作も、まさにその過酷な現実がベースになっています。不当解雇から自己都合退職へと追い込まれ、証拠も味方もなく孤立無援となっためぐみ。悪意があるから傷つけるというより、社会全体に染みついた「当時の常識」こそが最大の障壁だった時代。一番苦しかったのは、周囲から責められるうちに、彼女自身の中に「私が悪かったのではないか」という疑念を植え付けられてしまうことだったのだと感じます。
その絶望的な状況の中で、家庭も裁判も誰も犠牲にしない覚悟で奔走した朝日弁護士。法廷で男社会の自己責任論を逆手に取った鮮烈なスーツと、魂の最終弁論には震えました。「もしあなたの娘が女性だというだけで仕事を奪われ、性被害に遭ったら、お前が悪いと言えるんですか」裁判長が告げる「主文」の一言が響いた瞬間、目頭が熱くなりました。この物語の主人公は、朝日弁護士であり、めぐみであり、理不尽と闘ってきたすべての女性たちそのものなのだと思います。
「女の幸せ」の頭につく「女の」を外し、男の幸せでも女の幸せでもなく、自分自身の幸せを自由に選び取ること。あの日、最初の声を上げて一歩を踏み出してくれた先人たちの想いに深く感謝したくなる傑作です。映画館の大スクリーンでも観たいけれど、席から立ち上がれなくなりそうで、今からどうしようか迷っています。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ転がり込んできた加代の
「明日死ぬかもしれないのに?」は
まるで呪文のようだ。
長生きしたいとは思わないけど
健康ではありたいし
慎ましすぎる生活よりは
美味しい物食べたいし、
たまには旅行にも行きたい。
そして、
それらを共に楽しんでくれる連れ添いや
友達は自分のそばにいて欲しい。
孤独を孤独と認めずに生きてきた
真理子にとって
加代とのハチャメチャだけど
楽しく過ごせた日々が
如何に今の自分にとって
大切な存在かと気がついた時
例えそれが憎んだ女だったと知っても
加代の思いをくみ取ったときに
全て昇華したかのようで
歳をとってからでも意気投合し、
まして共に生活をしようとまで
思える友達が出来るなんて
素敵だなぁと思うし
痛みを分かち合いながら
好きな男の思い出話をしながら
今日もスーパーにお買い物行く2人を
想像すると微笑ましくもあり
羨ましくもあり泣けちゃいました。 -
購入済み
世の中の人を納得させて鎮火させる謝罪の方法を知り尽くしている山王丸、こんなところにもテクニックが活きてくるのか~~と、面白く読めた。
主人公のツッコミがシュールすぎて好き。 -
Posted by ブクログ
2022/07/01
読み終わってからだいぶ経ちますが今更感想を書きます。
この本の続編が読めるのがとても嬉しくて、発売された日に即買いしました。
ちょっと古めの会社のオフィスを装った謝罪コンサル会社をやっている山王丸のもとで働く篠原光希を取り巻く謝罪に関するいろいろなお話を描いたもの。
今回は、前作の続編ということですが話自体は短編的な感じになっています。少しミステリー色も強まったんじゃないかなーなんて思いました。
依頼主に関する謝罪コンサルを頼るまでに至る理由が段々と明かされていくところや、光希の視点で描かれることで話がいい意味で素人目線で進んでいくために最後の最後でストーリーの内容がまとまって腑に落ちていく感じが程よくて楽しく読むことができます。きっとモデルになった話はあの出来事なのかなーとか、この話のモデルとなったのは何のことだったんだろうと言ったように現実でも起こりそうだと思えることに程よくフィクションも混ざっていてとても読みやすい作品になっていると思います。もちろん続編を希望しています。 -
Posted by ブクログ
2021/08/12
タイトルからして「なんか面白そうな感じがするぞ…」と思って読んだら、やはり面白かったです。
世の中でこれまでもたくさん行われている謝罪会見ですが、その裏には謝罪コンサルなる人たちがいる…のか!?と思わせられました。
会社で雑用が取り柄とか可哀想なことを言われていた光希が、色々あって山王丸率いる謝罪コンサル会社で働くことになるところから話がスタートします。
山王丸も最初は「金の亡者」感が出ていましたが、よくよく話を進めていくと…って感じで、この謝罪コンサルが関わった依頼の件が事態の収拾へとどのように向かっていくのかが、楽しく読み進められます。出てくる人たちもキャラがいい意味で濃くて面白いし、山王丸も何か、謝罪コンサル界のブラックジャックみたいな感じで好感度高いです。 -
Posted by ブクログ
前作リコールに続く企業小説。
わたしの大好物であるウナギが、すこし怖くなります。(スーパーで買うのは躊躇うかも?笑)
正直なところ、主人公の女性はわたしの苦手なタイプで(いや、おまえ危なかしすぎるぞ!あともうちょっと臨機応変に生きろと思ってしまったり)、おいしいところは沢木さんがもっていってしまいますが、ハラハラわくわくページを巡る手が止まることはありません。
食の安全ってなんだろう。地域の活性化ってなんだろう。働きやすい場所ってなんだろう。
自身が生きていく上で、大事な問いかけがふつふつと湧いてきます。
お腹が空くような、食欲が失せるような相反する生態反応を得られる稀有な作品です!
わたしもいつか彼女がつくる藍ウナギを食べてみたい。
あと、春樹、おまえはもうちょっと男見せろ!
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Posted by ブクログ
▼ちょっとご縁があって、読んでみました。保坂さんという作家さんは初めて読むかなと思ったら、昔に「リコール」という小説を読んだことがありました。自動車メーカーの不正を暴く話だったと思います。
▼80台(70台後半だったかしらん)の女性がいる。離婚歴があって、息子と両親と長く暮らして、ずっと会社員で働いていて、それなりにご苦労をされてきた。息子を育て上げて、両親の介護にも疲れながらやりぬいて、今は一人暮らし。知性的で落ち着いた人柄なんですが、実は独立した息子(50台)との仲が悪い。というかほぼ絶縁状態。
▼息子は研究職についていて、結婚している。成人して独立した娘もいる(つまり、主人公からすると孫)。この息子が、ある日突然、単身で帰ってくる。どうも妻と不和で離婚するのかしらんという感じだが、訳を話してくれない。でも同居しはじめる。
▼息子が大学受験とかそういう年頃に、ずっと「医者になる」と言っていた息子が、その希望を土壇場でとりやめた。そのことに主人公は落胆と不満があった。息子に、そういうことを言ってしまった。それをきっかけで息子は反抗的になり、「死ねクソババア」と言い残して出ていった。それ以降、冠婚葬祭に最低限付き合うだけで、まともにおしゃべりもしないまま。ウン十年。
▼世間的には何もみっともないことはないけれど。同居することになった50台の息子と、仲良くできない。楽しいおしゃべりすらできない。寂しい。ストレス。
そんなことが、どうやって解消されていくか。どういう訳があったのか。息子は昔、子供の頃、何を感じて、何を考えていたのか。何を隠してきたのか。何を隠しているのか。
と、いう人情噺でした。
▼話の成り行き進行は、そんなに物凄く硬質で良くできたものとも思いませんでしたが、するすると読めて、それなりに感情移入もできたので、悪い本ではありませんでした。
最後はちゃんと、物語的な力技も含めた、ほろ苦くとも甘いハッピーエンド。嫌いではありませんでした。
▼「どうしようもなく持ち合わせてしまう、エゴで勝手で、自尊的な、あるいは虚無的な、心情。行い」
とでもいうべきものを「人の業」と呼ぶならば、それぞれのキャラクターの「業」の掘り下げみたいなものは、さほど深くはありません。だけど、「家族」という不可思議なご縁に、なんだかんだ、最後はすがりたくなる人の弱さみたいなものへの、優しさは根底に感じられて、悪い後味ではありませんでした。