小澤身和子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
苦しい作品だ。解説で「少女版『キャッチャー・イン・ザ・ライ』」との謳い文句が付されていた時期があることを知ったが、言わんとすることはわかる。大都会の軽薄さへの失望、社会への反抗心、人生の実感のなさと空虚さといったものは確かに共通しているが、しかし押し潰されるような圧迫感と苦しみは、本書が段違いではないだろうか。個人的にはキャッチャー〜の主人公にはうんざりさせられたが、本書の主人公の痛みにはかなり心を寄せられるものがあった。特に両者の違いが明確なのはやはり異性との関係だろう。男性であるキャッチャー〜の主人公が自身の安全が確保された立場から女性を常に冷笑していたのに対し、女性である本作の主人公にとって、異性との関わりは常に社会の眼差しや要請に傷つくものであり、暴力により搾取される危機にも面し、また性交経験は実際的な肉体の痛み・負担を伴うものでしかなかった。この、両性におけるそもそもの立っている場所の違いが重たく胸にのしかかるし、両作品が世に出てから50年以上経過している現代においてもなお、共感できる部分が多いと思う。
新訳ということも影響しているかもしれないが、60年代の作品と言われなければわからないぐらい、現代にも普遍的な─いやむしろ現代の人間の方が自覚が多いのではと思う、息苦しさ、空虚さ、痛みが泣きたくなるぐらい率直に伝わってくる作品だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ言わずと知れた名作、新訳版で初めて読みました。
すごく読みやすかったです。もっと長い話というイメージだったので、本を見たとき、薄くて驚きました。
ファンタジーの金字塔…その後のファンタジーに影響を与えた本…等々、様々に言われていて、逆に楽しめるかどうか懐疑的でしたが、間違いなくワクワクしました。金字塔と言われるのも納得!
特に印象的だったのは「衣装だんす」。
これが異世界へ行く装置なのだということは、予備知識として、もちろん知っていました。最初は「ふんふん、こうなるのか」と、傍観するように読んでいましたが、最後に四人が元の世界に戻ってきたとき、思ったんです。「あれ、おかしいな。すごく寂しい」「わたし、またナルニアに戻りたくなってる?」
思えば、ハリー・ポッターで、一つの巻を読み終わって、続きを読みたくてたまらなくなるのは、毎回、物語の終わりにホグワーツからプリベット通りに戻るからでした。魔法の世界から、非魔法の(現実の)世界へ…。
ハリーは、最後には、ずっと魔法界にとどまりますが、私にとって「プリベット通りに帰ってくる」という行為は、「はやく魔法界に戻りたい!」という、たまらない高揚感を味わうための重要な装置だったんです。
「ゆきてかえりし物語」と言うと、こどもの成長を描く一つの形式のようですが、私にとって、「帰ってくる」という行為が、すごく重要なことだったんだなと、この本を読んで実感。
「衣装だんす」という言葉それ自体に魔法がかかったような気がします。 -
Posted by ブクログ
30歳という若さで夭折したシルヴィア・プラス唯一の長編小説。
日本で手に入る作品は詩集と、短編集である『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国 シルヴィア・プラス短篇集』くらい。
長編はこの『ベル・ジャー』一冊だけ。訳者後書きにも記されていたが少女版『ライ麦畑でつかまえて』と言われているとか。確かにそれも頷ける作品だった。
物語は1953年の夏、ローゼンバーグ夫妻の死刑執行のニュースから始まる。
マッカーシズム旋風吹き荒れるアメリカ。国民は共産主義の影に怯える集団ヒステリー状態で、友人や家族であっても少しでも共産主義の疑いがあるなら密告し、根拠の有無を問わず告発される。
更に今以上に女性は、女性として妻として、生き方を押し付けられてきた。
自分らしく生きることが難しい社会、環境でキャリア、人生に悩み、次第に精神を壊していく若い女性の姿を本書は描いていく。
そんな時代に主人公のエスター・グリーンウッドは優秀な成績を収めて、ニューヨークのファッション誌のインターンを勝ち取る。エスター・グリーンウッドは物書きになりたいと思っており、インターンはその足がかりになるとそう思っている。
しかし、エスターは精神を壊してしまう。
その結果、希死念慮が頭から離れなくなり、何度か自殺未遂も起こしてしまう。
そして精神病院に入院するまでに……。
その理由については明確な理由があるわけではないのだが、アメリカ社会に流れている空気が、そうさせてしまったように見える。
だからだろうか、今読んでもこの息苦しさは古臭くない。
あと余談だが、本書を読んで後半部分の精神病院の場面で『17歳のカルテ』を思い出した。
影響下にあるかも、と調べてみたら『17歳のカルテ』の原作は作者スザンナ・ケイセンの実体験が元になっていた。
スザンナ・ケイセンは18歳で自殺未遂を起こし、入院させられているのだが、その病院はシルヴィア・プラスが入院させられたところと同じなんだとか。