2021年に発売された本書であるが、年をまたいで読み始めることに。あっという間に読み終えてしまった。読み始めから「面白い作品に出合えたかも…」という期待を持たせたが、その予感は的中した。私個人としてはかなりハマって読めた。主人公のベスが非常に魅力的に映る(表紙のドラマ版の役者さんの印象もあるかもしれ
...続きを読むないが)。
単にチェスで無双しまくるかと思いきや、年齢が上がってくるにつけ、神童も人間関係やお酒におぼれて挫折を味わったりするさまを淡々とテンポよく描いていく。「淡々と」と書くとどうしても「あっさり」として物語に浸れないのかというとそうではなく、どうしてそうなるのかベスの心のうちがしっかりと描いているし、なんなら言葉以上に心のうちのベスは多弁なのである。それがまた主人公を魅力的に見せるゆえんである。
また、要所要所で出てくるベスを取り巻く友人やチェス仲間たちも単なるその場しのぎのキャラではなく、「ラスト」へ向かうための重要な役割を果たす。使い捨てのキャラクターが実は一人もおらず、「ベス」という人間を構成する重要なポジションにあるため、終盤はアツい!
きっと単に一人で無双するシーンの連発ではこうも物語には浸れなかったであろう。著者の構成力には恐れ入る。
本書は原版はかなり前に出されたのだが、チェスという「盤面」を創造させるためにかなり工夫が必要であったらしく、長らく邦訳されていなかったらしい。訳者の方もなんとか少しでも本書の世界観に浸れるように駒の動きなどを序盤に説明していたりと頑張っている。勿論、その努力は功を奏したと思うし、このように長らく未邦訳ながら「埋もれている」面白い本に出会えたという貴重な体験をさせていただいたことに感謝したい。