陸秋槎のレビュー一覧
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日本のミステリー作家にも敬意を払うあとがきにびっくりさせられた中国の作家によるハードボイルドミステリー。主人公は女探偵で、舞台は1930頃の架空の地域(省城と書かれる)。この女探偵は特に優れた能力もないし、財産もないのだけれど、知恵と肝の太さでどんどん真相に迫っていきます。基本的にはいなくなった女子学生を探すというお話です。謎解き的にもさほど入り組んでないのに解けていく楽しさは十分にあり、一昔前の中国の様子がわかるのと、中国人の名前の表記や本棚の本、詩の引用で昔の偉人による漢詩がでてきたりと周りの小道具がいちいち異文化で楽しめました。最初は薄い本だったので簡単に読めるかと思っていましたが、ふつ
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ネタバレ久しぶりの華文ミステリ。
たまには読んでみるかぐらいの気持ちだったがなかなかに面白かった。
路線的にはこってこてのハードボイルド。
それもそのはず、逝去40周年を迎えるロス・マクドナルドに捧げる一編とあれば。
その王道の中のそこここにまぶされる中華風味と、序盤で明らかになるものの、あれ、これってもしかして?と引き込むちょっとした設定の妙がにくい。
とある都市省城の資産家の姪が親友を探して欲しいと私立探偵劉の事務所を訪れる。
調査妨害もありつつ、巻き込まれ逮捕もありつつ、細い糸を辿るように行方を探っていく過程で見えてくる2人の少女の関係性。
最終盤の揺り戻しの「なぜ?」に応えるビターな真意も -
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ネタバレ陸秋搓の本は何冊か読んでいて、どれも割りと好きだ。
けれどこの本は作者が好きだからというよりも、タイトルの美しさで手に取った。
『雪が白いとき、かつそのときに限り』
実際に雪は事件にとって重要なアイテムではあったけれど、このタイトルの意味としては、思春期の儚さと、その瞬発力・集中力の強さを表したものなのではないか。
足跡のない白い雪に残された死体。
この密室と言っていい状況の作り方は、読んでもよくわからなかった。
平凡な能力しか持たない自分への嫌悪とか焦りなども、そこまで追いつめられるものなのかとも思う。
一生を平凡に過ごす人。
人生の初期にピークを迎えてしまった人。
そうだね。
人生も -
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1930年代の中国、私立探偵を営む女性のもとにひとりの女子学生が依頼を持ち込んできたことから、彼女は奇妙な因縁まつわる事件に巻き込まれていく。
端正で無駄のない筆致で綴られる、きわめて冷静なハードボイルドの筆致が、まだ年若い作者によるものだと思うとかなり驚く。並々ならぬ博識も、ほかの著作で片鱗を味わったものの本当に凄い。そして堅苦しさを懸念する縁遠い時代設定も「物事がどう進み、誰がなにを企てたか」をスマートに描いているので、意外なほどすんなりと物語を追える。ほんと巧い作家だと感心します。
登場人物たちが良い意味で皆「冷静な大人」ばかりなので、それなりのドロドロとした因縁話ではあるものの、激情 -
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1934年、中華民国。女性私立探偵・劉雅弦は、葛令儀という女学生から行方不明の友人・岑樹萱を探し出してほしいという依頼を受ける。樹萱の父親が借金を抱えたまま消えたことを突き止めた雅弦は、調査中に謎の男に襲われてしまう。刺客を仕向けたのは、令儀の伯父で地元の大物である葛天錫だった。天錫はなぜ雅弦を妨害するのか。そして、令儀による依頼の真の目的とは。友情、恋慕、哀憫。錯綜する人間関係の中で、雅弦は耐え難い悲劇を目の当たりにする。ロス・マクドナルドに捧げる、華文ハードボイルドの傑作。
しばらくロス・マクドナルドは読んでいないが、影響を受けていることはよく分かった。漢詩の意味が何となくしか理解できな -
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女性探偵・劉のもとへ葛令儀という女学生から行方不明になった友人・岑樹萱を探してほしいと依頼を受ける。
安くはない費用を女学生が払えるのかと言えば、彼女は地元の大物、葛天錫の姪であった。
岑の行方を調べるうちに謎の男に襲われ、妨害された理由を知ったときに複雑な事情を知ることになる。
岑が誘拐されたこととその後の錯綜する人間関係。
単なる友情では済まされなくなったとき、何が残ったのか。
最後まで言葉少なく感情のない岑樹萱(令淑)が、復讐をやり遂げたとき…
劉との会話に寂しさを感じた。
1930年代の中国と女性探偵の活躍という不思議な感覚ながらもこの事件の真相を思うままに楽しめた。
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表題作「ガーンズバック変換」は香川県の「ネット・スマホ依存症対策条例」がモチーフ。現実よりは一歩踏みこんだ世界を描いているのだけど、現実と地続きのディストピアで、いかにも実現しちゃいそうでぞくぞくする。主人公が、液晶画面を遮断するメガネに形だけ似せた伊達メガネを作るのは、あくまでも自分のサバイバルを旨とした小さな抵抗。けっして地下組織に加わったり、表立って反対運動をしたりという大きなた抵抗ではない。でも、もしかしたらそういう心持ちのほうが長続きするかもしれないし、それが広がっていけば大きな抵抗網になるのかもしれない……ってそれがこの短編の眼目ではたぶんなくて、最後は百合的な友情に着地するんだけ
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ネタバレ短篇集。8篇収録。
理論とかすっとばしてただひたすらに読んでいく(難しくて理解できないところもあるので…)こういう作品が作られていることが嬉しい。
物語の歌い手
上質な童話というか、こういった中世の世界観大好き。
三つの演奏会用練習曲
こちらはインド。不思議な読み心地。
開かれた世界から有限宇宙へ
ゲーム世界の理論の作り込みってこんなに大変なんですね(汗
インディアン・ロープ・トリックとヴァジュラナーガ
読み終えて、ごめんなさい分かりません(笑)と思ったら
『異常論文』掲載の作品なんですね。私にはハードル高すぎました。
ガーンズバック変換
香川県にだけ存在するガーンズバック変換。面 -
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SF短編小説集、というよりは、著者の膨大な知識や興味から編纂された空想小説集といった趣きで、その知識量にまず驚かされました。
少女と吟遊詩人の巡り合いの旅路を描くファンタジックな「物語の歌い手」に、まさに頷かされてしまいそうになる『異常論文』たる「インディアン・ロープ・トリックとヴァジュラナーガ」から、結論の鮮やかさがミステリの謎解きめいた脳科学SF「サンクチュアリ」、スマホゲームの開発をめぐり小気味いい会話で空想世界の構築を楽しむ「開かれた世界(オープンワールド)から有限宇宙へ」など、かなり高度でディープな仮想世界がぎっしりとどの短編にも形作られていて、凄い密度だなと思いました。
その中 -
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犯人当て小説を書いている主人公の陸秋槎が自身の小説がフェアかどうかを数学の天才である韓采蘆に確認してもらいにいき、仲良くなる物語。
作中作とそれに対しての批評が数学を交えて語られ、現実でも事件が起こったりする。本格ミステリや百合の話を期待すると、現実の事件の解決方法や仲の進展具合のなさや描写の少なさに少し拍子抜けをくらうが、一人のミステリファンとしてはとても興味深い作品だった。数学が推理に説得力を与えていたり、ミステリが数学の複雑さを分かりやすく解説していたりと相互のバランスがちょうど良かった。
個人的には「フェルマー最後の事件」が好みだった。ただあまりジャンルに区分される物語ではないた -
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「忠義・忠愛とは」
ー中国の楚王は基礎を武力ではなく巫術を称え祭儀を重んじた。その命を授かる観一家に殺害異変が起きる。さらにもう一方の家族へ殺害が広がる。そこには巫女に関わる親族間での厳しい規則と躾が人を変え殺害を巻き起こすミステリー、と思いきや、犯人はさらに別人。謎を解こうとする豪族の娘葵は頭脳明晰で豊富な知識を持つ、だが人の心を読む、情に薄く人への愛情が欠ける性格がキーとなる。葵の目的は「邪教の普及」、それと「巫女の禁忌」にまつわる侍女の行動。
中国の古典、社形祭祈儀式、名称など難しい単語が多く出るが、歴史を語る論語、礼記、詩経、漢書など、兵を持って楚国を破った伍子胥、楚国の復興に心を砕い