鈴木董のレビュー一覧
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「文字世界」という概念で世界をエリア分けし、古代から現代、未来までの世界史を概観する。
世界史の書籍や教科書は、空間によるエリア分けでぶつ切りにしてしまう、単なる地域史の寄せ集めでしかないようなものばかりである。しかしこの本は「文字世界」という区切りにしたことで、時間を経るにつれて空間的にエリアが変動していく。歴史を解釈する上でとても有用な区切り方だと思う。お互いの文字世界の関わり方も節々に解説されているのも良い。
中高生が教科書で世界史を学ぶ前に、まずこの本で概観をつかんでからにすると、飲み込みが早くなるのではないか。「大人の」とあるが、ぜひ中高生にも読んでほしいと思う。 -
Posted by ブクログ
題名はオスマン帝国の勃興とその落日のようだが
主役はそこでなはなく
現代でも主要な民族紛争の舞台である
バルカンおよびパレスティナ
その原因のひとつとして地域的特性を挙げ
近代以前のオスマントルコによる統治と
近代以降の
西洋ナショナリズム(ひとつの民族ひとつの国家)による
「西洋の衝撃」を解く論考
近代西洋における国民国家思想と現実はなぜ生まれたか
その対比として近代以前のイスラム世界はどうあったか
そしてそれを継いだオスマン帝国が影響力を失っていき
トルコ共和国となっていく過程で何が起こったか
というようなことが説明される
当然ながら民族紛争はイスラム西洋間のみの衝突でなく
歴史という大局 -
Posted by ブクログ
鈴木董氏の著作は今年2冊目で、前回も思ったが、僕は彼の文章がとても好きだ。美しい言葉選びに、知性あふれる論の展開。そして細かなエピソードが面白い。今回も多くの学びと新たな気付きを頂いた。
フランス料理、中華料理と並び、世界三大料理に数えられるトルコ料理。日本では今ひとつ馴染みがないが、紐解いてみれば世界でも有数の食の交点であることが分かる。
歴史上最も重要な都市のひとつにイスタンブルは挙げられる。それは簡単にいえば東西の洋の繋ぎ目であり、古代ペルシア帝国、古代ギリシア、ローマ・ビザンツ帝国、そしてオスマン帝国という名だたる文化の興隆を経験した土地だからである。
気候風土を取ってみても、トルコと -
Posted by ブクログ
現在の世界を五つの文字世界に分ける。
そして、それをそれぞれの圏内を文明と文化の二つの位相に分ける。
これが本書の基本的な分析の枠組みだ。
知を体系化する方法としての宗教と学問が、それぞれの文字圏でどう立ち現れてくるか。
これが文化のハードの側面とすれば、ソフトの側面として組織を取り上げ、家・企業・国家の権力の継承の機構を具体例に分析する。
衣食住の生活文化の分析がそのあとに続く。
最後のパートは近現代のグローバリゼーションと文化交流を整理し、「文明」が生き延びるにはどうすべきかを提言する。
取り上げられているそれぞれの文化・文明の具体例については、もうちょっと詳しく読みたいと思う個所も -
Posted by ブクログ
これまでの世界史は、並存する個々の「文化世界」からみた自己中心的な視点からの記述に止まり、諸文明の相対性に着目したトインビーですら西欧中心主義からの脱却はなし得なかった。本書は、世界全体を覆う「グローバル・システム」の成立により単一文化中心的な視点はもはや妥当せず、様々な文化のライフ・サイクルを軸に文明史を捉え直すべきと唱える。
同様の試みとしてはハンチントン「文明の衝突」がすぐに思い浮かぶが、国際政治学に属する同書が「文明」と「文化」との違いをあまり意識せず、イデオロギー対立終結後の対立軸としてやや曖昧に「文明」を扱っていたのに対し、世界史に軸を置く本書は両者を相補関係に立つが異なる概念