山尾悠子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
面白かったです。
幻想的で残酷な、崩壊していく美しい世界に浸りました。
「夢の棲む街」「遠近法」「透明族に関するエスキス」が特に好きでした。
夢の~は、人でないもののグロテスクな描写が素敵で、そしてカタストロフィーへ…
遠近法は、《腸詰宇宙》が圧倒的な存在感で構築されていました。絵画のようです。
透明族~は、透明な侏儒がぱん!と弾ける様が目に見えるようでした。透明でぎちぎちと犇めきあうのを、踏み潰すと可視性の内容物(酷い悪臭をもつ)が現れるのがグロテスク。
短編でも、残酷さがあって充足しました。
ほとんど、わたしが生まれる前に書かれてるんだな…。
この初期短編集のあと長い休筆期間に入られてたそうですが、最近は執筆されていて、山尾さんの新作が読めるのが嬉しいです。 -
Posted by ブクログ
稀少石のきらめきを思わせる硬質な文章。薔薇窓のように装飾的な舞台装置。山尾悠子の小説を読むのは、ゴシック様式の大聖堂の内部を探索するのに似ている。緻密で入り組んだ構造は、一度で全体像を把握するのを困難にしている。暗がりには冷気が漂い、陰気な亡霊の棲まう気配まで感じるようだ。それだけに、天窓から太陽の光が降りそそぐ時、来訪者は天上の光を仰ぎ見るような感覚にうち震えることになる。
『ラピスラズリ』は、冬になると眠りにつく習性を持つ〈冬眠者〉をめぐる5つの物語である。物語の舞台は、深夜の画廊、中世西欧のシャトー、未来の日本の片田舎、13世紀のイタリアなど、場所も時代もまちまちだ。それぞれの話は微妙につながっているが、説明が極端に少なく、しかも不意に途切れてしまったりするので、読者は想像力をフルに働かせて行間を補わなければならない。そういう作業が苦にならない人しか読破できないが、一度読破したら麻薬のように中毒になる、そういうタイプの作品だ。
*「銅版」/深夜の画廊を訪れた〈私〉は3枚の銅版画に見入っている。絵のタイトルは〈人形狂いの奥方への使い〉〈冬寝室〉〈使用人の反乱〉という。店主の説明を聞きながら、〈私〉は幼いころ母と訪れた画廊で見た別の銅版画のことを思い出す。そのタイトルは〈痘瘡神〉〈冬の花火〉〈幼いラウダーテと姉〉というのだった。
*「閑日」/――これがおまえたちが知ろうとしない〈冬〉なんだよ。大晦日の雪の日、主人の〈冬眠者〉一族が眠るシャトーに向って少年は叫んだ。一方、冬眠の途中で目覚めた少女ラウダーテは夜を彷徨う一人の亡霊と出会う。
*「竈の秋」/シャトーでは冬の棟開きが目前に控えていたが、今年は例年になく不穏な気配があった。何百体ものビスクドール、痘瘡の予兆、シャトー差し押さえのための使者。そんな中、成長したラウダーテは別の亡霊と出会う。ラウダーテの弟トビアは病弱な体に倦み疲れ、輪廻転生を夢見ながら眠りにつく。
*「トビアス」/文明が衰退して数世紀たった日本で、冬眠者の少女は自分の来し方を回想する。いなくなった母、春を待たずに死んでしまった犬のことなど…。
*「青金石」/1224年、アッシジ近郊。死期の近づいた聖フランチェスコのもとに一人の青年が訪れる。冬になると眠ってしまう体質のせいで結婚できず、家族を持つことを望めない青年は、懺悔の後で不思議な体験談を語る。瑠璃色の光に包まれて、春の天使が降臨してきた奇蹟のことを。
「閑日」と「竈の秋」の2篇が物語としてまとまっており、分量からいってもこの2つが本書の中核であることは疑いない。しかし最後の「青金石」を読んで私ははっとした。筋らしい筋はなく、純粋なイメージと言葉だけで紡がれた物語。眠りの底から這い出る際の不快感と、その苦痛を打ち消して余りある目覚めの朝の素晴らしさ。〈冬眠者〉の長い物語が必要だった理由に、ここにきて初めて思い到る。冬眠だけではなく、そのあとに続く〈春の目覚め〉までが主題だったのだ、と。『ラピスラズリ』は、限りなく死に近い仮死のあとに訪れる復活の恩寵を描いた作品ではないだろうか。
そしてそれは、20年の休眠期間を経て執筆活動を再開した、作者自身の心境にも重なるところがあるのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
作品集成→厳選→それに足す、
という軌跡が愛されている証拠。
20101129mixiより
間違いなく私の読書歴の頂点に位置する作家になりそう。
『夢の棲む街』★
『月蝕』★
『ムーンゲイト』★
『遠近法』★
『童話・支那風小夜曲集』
『透明族に関するエスキス』
『私はその男にハンザ街で出会った』★
『傳説』★
『月齢』★
『眠れる美女』★
『天使論』★
付録
『人形の棲処』★
『領春館の話』★
『チキン嬢の家』
『ラヴクラフトとその偽作集団』★
記憶に強く残っている作品に星をつけようと思ったが、
そんな試みもくだらないくらいにそれぞれが強い印象を残す。
ここまで鮮烈で確固としたイメージを植えつけられるとは。
驚愕に近い。 -
Posted by ブクログ
「挿絵:酒井駒子」で平積みされているのを見て咄嗟に入手していた1冊。せっかくだからタイトルに合わせて5月に読もう、と少し寝かせていた。
死者と生者を面会させる「ビジネス」でつながった4編。それぞれに登場する少女たち(かつての、も含む)が生々しくも印象的で、春と夏の間のなんとも言えない季節感にぴったりだった。緑の匂いも、雨の気配も、行間から立ち上がるような感じ。
ダークスーツの日本人「タキ氏」が、ミステリアスな魅力にあふれていて、ずるい。西洋っぽい舞台はアメリカなのかイギリスだったのか。そのどの場面にもタキ氏は似つかわしくない雰囲気のくせに、存在自体は希薄で。さーっと存在が消えていく去り際なんか、特にずるいよなあ。
幼児を育てている身からすると、1話の幼女と、4話の少女は胸にくるものがある。最近突然暑い日が多いけれど、夏の手前ってこう、情緒があったよね、と思い出させてくれる1冊でした。 -
Posted by ブクログ
変わらずの山尾ワールドの中で
右往左往する私の頭
あっちで何かが
こっちでこんなことが
幻想妄想の中で
もみくちゃにされてもう朦朧と‥
冬に眠る人たちと
それを支える人々
事件は起こり事故は起こる
時代を超えて引き継がれる
その種族のなんともすごい世界❗️
まるで死に向かう滅亡の話のようで
実は循環、再生の物語
と解説では伝えている
この山尾ワールド嫌いじゃない!
どっぷり浸かってしまう
そして
季節の移り変わりの表現が素敵すぎる
初雪が積もった日の朝を
『すべての物音を吸い取ってしまう真綿の静寂』
と‥
本当にその通りです!と言いたくなる
すべての表現が素敵すぎる
ラピスラズリは大好きな石
幸運を招く最強の聖石であり、
その色はすべての人の
心を奪うのではないでしょうか?
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Posted by ブクログ
ネタバレ初読、自分の中に生まれたのは、強固できらびやかな世界への感嘆でした。
内面語彙が少なく、世界の叙述だけを塗り重ねるので、読者は人物の心情を考える隙もなく、世界の情報だけをひたすらに受け取ることになる。言い切りの形を連ねて世界を形作る書き方は「だから起きる」という因果を断ち切って「起きてしまう」という事実だけが残る。体感としてクリスタル等の鉱質のような、そして鉱質から乱反射される幾何学な模様のような文体だと受け取りました。尽くされた文体は贅肉を削ぎ、体幹を極限まで鍛えたような強靭さがある。
━━━ 街の外に何があるのか、街の人々は誰も知らない。浅い漏斗型の街は、四方を荒野に取り囲まれている。……街の噂によれば、泡立つ紺青の大洋の中心に円形の平坦な大陸があり、その中央に臍のように陥没したところがこの街なのだという(「夢の棲む街」)
━━━ 直立した宇宙の最上部と最下部に水平に嵌めこまれた、二枚のむかいあわせの鏡。と同時にその二枚の鏡は、背中あわせにぴったり貼り付けられている(「遠近法」)
にもかかわらず、流れ込む言葉によって脳内に積みあげられる世界は、怪しく艶やかで、生めかしい。しかもその妖麗さは情緒的表現からくるのではない。精巧緻密な文における構築から、世界は細やかな部分まで作りこまれてゆく。部分が部分へ接続し、まるでひとつの円環のように脈打ちはじめる。
天使、人魚、天体、侏儒など幻想的なモチーフが、しかし夢見心地なわけではなく身体的で確かな温度で描かれる。ある種、生めかしいを超えて醜怪でもある。モチーフは生き物のように手ざわりを持ち、匂いと湿度を帯びます。崇高なものが醜怪なものへと変幻するのです。
装飾に継ぐ装飾によって様々な形質が脳内に流れ込む。後書に山尾悠子自身が書いている「想像力の器械体操」という言葉が山尾悠子を掴むのに似つかわしいイメージだなと思いました。
そして局所に差し込まれる神話性。伝説や超人的な存在による世界の崩壊。「夢の棲む街」「ムーンゲイト」「遠近法」「パラス・アテネ」いずれにしても世界を積みあげた先にカタストロフィが待っている。積みあげたものが壮大になればなるほど、瓦解する時の密度は肥大する。
「パラス・アテネ」
月と狼神と繭が赤くなる、この世に現われる破壊神の伝説がある。横顔だけを人に見せて通り過ぎた創世の神々とは異なり、その神は真正面から人の世を見すえる。天から降るのではなく、地上に人として生まれ、やがて赤い繭の中から四つ脚の姿となって出現する……
このような伝説がこの土地にある。狼領商隊の生き残りとして土地神となった豺王は、まるで伝説の中心に引き寄せられるように機織りの天才・二位と出会う。その出会いを起点に、これまで語られてきた伝説が、真に出来事として動きはじめる。
特筆するは終盤。
━━━ 糸の端が、咽喉の矢傷から迸る血潮に浸って、真紅の色を吸いあげつつあった。勢い激しく噴きだし始めた白い糸のその勢いよりも、血潮を吸いあげた糸が染まっていく勢いのほうが、なお盛んと見えた(「パラス・アテネ」)
意図的に作り上げられたカオスの中で、従一位と二位を包む赤い繭と、血潮を吸い上げ赤に染まっていく豺王の繭が美しい。繭の変態で物語は終わりますから、この後が気になります。
しかも伝説では、破壊神は赤い繭から四つ脚で産まれるとされていました。けれど破壊王は皇帝の息子だったようで、ならば赤い繭から生まれようとしているものは何なのか。破壊神か、救世主か、はたまたどちらともないのか。刺客が見届けると言ったその先には、何があるのか。
赤い繭に眼を灼かれるかのような気分でした。