あらすじ
初期のファンタジー小説集『オットーと魔術師』収録の表題作品が、酒井駒子の挿絵とともによみがえる。今は亡き人が大切な人の許を訪れる、その仲立ちをするのは謎の日本人ビジネスマン、タキ氏。まばゆさと湿り気、黒塗りのリムジン、どこかでひりひりと鳴り続ける電話の音…みずみずしい初夏の空気を存分に織り込み、夏の入口にふさわしい、鮮やかな印象を残す4話。
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Posted by ブクログ
かわいらしくてつい微笑んでしまう描写や、
読後しばらくしてからもふと思いだしてしまう美しい描写がもーたまらない。
タキ氏!かわいいぞ!!
真夏にエアコンガンガンの部屋で読んでるわたしが言うんだけど、
ほんと初夏って感じするーー
Posted by ブクログ
その紙の厚さを指先で感じながら、ディテールを追う
挿絵に目を奪われ世界に閉じ込められる
耳鳴りを誘うような息の詰まる静寂な世界
線香花火の火球が小刻みに震えるような読後に、紙の質感が実体として残る
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美しい文章にうっとりしながら読みました。酒井駒子さんの挿絵もセンスが素晴らしい。シリーズとしてぜひもう何冊か読みたいので、復刊をきっかけに、新しく書かれたりしないかな……。
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酒井駒子さんの挿絵に惹かれて手に取りました。
あの世の人と、この世の人が出会う物語。
『ツナグ』を連想しました。
出会いの場面をセッティングするタキ氏が行なっているビジネスとはどんなものなのかにも興味が湧きました。
Posted by ブクログ
1980年刊行の『オットーと魔術師』収録作品を、酒井駒子の挿絵を加え2024年に発行。初夏の雰囲気たっぷりに一晩の不思議な体験をする4話構成のファンタジー作品。酒井駒子の絵もどこか涼やかで、これは夏の今読むべき!と(まんまと)思わされた。
初めての山尾悠子作品だったが、あまりに読みやすいので驚いた。それもそのはず、巻末の解説によると作者が若い時の作品であり、女の子向けの雑誌に掲載され、しかも一晩三十枚のペースで書いたという。難しいところも無いので、スッと世界に入っていけて最後までしっかりと面白いので、ファンタジー好きな人にはお勧めします。新しくはない作品だが、空気感は今でも楽しめると思う。
1997年に世界幻想文学大賞を獲ったジェフリー・フォードの『白い果実』の翻訳者は3人いた。その一人が山尾悠子で、供訳者の金原瑞人、谷垣暁美が日本語訳で翻訳したものを山尾文体でリライトするという贅沢なものだった。『白い果実』は残虐非道の数々が巻き起こるが、幽玄な美しい情景が浮かぶ不思議な読書体験だった。山尾悠子の名は松岡正剛の千夜千冊でも「日本のファンタジーといえば、稲垣足穂と山尾悠子」と書かれていた。
そんな骨太なイメージだったので恐る恐る読んでしまった。でも入り口としては良かったのかもしれない。もっと他の作品も読んでみたいと(まんまと)思わされた。
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まず本の見た目が素敵。手に取りたくなる。
情景が浮かぶ。6月に読むのにぴったり。
ページをめくりながり、挿絵に驚く。良すぎる。
美しい映画になりそう。
Posted by ブクログ
初夏の頃死者が一日よみがえるビジネスですとタキ氏淡々//タキ氏は七歳の少女、オリーブ・トーマスを一日だけ誘拐した。/自分とワン・ペアである、事故で死んだ双子の兄を取り戻すため、権力も財力もあり十八歳のナオミはタキ氏を脅迫する。《あたしの意志は、あらゆる障害を認めません。》p.65/一族の通夜でミノ夫人は子供の頃に出会ったタキ氏を再び見かける。《全世界はね、親しい人たちばかりで輪になっているようなものなんだわ》p.151/逃げ出したクライアントにタキ氏たちが右往左往。過重労働、けっこう苦労してます。
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皺ひとつないダークスーツに身を包んだ正体不明の日本人ビジネスマン、タキ氏。故人を生の世界へ連れ戻す、時間制限付きの"ビジネス"を描いたジェントルゴースト・ストーリー。著者初期作の復刊。
死神は生者を死の世界へと連れ去るけれど、タキ氏がおこなう「ギブのビジネス」はその逆だと言えばまあまあ合っていると思う。だが、話の主体になるのは6歳から50代までの女性たちであり、タキ氏はあくまで彼女らをエスコートする狂言回し。元はコバルト文庫のために書き下ろした少女小説だ。
4つの連作のうち、「通夜の客」は東雅夫・編のアンソロジー『少女怪談』で既読だが、お屋敷、美濃夫人、双子たちと、和洋折衷のモチーフが重ねて描かれる幻想的な〈五月の日本〉の空気感が抜群によく、やっぱり完成度が高いなと思う。「オリーブ・トーマス」も導入用の可愛らしい話に見えて、父親の顔知らない娘当事者としてリアリズムを感じるところがあるし、「夏への一日」の映像的なディティール描写も印象に残る。そして作品全体の閉じ方がお洒落! ちょっと跳ねた感じがとても可愛らしい。内容は全く違うけれど、山尾作品のなかでは「童話・支那風小夜曲集」に似た抜け感があると思う。
どの話も語りは三人称だが細かく操作されていて、第一話が一番タキ氏に近く、第二話は死者との再会を強く望む生者の視点、第三話は"ビジネス"の記憶を持つ生者と彼女を見つめる若者の視点、第四話でついに死者の視点に入り込んでいく。それぞれの角度からタキ氏とそのビジネスが描かれるも、詳細は最後までモヤモヤっとしている。言ってしまえばシステムの設定があいまいでゆるい、だからこそ気負わずに読める。それでいて親の再婚や双子などのモチーフが各話で少しずつリンクする構成になっていたり。こういう軽いタッチの少女小説を山尾悠子の文章で味わえるのは本当に嬉しい。
〈初夏〉が入ったタイトルにふさわしい軽みと余裕のある小説の作りに、経済的に豊かだった時代の空気を感じ取ってしまうのは44年後(?!)の読者のこじつけなのだろうか。80年刊行ということを念頭に置くと、どことはハッキリ特定できないけれどフワッと素敵な外国のイメージや、日本人ビジネスマンのステレオタイプを逆手に取ったキャラ造形など、日本という国が経済的な「盛夏」に達する直前の「初夏」が封じ込められた硝子壜のような、そんな作品にも思えるのだ。
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連作集。あの世とこの世を繋ぐ謎のビジネスが存在する世界で、この世に時間限定で戻ってくることができるサービスを担当しているタキ氏がどのお話にも登場する。もう一度会いたい人がいたり、しなければいけないことがあったり、それぞれの理由でこの世に戻ってはきたものの、思うようにはいかず、空回りしているうちに制限時間がきてしまう。生きていたあいだにうまくいかなかった人との関係が、生き返ったからといって好転するわけがないのだ。この世に戻ってきた理由がピュアな第三話が一番好き。
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酒井駒子さんの挿絵に惹かれて読み始めたが、
この世とあの夜の仲介人、タキ氏と、各章に登場する少女たちとの物語が、ファンタジーでありながら現実と地続きである物語のように感じられ、一気に読んでしまった。
物語のミステリアスさ、幻想的な内容に、酒井さんの挿絵がピッタリハマり、絵画的な美しさを醸し出している。
4話の中では、「オリーブ・トーマス」が、特に印象深かった。
著者の他の作品も読んでみたい。
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酒井駒子さんの絵が大好きなので、表紙に惹かれて手に取った
作中ずっと夏の空気があって今の時期に出会えて良かったな〜!
山尾悠子さん、知らなかったけどとても好きだったので他の作品も読んでみたい
辻村深月さんの『ツナグ』を思い出した
タキさんは、現実にいるなら岡田将生さんのイメージだ(「虎に翼」の航一さんの印象に影響されている自覚はある)
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連作短編4篇
あの世とこの世を結ぶビジネスに関わるタキ氏。死んだ人からの一度きりのオファーでこの世に戻って来ることができる。タイムリミットは夜中の12時。会いたい人に会ったり見たい風景を眺めたり、そんな不思議な淡いの時間を描いている。タキ氏がとてもクールで魅力的。
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幻と現実の境界線が曖昧な日常を、生者と死者を結ぶタキ氏を中心に、両者が織り交ぜられていく。浮遊感を感じる物語だったが、腑に落ちるシーンもあり、四遍を通して少しずつタキ氏の印象が変わっていくような不思議な感覚に包まれた。
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日本が誇る伝説的幻想作家、山尾悠子の初期作品。
絵本作家の酒井駒子が挿画を手掛けている。しかも美しいカラーで。
日本人ビジネスマンのタキ氏なる人物が死者と生者を仲介して会わせるというもの。
そのそれぞれの4つの案件(?)が描かれている。
個人的には山尾悠子作品はその後の作品のほうが好きではあるのだが、優しくノスタルジックな本作も良かった。
初夏である今に読めて良かったかも。図らずも作品内日時と同じような日時に読んでいて妙にテンションが上がったりした。
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「空に向かって、夫人は深呼吸した。『あの人は、ビジネスにとても熱心な人なのよ。──そうして全世界はね、親しい人たちばかりで輪になっているようなものなんだわ』『何ですか』『とても、幸福だということ』」
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初読。同じ作者の本を以前読んだときは、あらすじを追うのも一苦労という感じだったけど、これはわりとすんなり読めた。描写がきれいで印象的だった。「オリーブ・トーマス」「通夜の客」がこのみ。
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山尾悠子さん、存じ上げませんでした。1980年に25歳で刊行した本作、44年の時を経て文庫復刊って、名作? 初夏は過ぎましたが、今に相応しいタイトルと復刊の魅力に惹かれ、手にしました。
死者と生者を仲介人がつなぐ物語‥‥そうそう、ありましたね、そんなお話。4編からなりますが、共通点が、死者と生者を仲介する日本人ビジネスマン"タキ氏"。
そして、4編とも舞台は日本ではない異国の地。さらに、共通してヒロイン的な少女、または幼さを残す女性が登場します。
少々特異に感じたのは、「つなぐ依頼は死者側から」という設定で、生者の未練や願いを果たす、謎の解決ではない点です。また、タキ氏からはビジネス、組織、ギブアンドテイク、取引などという言葉がポンポン出てきます。
幻想的な雰囲気なのに、死者との邂逅が重さを感じさせないのは、この辺にあるのでしょうか?
ネタバレはできませんが、読みどころは、4編それぞれに設定された死者・生者・タキ氏の立場と関わりと展開だと思います。そして、初夏の光や風や雨の瑞々しさを感じさせる描写が印象的です。
各編を読み進める毎に、タキ氏の印象が変化し、内容が複雑化する気がするのは、多視点描写のせいでしょうか?
読み手の想像の余白を残しながら、幻想的な内容です。初出が44年も前なのに古さを感じず、今でも色褪せない作品だと思いました。
25歳で本作を書きあげた山尾さんは、その後どんな作風で作品を世に出したのか、関心が湧いてきました。機会があれば読んでみたいと思います。