山尾悠子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
読解自体困難を伴う小説を書く作家の、自註自解。
ゼロから読む快楽(黒い靄のなか手探り)と、
本書を読んで読み深めていく快楽(松明、耳元で囁いてくれる声、以前通った道のり)と、
両方が成立する世界に、なった。
嬉しい限り。
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目次
読書遍歴のこと 序文に代えて
〈Ⅰ〉
月光・擦過傷・火傷
綺羅の海峡 赤江瀑
教育実習の頃
東京ステーションホテル、鎌倉山ノ内澁澤龍彦邸
ボルヘスをめぐるアンケート
人形国家の起源 笙野頼子『硝子生命論』
歪み真珠の話
『夢の遠近法』自作解説
架空の土地を裸足で旅する快楽 間宮緑『塔の中の女』
美しい犬
デルヴォーの絵の中の物語
私が選ぶ -
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寄宿舎をでたばかりの、まだ少女と呼べるほど若い新婦と、年の離れた「私」との新婚旅行。プラットホームの柱と柱のあいだにあるホテル、深夜の決闘、〈夜の宮殿〉、交霊会、〈山の人魚〉の葬儀など、シュルレアリスティックなイメージの連なりがデジャヴのような眩暈を引き起こす幻想旅行記。
モノクロの銅版画を思わせる緻密な筆致で、油膜のようなあやしい煌めきをも感じる夜の世界を描きだす。これぞ山尾悠子、という一冊だが語り口は軽快で、旅先でさまざまな不思議に遭遇する「私」と一緒に戸惑いつつ、美学に貫かれた遊園地を彷徨い歩いているかのような読み心地。〈夜の宮殿〉や透明族なども登場し、過去作をコラージュした〈山尾バ -
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〈冥府よりの誘惑者、あるいは暗い美青年としての吸血鬼〉を創出し、天使や妖の美に悦んで屈服するマゾヒスティックな願望を描いた、耽美小説の極北。編者・山尾悠子。
吸血鬼小説を読み漁っていたころ、『就眠儀式』『天使』は特にお気に入りの作品集だった。旧仮名遣いの綺羅綺羅しい文体と、主人公と読者を暗い森へ誘惑するヴァンパイア。萩尾望都の『ポーの一族』の初出が72年、アン・ライスの『インタビュー・ウィズ・ザ・ヴァンパイア』は76年。70年に「契」を発表した須永先生は、耽美的吸血鬼小説の先駆者だった。
とはいえ、その原型はやはりレ・ファニュの『カーミラ』に見つけられるだろう。『カーミラ』は、少女が激しく -
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ネタバレ2012年4月に廉価版「天使」を読んで以下のように書いた。
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もっともっと凄まじくおどろおどろしいものを想像していたのだが、意外にポップ。
にやりにやりと口元が緩んでしまう。
しかしまあ、それだけかとも思う。
薄い夕暮れの中にさまよう程度のもので、別の世界や遠いところへ奪取していかれるほどのものでもない、小品たち。
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その後アンソロジーで出会ったり、え、Twitterとかブログとかやってんのと驚いて時々覗くくらいで、いい読者ではなかった。
が、この2021年5月15日にご逝去され、なんと山尾悠子が編んだというからには、読まずばおれまい。
「就眠儀式」「天使」収録の諸作では執拗に吸血鬼志 -
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ネタバレ気合の入っていた「ラピスラズリ」、ルールそれ自体の不透明性のため何が何やら見通しづらい「飛ぶ孔雀」と比べると、かなり読みやすい。
なにせ5日間の新婚旅行が時系列に沿って描かれる、それだけで随分親切な書き方なのだ。
が、そこで描きあげられるのはやはり茫漠と……それがいいのだが……まるで舞台劇のよう。
駅舎ホテル、〈山の宮殿〉、〈山のお屋敷〉という3つの巨大建造物が描かれ、それぞれに人々がごった返しているが、読者=観客の前で書割や装置が早変わりして、登場人物もそんなに多くはいないような印象。
対になっていたり、分身関係であったり。
だいいち舞踏集団の伯母が最重要人物なのだし、この伯母、作品全体をも -
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面白かったです。
幻想的で残酷な、崩壊していく美しい世界に浸りました。
「夢の棲む街」「遠近法」「透明族に関するエスキス」が特に好きでした。
夢の~は、人でないもののグロテスクな描写が素敵で、そしてカタストロフィーへ…
遠近法は、《腸詰宇宙》が圧倒的な存在感で構築されていました。絵画のようです。
透明族~は、透明な侏儒がぱん!と弾ける様が目に見えるようでした。透明でぎちぎちと犇めきあうのを、踏み潰すと可視性の内容物(酷い悪臭をもつ)が現れるのがグロテスク。
短編でも、残酷さがあって充足しました。
ほとんど、わたしが生まれる前に書かれてるんだな…。
この初期短編集のあと長い休筆期間に入られてたそ