藤本和子のレビュー一覧
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死を身近に感じる度に手にとる作品。
通夜、葬儀に続いて故人の家に空き巣が入り、寝る場所もなく近所の銭湯にある大広間のハンモックで1夜を過ごした。そこで夜通し読んだ思い出深い1冊。
私たちが住む現実世界と似てはいても何か決定的に違っている世界、穏やかな憂鬱に包まれたiDEATH。
そこに属す全てのものが死の沈黙、平穏に何となく惹かれているような雰囲気で魅力的。
死者たちは永遠の明るさの中にいる。
足をかけていた枝から足をはずした。
そのあとの彼女は、空気の上にひとりで立っていた。
こんな表現があるんだと思った。音もなく静かで美しいと思えてしまう。 -
Posted by ブクログ
女性ノーベル賞作家の四作目。
白人の庇護を受けて育った娘と、黒人だけに囲まれて育った青年。男女の心の葛藤が良く表現されている恋物語…などという単純なものではなかったです。
文化的に異なる環境で育ったが故に、娘は相手を辛辣な言葉で非難したり蔑んだりしてしまいます。相手にも育ってきた環境や世界観があるなかで、白人世界で育ってきた価値観を振りかざし、ただ自分に迎合させようとするのは、いかがなものかと考えてしまう。そういった相手を尊重しない文化的な軋轢を男女関係を使ってよく表していると思います。しかも、それを白人と黒人ではなく、黒人同士で描き切っているのですから。
ただ、この小説は読書初心者や海外文学に不慣れな人は、読まない方がいいでしょう。いきなり人名が出てきて「この人誰?」となったり、延々と名前のわからない誰のことを言っているのだろうと思っていると、100ページ近くも読み進めてから、やっとその人の人名が書かれていたりします。集中して読書に没頭する時間が確保できないと、頭が浦島さんになってしまうかもしれません。エンディングもはっきりしないので、その辺りが気になる人には向かないかもしれないですね。
自分は、ハッとするような言葉もあり、読んで良かったと思っていますが、540ページもある本なので、注意点として書き記して置きます。 -
Posted by ブクログ
1980年代前半、アメリカ。著者はウィスコンシン州懲治局の臨床心理医ジュリエットをたずね、彼女が参加する「女性グループ」の会と、仕事で担当する「女たちの家」の受刑者たちの話を聞いた。80年代アメリカの黒人女性たちを取り囲むさまざまな困難を語りながら、それでも語ること、言葉にすることの喜びや力に満ちた〈はじまってもいないたたかい〉の記録。
「普遍性のなかにやすらぎを見出すよりも、他者の固有性と異質性のなかに、わたしたちを撃ち、刺しつらぬくものを見ること。そこから力をくみとることだ、わたしたち自身を名づけ、探しだすというのなら」。本書は黒人女性たちの連帯を語ると同時に、〈黒人女性〉をひとかたまりとする見方をときほぐし、ひとりひとりの言葉に真摯に耳を傾ける。じっさい、ネイティブ・アメリカンの血をひいていたり、親から「白人として生きろ」と言われるほど肌の白い〈黒人女性〉がいる。〈黒さ〉にもさまざまなグラデーションがあるのだ。
第一章では、まず大学を卒業した人たちからなる「女性グループ」がそれぞれの生い立ちを語りはじめる。ここで静かな衝撃だったのは、ジュリエットが語る母の兄と自分への差別教育の違いだ。女のジュリエットは白人に対抗し、進学することを推奨されたが、男である兄は目立たぬことが第一だと教えられていたという。それは母がアメリカのヒエラルキートップである〈白人男性〉から目障りな存在とみなされた〈黒人男性〉の苦難を知っていたからだろうとジュリエットは推察する。創作物にはインテリで優等生の黒人少女と不良の黒人少年の組み合わせがよくでてくるけど、その背景が少し掴めた気がした。
第二章ではジュリエットの職場である〈女たちの家〉へ赴き、そこにいる女性受刑者二人からの聞き書きを収める。〈女たちの家〉は受刑者の社会復帰のために町中に作られた施設で、刑期を務めながらそこから学校や仕事に通えるという試みがまず興味深かった。
麻薬の密輸をしていたブレンダと殺人で捕まったウィルマは、どちらも刑務所に入ってから"自分の言葉を獲得する"ために努力し、その重要性を強く訴える。"以前から今と同じような話し方をしていたか"と問われたブレンダの答えは深く胸を打つ。彼女たちが言語化に見いだす希望を藤本さんはこうまとめる。「なぜなら、『女たちの家』の住人はことばを探している女たちであったから。(略) 自らの生に意味をあたえ、生の輪郭を見せてくれる魔術はないか。混沌や茫洋にかたちをあたえることができるもののひとつがことばであるなら、それは魔術のようなものだ」。語りの力を鋭敏に感じとり、強く信じた人の文章だと思う。藤本さんが彼女たちの言葉を訳すやり方には、上記のような〈魔法〉にも等しいきらめきがあり、個人に対する敬意が溢れている。
エピローグは公民権運動に参加したことのある104歳のアニーへのインタビュー。アニーは政治活動そのものについては多くを語らないが、あからさまな差別が少しずつ減ってきたことについて「愛が勝利するのです。そうでなければおかしい。白人の隣人におはようと挨拶できなければ…」と語る。
斎藤真理子さんが素晴らしい解説で日本と在日コリアンの人びとの関係性に敷衍して考えることを提案されているように、差別との闘いにおける最終目標は、ある人種が別の人種に勝つことではなく、愛の勝利。手にしたいのは隣人に気兼ねなく挨拶できる喜び。〈たたかい〉はいつでもそのためにあるのだ。 自分自身の言葉をたずさえ、隣人を愛するために。 -
Posted by ブクログ
初ブローティガン。印象的なタイトルで気になっていた作品でした。
詩的で幻想的な小説。ジャンルは違うし時代も少し前だけどブラッドベリの『火星年代記』を想起しながら読みました。なんというか古き良きアメリカと言われる時代にはこういう幻想的な世界を描き、味わう文化というか感性があったんだろうなぁと、少しメタに外れた感想を持ってしまった。
アイデス(I Death)を始めネーミングや関係性、登場人物の言動、語られる歴史などさまざまなものが当時の社会のメタファーになっているのではないか、著者が現代社会に近いと感じていたコミュニティや関係性はむしろアイデス以外の方にあるのではないかと、色々な想像が生まれましたが、そのように噛んで味わっても良いし、詩的なリズムと言葉選びで描かれる西瓜糖と世界を眺めるだけでも良いし、いずれにせよ楽しい読書体験です。 -
Posted by ブクログ
単に短編集だからという理由で『芝生の復習』を読んでから気になっていたリチャード・ブローディガン。1984年9月に亡くなったが、私自身が翌月10月生まれなのでより気になり、読むことでどんな人物だったのか、意外にも日本に縁のある人だったことなど知れた。
「生い立ちや社会への憤りと疎外感から自由になれなかったブローディガンは、周囲の者の感傷的な楽しみをあざけった。どこにも属していないこと、家族と呼べる人がいないことを誇りにしているようだった。」
代表作である『アメリカの鱒釣り』や『西瓜糖の世界』をまだ読んでおらず、これを機に手に取ろうと思う。