榎本憲男のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
榎本憲男『エアー3.0』小学館文庫。
シリーズ第3弾。近未来経済小説。2024年刊行の同名小説を加筆改稿、文庫化。
世界経済、金融市場の原理、資本主義、世界が抱える様々な課題に深く迫るスケールの大きな面白い小説である。
今の世の中は実体経済が崩壊し、マネーゲームへと傾いている。額に汗をかき働いて金を稼ぐより、それなりのリスクはあるが、パソコンの前でマネーゲームに講じた方が遥かに儲かるのだ。それが経済格差を生み出す要因の一つになっている。
そして、世界は大国を中心に腐り始めている。ロシアのウクライナ侵攻、中国による台湾有事や日本に対する領海侵犯、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃。勿論、我関せずという顔をしているアメリカの傀儡である日本も同罪である。
こうした世界経済、経済格差、国際紛争、搾取や貧困といった課題を解決する答えはあるのだろうか。
金融市場の空気までも読み取り、莫大なマネーを生み出す人工知能『エアー』の認証権を持つ唯一の人物である中谷祐貴が率いる財団法人『まほろば』は、福島の帰還困難区域をはじめ日本各地に特別自治区を建設し、独自のデジタル通貨『カンロ』を環流させていた。
『エアー』の存在は中谷の他、『まほろば』の副代表で元官僚の市川みどりと福田義雄と政府の極一部の人間だけだった。政府は『まほろば』の生み出す莫大な見返りを受け、彼らのカンロ経済圏拡大拡の活動を容認していた。
しかし、市川と福田は中谷の性急過ぎるカンロ経済圏の拡大に密かに危惧を抱いていた。そんな中、中谷は「資本主義をやり直す」という言葉を残し、日本を旅立ち、カナダ、中国、ロシアへと向かう。中谷の目的は一体何なのか。
一方で『まほろば』の運用する『カンロ』に資金の裏付けが無いのではという疑いを持つテレビ局の人気記者である岸見苓羅は『まほろば』の実体に迫ろうとしていた。
そして、迎える衝撃の結末。世界平和は夢のまた夢だったのか。
本体価格1,100円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
榎本憲男作品は全作読んでいる。
どの作品もその次代の社会性を孕んだ作品で、モデルとなる人物、事件を別視点や置き換えたりしている。
今作の『サイケデリック・マウンテン』も勿論、ここ数年の事件や社会問題をモチーフとしている(その一つは明かしてしまうとクライマックスのあるシーンのネタバレになってしまいかねない)特に統一教会問題を発端とする宗教問題。
オウムの事件や、その後の後継団体などを彷彿させる団体が登場し、ある殺人事件との関係が浮上する。そこから更にマインドコントロールによる殺人教唆までに発展する。
そしてその洗脳の真実が明らかになったときに実際こんなこと可能なのかな、と疑問に思ったのだが、意外と周りに他者からの影響を語る人を見たこともあり、ありえるのかもしれない、と。
榎本憲男作品、どの作品も一定のクオリティは担保されてる信頼出来る作家なのだが、本作はその中でも指折りの一冊。帯に記されている最高傑作の文字は間違いではなかった。 -
Posted by ブクログ
ここのところ真行寺弘道シリーズが刊行されないな~と思ってましたが、このようなかたちで出会えた喜びと期待を胸に手に取りました。
しかも本作はハッカー黒木が主役ということで、ますます期待大でした。真行寺弘道シリーズでは第一作こそ登場シーンが多かったものの、その後は真行寺が困ったときにだけ登場する出番少な目のキャラになっていましたが、この作品では思う存分、あの黒木”節”を堪能できます。彼独特の視点による社会の構造をわかりやすくとらえた語りは(ちょっと難解で理解が追い付かないところもありますが)毎回刺激に満ちあふれていますね。
後半では真行寺をはじめとしたワルキューレの面々も登場し、あとがきで著者はスピンオフ作品と称していましたが、真行寺シリーズの一つといってもよいのでは、と思います。
ストーリーのほうはものづくり復権をかけた柴田の挑戦に黒木が資金面でバックアップするというもので、ITや金融全盛の世の中にあって、黒木のいう「気分は中世」や中辺路でちょっと不便な生活を営むあたりも、自分としては嫌いじゃない、むしろ好きな世界観で楽しめました。 -
Posted by ブクログ
榎本憲男『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』中公文庫。
文庫書き下ろし。『巡査長 真行寺弘道』シリーズや『DASPA 吉良大介』シリーズにも登場する天才ハッカー、ボビーこと黒木を主人公にしたスピンオフ作品。
最初の謎は、この物語の語り手の『僕』というは誰なのかということだ。真行寺弘道なのか……
謎に包まれていた黒木の過去がついに明かされ、現代の新自由主義に対する黒木の見解と黒木らしい新自由主義への奇抜な挑戦が描かれており、非常に面白い。
新型コロナウイルス感染禍が始まる前の秋、天才ハッカーの黒木が和歌山の世界遺産である熊野古道の中辺路に現れた。そこで伝統工芸を研究する大学院生の柴田澪と出会った黒木は彼女をある試みに誘う。
世界経済は、皆が汗水たらして仕事をしていた産業資本主義の時代から次々とバブルを作り出す錬金術のような金融資本主義の時代へと変わり、黒木は変わり果てた新自由主義の姿に疑問を抱く。黒木は柴田澪を巻き込み、金融資本主義に挑む。
黒木から巨額の資金を得た柴田澪は伝統工芸品の価値を高めるために『ツエタテ』の代表幹事となり、志を同じにする仲間と共に奔走する。故郷の盛岡の誇る南部鉄器も価値ある伝統工芸品の一つとして描かれており、嬉しい限り。
後半では物語の語り手の『僕』の正体は明らかになる。
確かに日本の伝統工芸を始めとする『もの作り』は蔑ろにされている。企業は安直に安価な労働力を求め、海外生産の大量生産で利鞘を稼ごうとするのが常識となってしまった。結果、日本に於ける『もの作り』に関わる労働者は非正規社員の安価な労働力に頼らざるを得ず、労働者の賃金は上がらない。企業は莫大な利益を上げても企業に付加価値をもたらしている労働者には殆ど還元せず、金融資本主義の金子とも言うべき株主にのみ配当金という形で利益を還元している。それでも余った利益はムダな研究開発や流行りのSDGsなどに投資されるのだ。まずは自分のところの労働者を大切に扱ってからのSDGsへの投資じゃないのかと強く思う。
本体価格900円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
榎本憲男『エアー2.0』小学館文庫。
近未来経済サスペンス小説。榎本憲男の作品で唯一未読であった。
スケールが大きくて、非常に面白く、読後に爽快な気分を味わった。資本主義をリセットするという着想が凄く、福井晴敏の『人類資金』にも匹敵する傑作だと思う。
今や資本主義社会に於いて、実体経済は完全に崩壊し、ネット上の金融取引や権力を背景に巨額の金を手にする者が勝者となっている。その結果、経済格差は拡大し、汗水たらして働く者への見返りはどんどん目減りするアンバランスな社会が形成された。さらには復興五輪など掛け声ばかりで、国の体面を保つために新型コロナウイルス感染禍であるにも関わらず、東京五輪を強行開催し、原発事故の後処理などお座なりになっている。本作は、そんな腐った日本を鋭く抉り、一石を投じる作品だった。
東日本大震災の福島第一原発事故後、東京オリンピック開催に向けた新国立競技場の工事現場で働く中谷は肉体労働には不向きな不思議な老人と出会う。やがて老人が工事現場をクビになると、最後に10万円で競馬の大穴を狙い、その馬券を中谷に託す。その馬券は見事的中し、中谷は5,000万円を手にする。
そんな中谷の前に再び姿を現した老人は、中谷に老人が開発した市場予測システム『エアー』の代理人として、政府と交渉することを持ち掛ける。『エアー』は世の中の人間の感情を数値化し、完璧な市場予測を行い、政府に国家予算を潤す巨額の利益をもたらすのだ。
政府に『エアー』を提供する見返りに利益の15%を手にする契約を結んだ中谷は、福島の帰還困難区域を経済自由区として様々な事業を立ち上げ、独自の通貨『カンロ』を流通させる。
本体価格770円(古本100円)
★★★★★ -
Posted by ブクログ
ネタバレ真行寺弘道シリーズは常に社会のトレンド的な話題を物語の中軸に据えつつ、それでいてそこで投げかけられる(表向きは真行寺に対してだが、実は読者に対して問題提起されている!)二者択一的な選択肢は作品の中ではフィクションではあるものの、その方向性は現実世界を一歩も二歩も先取りした内容といえます。100%そうなるかどうかは定かではないけれども、ひょっとするとこういう未来もあるかも、と思わせられる内容になっているところが読みどころかと思います。
さらにもう一つのおもしろポイントは作品を読みながら真行寺にアタマの中の思考を一緒にたどっていくところでしょうか。真行寺自身も迷いながらそれでも思考を進めようとしている部分に触れると、あたかも自分が主人公になったような臨場感があります。
で、本作で構築されたシステムは政府がつくったCOCOAどころじゃない! 個人の行動が丸わかりになるとはいえ、感染経路特定にこれほど有効はものはないかもしれません。個人の行動履歴をすべて吸い上げられるのはどうかとも思いますが、現在の感染高止まり状況を鑑みると、そこまでやらないとどうしようもない未来が待っているのかも、と考えてしまいます…。
そして本作では著者が一つ前に刊行した「DASPA」に登場した吉良も黒幕(?)として登場。イベント会場内での真行寺とのやりとりは本作で著者がもっとも投げかけたかった内容が凝縮された場面といえるでしょう。真行寺の言い分はちょっと青臭いか…、かといって吉良の言い分も偏りすぎというか、時代の先を行き過ぎていて周囲がついていけていないだけか…、などなど。
世の中的なネタを扱っている点は過去の4作と共通していますが、そのネタと読者との関わりという点では今回のものは段違いで、それだけに至るところで考えさせられる内容になっていました。為政者が読んだらどんな感想を持つのだろう、ということもちょっぴり気になりました。 -
Posted by ブクログ
榎本憲男『インフォデミック 巡査長 真行寺弘道』中公文庫。
シリーズ第5弾。文庫書き下ろし。
新型コロナウイルス禍に翻弄される日本の状況をリアルに背景に物語は展開する。様々な情報が飛び交い、不確かな情報ばかりが伝播していく不条理。新型コロナなど単なる風邪と変わらない、インフルエンザの方が死亡率が高い、若者は重症化しない、BCGの接種が感染を抑制している、Go To事業が感染を拡散・拡大させたエビデンスは無い……
出張は無くなり、旅行にも行けず、自粛に我慢、マスクに手洗いというまるで囚人のような毎日。そんな俯く毎日に覚える閉塞感。それを全て吹き飛ばしてくれるかのような爽快感あふれる作品だった。そして、予想外の展開と感動の終盤、驚愕の結末……
この作品を通じて我々はこの情報の感染(インフォデミック)にどう接するべきかというメッセージを感じた。
政府が新型コロナウイルスによる自粛要請を求める中、伝説的なミュージシャン・浅倉マリは「人は死ぬときは死ぬ」と全く意に介さずライブ活動を続ける。水野玲子捜査一課長から浅倉の監視とライブ活動自粛の説得を命ぜられた巡査長・真行寺弘道は浅倉が仕掛けた引退コンサートを止めることが出来るのか……
DASPAの警察庁警備局出身のキャリア官僚・吉良大介も登場。
本体価格800円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
ネタバレ内容は現在の日本におけるパラレルワールドのようなもので、この作品内でも国が抱える問題や予定されている行事が行われていく。
ちょうど2020年のオリンピック前後を舞台としているので、まさに今読むべき作品だと思う。
エアー2.0の世界ではコロナは流行らないが、もっと大変なことが起こり始める。そして面白いことが。
とにかく登場人物の描き方が素晴らしく、中谷やおっさんの掛け合いをもっと見ていたかったし、市川という女性がどんな容姿をしているのか非常に気になる。
作者によると続編エアー3.0の執筆も考えているようで、出版されたら誰よりも先に買って読もうと思う。 -
Posted by ブクログ
榎本憲男『DASPA 吉良大介』小学館文庫。
文庫書き下ろし。日本のインテリジェンスの危機をテーマに描いた警察小説。プロローグに描かれたハッキングによるサイバー・テロの物語が続くのかと思ったのだが、本編ではさらに面白いストーリーが展開する。
通称DASPAと呼ばれる新たに発足した内閣府の国家防衛安全保障会議のメンバーに召集された警察庁警備局出身のキャリア官僚・吉良大介はインテリジェンス班サブチェアマンに抜擢される。DASPA発足の直前に中目黒のマンションでアメリカ人が殺害される。調査に乗り出した吉良はこのアメリカ人がロシアの二重スパイで神経毒により殺害されたことを掴む。事件の背後にあるものは……
作中に『巡査長 真行寺道弘』に描かれた衆議院議員の尾関一郎の殺害事件が描かれ、ハッカーの黒木良平らしき男も吉良大介の知人として登場し、さらには真行寺道弘も登場する。あとがきには吉良大介が『巡査長 真行寺道弘』に登場していたとあったが、失念していたようだ。
本体価格820円
★★★★★