夏樹静子のレビュー一覧
-
購入済み
Wの悲劇
和辻家の面々が正月に山中湖の別荘に集う、事件はおきる。和辻製薬会長の与兵衛は好色な人物のようである。彼は孫の摩子に手を出そうとして、摩子は近くにあった果物ナイフで自殺をほのめかして抵抗したようだ。もみ合っているうちにナイフが与兵衛の心臓を突き刺してしまったと摩子は涙ながらに告白した。
和辻家の面々、加えて摩子の家庭教師である一条春生(はるみ)が、外部から侵入した物取りの仕業に偽装し、摩子を救い、和辻家の不祥事の隠蔽を計る。
(読者の予想どうり)富士五湖警察署の中里右京警部、鶴見警部らにより、偽装はみ破られ、摩子は逮捕されてしまう。
(ここまでが小説の75パーセントほどを占める。ここで終わったら星一つの小説なのだが)さすがに、どんでん返しのストーリーとなっている。
一条春生(はるみ)は、摩子の逮捕について、大きな違和感を抱く。小説の後半で春生は探偵のような役割を与えられ、危険を冒しながら真犯人に迫っていく。 -
Posted by ブクログ
腰痛の描写が恐ろしい。
痛みが読み手にも伝染しそうなほど。
たまたま自分の腰痛の調子が悪いタイミングだったので痛みが増しそうで読み進めるのが怖かった。
8合目ほどまではひらすら著者が腰痛に苦しむ描写ばかりで何を試しても良くなる兆しもなく、このまま終わってしまうのではないかと思った。
担当医にあたる描写などもあけすけに書かれているが、それほど痛みが辛く酷いものだったのだろう。
よく耐えたものだなと思う。
著者は様々な支えがあったから乗り越えられたものの、もしもこれが孤独な人間だったら…と思うとゾッとする。
心の負荷がこれほどまで身体へ直結するものだとは知らなかった。
本質とは逸れるが、複雑な感情や高度な知能なんて持たない方が人間は幸せだったのではないだろうか。
心身症やうつなどはそれらの副産物だとしか思えない。
こんなリスクを抱えるくらいならもっと単純な別の生き物でいたかったと思ってしまった。 -
Posted by ブクログ
べトナム戦争の取材から日本に帰ってきた新聞記者・冬木悟郎は、不倫相手の人妻・朝岡美那子が蒸発したことを知る。その原因を、自らの死亡記事の誤報によるものだと察した冬木は、かつて美那子に想いを寄せていたという丹野をたったひとつの手掛かりに、美那子の郷里・福岡に飛ぶ。だが、そこで丹野は無残な死体となって発見された。冬木は、否が応でも、美那子の関与を疑わざるを得ない。美那子への確かな愛と恐ろしき疑念。冬木は事件を追うごとに、この両面をともに深め苦しんでいくのであった。やがて、丹野の経営する会社の重役、丹野の妹、そして冬木に美那子という縦横の人間関係に、それぞれの愛憎の機微が入り混じり、事態は第二第三の殺人事件を呼ぶ。冬木の前に、夢うつつのごとく姿を見せては消える美那子は、はたしてどこに潜んでいるのか。事件との関与はあるのか。なぜ、消えたのか。ある愛の終わりという副題は、単に冬木と美那子の間柄だけを指すのではない。ある愛・・・本作を読み進むにつれて、その射程はさらに根源的なものへと貫かれる。
○感想
ミステリや推理小説は数学の方程式のように、あるいはパズルのように、事件や人物が記号的に扱われ、文章は標識になる。だからなんとも口で言い表しにくいもの――美、機微、人間の不可解さ、恐怖などを描くことはない。対して、純文学は、答えというかたちを持たぬものを描く。推理小説は解決という答えを必要とする以上、この点で常に物足りなさを感じていたのだが、この夏樹静子の本は――無論推理小説であるからその枠内の限りだが、なかなか視点が広かった。主人公の焦りが突如怒りに変わることや、ふとした言葉が落とす影、不安定な感情、不完全な人間といったものの存在を十分理解しているようだ。また、それらを表現する文章も丁寧だった。もちろん、推理小説自体が苦手なので、そのトリックや、劇的すぎる偶然には閉口もするが、大して苦もなく通読してしまった。
推理小説を目的ではなく、手段としている作品があれば読んでみたい。トリックにしてもある社会面の事件にしても、それがなにか人間の内奥の不思議から起こるものであれば興味深く読める。少なくとも、トリックの巧拙を競うようなものは読みたくない。