すみ兵のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
“リッツの方が一瞬正気に戻るのが早く、ババロアはリッツの手に渡り、あっという間に食べられてしまったが、マルタはうわ、とられたと一声あげたきり、ナフキンで口元を拭って立ち上がりマリアンナに微笑んで言った。
どうやら少し照れているようで、一瞬視線が定まらない。
「あの、えー。アラン・レイ高校三年のジョン・ジョアンと申します」
嘘吐けマルタ・サギー。
「こちらは僕の後輩の」
とマルタに視線で促されて、リッツははっと我に返り、立ち上がって着衣を直し、顔を真っ赤にして口元を拭う。
「一年のデニス・エルロイです」
嘘吐けリッツ・スミス。
バーチはにこにこと二人を見つめる。
なんだ。
なんの冗談なんだこれは。
マルタもリッツもいつもの格好ではなく、グレーのウール地にネクタイの、アラン・レイ高校の制服を着ていた。
二人とも普通に通っていれば、確かにその年頃ではあるから無理はないといえばないのだが。
けれどどこか、大人っぽいというか、悪く言えばすれっからしているというか、学生特有の爽やかさとか清潔さとかがまるでなくて制服がまるで似合わない。
特にリッツ。
どこか、苦労が滲む感じだ。”
短編集二冊目。
やっぱり面白い。
バーチとその使用人たちの信頼関係とか心地いい。
カードの力にマルタが嬉々としてる場面とかはちょっとぞっとさせたり。
ジャックの情報の多さとタイミングの良さに一体何者だよって思う。
“「バーチが好敵手でいてくれる限り、僕には恩恵がある。だから、たとえばバーチが絶世の美女で俺を口説いてきても、ロマンスは生まれないよ」
ゲホ、と咳をする。
犬が黒く濡れた瞳で見上げている。
「感情よりも利害ということかい」
「そういえばそうなるかなぁ」
「そういうことだろ。でも、もしかしたらお前だって流されちゃうかもしんないぜ?」
からかうようなリッツの言葉にマルタは、溜息を吐いてリッツを見つめる。
「この話やめないか」
「なんでだよ」
「バーチが女だったら気持ち悪い」
少し考えて、リッツは肩を竦めた。
「……まぁ、確かにな」” -
Posted by ブクログ
“「兄さんは手段を選ばない。派手なことが好きな人だから、事務所に火をつけることぐらい平気でするだろうね。そうなる前に僕は自分で兄さんを捜して、彼の前に出なくてはならないのかも知れないのだけど、出来れば見つけたくない」
「だから、オスタスに係累のない僕のとこにトーリアスが君を預けたのか」
「うん」
だってマルタなら。
親も兄弟も友人もいないんだから。
とばっちりでマルタが死んでも、ふつうにオスタスで生活している人よりも全く被害が少ないから。
「あーなるほどねぇ。そっか。でもさ、リッツ。いいんだよ。別に」
マルタの言葉にリッツは視線を上げてマルタを見つめる。
マルタは笑っていた。”
カード戦争の詳細と徐々に明らかになる敵対組織の存在。
アウレカとのやり取りがすごく笑える。
面白さと懐かしさとが相まってちょっと泣きそう。
“「仕方ないか」
マルタはいかにもイヤそうに言う。リッツは横で苛つく。
「いや、いいカード引いたって喜ぶとこだろ、ここは」
「ああ、うー、ああ」
「他に使えるカードないんだからやれ」
息がかかるほど近くに顔を寄せてリッツは目を見開いて凄む。
「やれ」
「……ハイ」
マルタは押し負けてさもイヤそうにカードを場に置く。
「僕のオーダー……あーやだ」
「やれってば!」
死相が浮いているマルタのネクタイを掴んでリッツががくがく揺らす。
「『救援』。既知の任意の人物をここに呼び寄せる。……対象は、あー、」
言いごもるマルタをリッツが睨む。
「アウレカ」
「えっなにあんたアレと知り合いなの!?」
リュウカが、真っ青になって叫んだ。” -
Posted by ブクログ
“今日から助手のリッツは茶を淹れてやりながら、食事の間も婉曲にさんざん言ったことをまたぶつぶつ言う。マルタがカード使いであったことは、未だに少し複雑だ。
「カード使いならそうって言えよ。つか、あんなん推理も捜査もあったもんじゃないじゃん。ドクトル・バーチのお陰じゃないか……って、ドクトル・バーチってどんなんだろ。会ってみたいなー」
温めたカップにお湯を注ぐと、脳の奥まで届く様な香りが辺り一面に広がる。ご満悦で匂いを嗅ぐリッツは、リッツの寝床を作っているマルタを呼ぼうとしてふと気がつく。
雑然と物が置いてある棚の上に同じ文字らしきものが書かれている紙があった。
「なんだこれ。呪文かな」
リッツはそれきり興味を失って、マルタを呼びに行った。
リッツにはわからなかったが、それには漢字でこう書いてあった。
鷺井丸太。
自分の名を忘れない様に、といくつも書かれた言葉だったが、その文字が意味を持つのはまだまだ先のことである。”
短編集。
オルタスに馴染んできたマルタがいかに怠惰な生活を送っているかがわかったり。
ただこのマルタの性格はすごく好きだ。
嘘が吐けなくて自負責任が何気にある。
苦労人なリッツも人柄が良すぎて困る。
探偵と怪盗と探偵周囲の人物の愉快ともいえる人間関係。
読んでて思わずにやけてしまったり。面白い。
“「ドクトル・バーチからの予告状がきたぞ」
トーリアス警部がマルタ・サギー探偵事務所の扉を開けて言ったのは、冬の気配のする午後の早くだった。
「おお、久しぶりだなぁ」
マルタはぼんやりとそう言い、ジョゼフ犬はお行儀良くトーリアスを見上げて細い尻尾を振り、リッツ・スミスは窓を大きく開けて通りに向かって叫んだ。
「ありがとう、バーチ!!これでパンと紅茶が買えるよー!!」
「リッツー寒いー」
マルタの言葉にリッツは窓を閉め、靴音高くマルタに詰め寄って、額をごりごりと音がするほど合わせて、睨みつけると歯ぎしりをする様に言った。
「ここには立派な暖炉があるというのにだな。薪を!買う金もないのは誰のせいだ、言ってみろマルタ!」
マルタは顔を青ざめながら引きつり笑いを浮かべる。
「あっ、でっでも、ジョゼフはおなかいっぱいだと思う……」
「あたりまえだ。ジョゼフが飢えるくらいならお前が身体を売れ」
瞬きもせずにリッツは喉の奥から響く様な声を出した。
マルタは口の端に引きつった笑みを浮かべ、視線を外せないまま呟く。
「う、売れるのか僕」”
20141115 再読 -
Posted by ブクログ
“「バーチャルとリアルの区別って何だと思う?」
(中略)
丸太は話を聞きながら、なんとなく窓枠に腰をかけて空を見ていた。確か春。五月の若葉。桜は散って、少し暑い陽気の日だった。布団干したいなぁと思った。
「鷺井は?」
誰かに訊かれてぼんやり答えた。
「……自分がそこにいるかいないかじゃないの」
自分が言った答えがもし合っているなら。
丸太はラーメンのスープをぐい、と飲み干して器を置いて言った。
「ごちそうさま。ありがとう」
認めなきゃ。”
結構面白い。
マルタの性格とか。
語り口調が読みやすいし、カードのことやオルタスの世界観にも惹かれる。
まだ謎は、たくさんあるのだけど。
“「疲れただろう」
トーリアスに言われ、頷く。
「殺人事件じゃなければよかったんだけど」
トーリアスはそれには返事をしなかった。
「ドクトル・バーチというのはなかなかよい男だな。人気が出そうだ。こんど、奴が出たらお前に回していいか?何しろ……市民に愛される怪盗を目指しているらしいから?」
それはバーチの言ったことをトーリアス的に解釈した言葉だと、マルタは思った。
「ああ、そうしてくれ。まず、僕が愛することとしよう」”
20141114 再読