あらすじ
異世界の街・オスタスで活躍する少年探偵マルタ・サギーは推理不要の名探偵である。助手のリッツ、番犬のジョゼフ犬とともに、市民の安全のため、なにより自分の生活のため、今日も一筋縄ではいかない難事件に挑む!
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Posted by ブクログ
“リッツの方が一瞬正気に戻るのが早く、ババロアはリッツの手に渡り、あっという間に食べられてしまったが、マルタはうわ、とられたと一声あげたきり、ナフキンで口元を拭って立ち上がりマリアンナに微笑んで言った。
どうやら少し照れているようで、一瞬視線が定まらない。
「あの、えー。アラン・レイ高校三年のジョン・ジョアンと申します」
嘘吐けマルタ・サギー。
「こちらは僕の後輩の」
とマルタに視線で促されて、リッツははっと我に返り、立ち上がって着衣を直し、顔を真っ赤にして口元を拭う。
「一年のデニス・エルロイです」
嘘吐けリッツ・スミス。
バーチはにこにこと二人を見つめる。
なんだ。
なんの冗談なんだこれは。
マルタもリッツもいつもの格好ではなく、グレーのウール地にネクタイの、アラン・レイ高校の制服を着ていた。
二人とも普通に通っていれば、確かにその年頃ではあるから無理はないといえばないのだが。
けれどどこか、大人っぽいというか、悪く言えばすれっからしているというか、学生特有の爽やかさとか清潔さとかがまるでなくて制服がまるで似合わない。
特にリッツ。
どこか、苦労が滲む感じだ。”
短編集二冊目。
やっぱり面白い。
バーチとその使用人たちの信頼関係とか心地いい。
カードの力にマルタが嬉々としてる場面とかはちょっとぞっとさせたり。
ジャックの情報の多さとタイミングの良さに一体何者だよって思う。
“「バーチが好敵手でいてくれる限り、僕には恩恵がある。だから、たとえばバーチが絶世の美女で俺を口説いてきても、ロマンスは生まれないよ」
ゲホ、と咳をする。
犬が黒く濡れた瞳で見上げている。
「感情よりも利害ということかい」
「そういえばそうなるかなぁ」
「そういうことだろ。でも、もしかしたらお前だって流されちゃうかもしんないぜ?」
からかうようなリッツの言葉にマルタは、溜息を吐いてリッツを見つめる。
「この話やめないか」
「なんでだよ」
「バーチが女だったら気持ち悪い」
少し考えて、リッツは肩を竦めた。
「……まぁ、確かにな」”