すみ兵のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
この小説は主人公の宮本とヒロインの長瀬の会話のドッヂボールを楽しめるか否かで評価が変わると思う。俺は楽しめなかった。小説の向こう側で勝手に盛り上がって置いてけばりを喰らってる感じ。で、宮本と長瀬の会話以外に面白いと思える要素が無いので全体的に正直面白くなかった。
登場人物馬鹿ばかりという売り文句を信じて読んだけど、思ったより常識的な人間ばかりで拍子抜けする。全体的にノリだけで話進めている感じ。読んでいてきつかった。
なんか…期待した馬鹿とは違うんだよなあ。「ハハハ、こいつとことんバカだな」って思える馬鹿っぷりじゃなくて、「たまに馬鹿になる普通人」と「意味不明な馬鹿」が無駄にハイテンションで喋る感じ。馬鹿に意味的馬鹿とノリ的馬鹿があるなら、この本は後者。俺が期待していたのは前者だった。
一言で言えば『ノリが合わない』。 -
Posted by ブクログ
“言うとマルタは、ベストの内ポケットからカードを一枚抜いて、立てた。
そのカードを見て、デアスミスは失笑した。
「ここで『名探偵』のカード?」
失笑はやがて大きくなり、デアスミスは身を反らして笑った。
「はは、ははは、ははははははは!!」
部屋に笑い声が響いた。
「なんのつもりだね。ここに、解かれるべき謎はないだろう?そのカードの使いようがあるのかな」
「あるさ」
マルタはデアスミスを見据えて言う。
「あんたは強くて僕は弱い」
マルタの真っ黒な瞳が、デアスミスの青灰色の瞳を射抜く。
マルタの顔は泥と血で汚れきっていたが、視線は澄んでいた。星のように。
「どうやったらひっくり返せるかって、それは謎だろ!」
大きく息を吸い、ぎりぎりまで腕を伸ばしてカードをデアスミスに向けて、マルタは唱えた。
「I'm Marta Saggy!!」”
マルタ格好良すぎるなぁちくちょう。惚れるしかないじゃないか。
堂々としたハッピーエンド。
彼らのこれからが気になるけれど、そこは想像力で補って。
きっと絶対、幸せな生活を送っているのだから。
オスタスに住まう彼らに幸せと息災を。
“「ありがとう、ごめん、バーチ!!」
「馬鹿者!ばかもの!ばかもの!!年上だなんだと、私の本当の年も知らないだろうが!本当は男かもしれないだろうが!」
マルタは、バーチの顔を見ながら、幸せに瞳を潤ませて言った。
「うん。でもバーチ、あんたならおばあちゃんでも、おじいちゃんでも、男でもなんでもいいんだ。だってあんたはたったひとり。この広い世界で、長い時間で、永久にたったひとりだけなんだ。あんたを愛してるんだ。あんただって、僕のどこが」
「やかましい!好きなものは好きなのだ!!」
「ずるいなー、なんだその理屈」
「ずるくない。お前が面倒くさいだけだ」
不適に笑ってバーチは言った。
「愛しているぞ、マルタ・サギー。お前がいない天国などいらん。だいたい死んだらどうなるのかわからんのだ。死んだら死んだとき考えよう。一緒に。……おまえは要らないことを考えすぎなんだ」
「うん」
そうだね。
森川の声が蘇る。
今を大事に生きなさい。
それがどういうことか、森川さん、やっぱり僕にもまだわかんないけど。
僕、間違ってないよね。
後悔はしない。
どんなことが起きても、立ち向かう。
絶対だ。” -
Posted by ブクログ
“「リッツ」
マルタの困った声。それを聞いてもリッツは顔を上げる気にならない。なにか、強い感情で頭ががんがんする。
七年。
七年だと?
なんで。
なんだそれ。
「リッツ」
心配する声。
マルタの。
リッツは強く目を閉じる。涙がこぼれた。耳鳴りがする。七年。二十五歳。マルタ。マルタ一人で。モリカワさん?知らないところで。知らない人と。でもマルタがここにいるってことはきっと必死で戻ってきたんだ。帰りたいと思って七年。
それでなんでこんなに胸が痛いんだ。なんで苦しいんだ。
この一週間のことを思い出す。
懐かしいものを見るようなまなざしや、老人のような微笑や。
ヘンリーのデリを。
僕の紅茶を。
泣きそうに味わって。
人が変わったように片付けたり走り込んだり。
ポケットからハンカチを出して涙を拭き洟をかむと、リッツは泣くのを堪えた赤い目でマルタに言った。
「食べよう!ヘンリーの、デリだ!」
笑おうとしたが、上手くいったかわからない。
マルタは頷き、微笑んでハムサラダを頬ばった。”
マリアンナへの求婚話の持ち上がりとか。
マルタがオスタスを懐かしんでる描写に泣きそうになる。
“なんだ、マルタ・サギー。
なんだその表情は。
かくれんぼをしていた大好きな人間を見つけた、いたずらな男の子みたいな。
鬼ごっこで、相手しか見えなくなって屋根から飛び降りて骨折してしまいそうな男の子の表情で。
抱き留めなくては、危ないだろう。
着地のことなんか、欠片も頭にないだろう?
鍔広の帽子、長い黒髪、フリルのついた白いブラウス、黒いマントにズボンにブーツ。獲物を放り出して、バーチはマルタを抱きしめる。
勢いを殺せずに、後ろに無様にひっくり返る。
「はは!バーチ、久しぶり!」
バーチの上に乗って屈託なく言うマルタに、後頭部を打ったバーチは、目の前がちかちかするのを堪えて怒鳴った。
「怪我をするぞこの大馬鹿者!」
「してないよ!」
言ってマルタはバーチの顔に顔を近づけて笑った。
警官たちが駆け寄るのも、ラン・フェオーが立ちつくしているのも、知らない。
ただ全身を駆けめぐるハイテンションな熱に支配されてどうしようもなかった。何も考えられない。
何も考えないまま紅潮した全身でマルタは言った。
「大丈夫だよ、バーチ。心配しないで!」
愛してる、と言ってしまうのをこらえるのがやっとだった。
キスをこらえるのがやっとだった。
七年、ずっと逢いたかった。マリアンナにもバーチにも。
ようやく逢えた。” -
Posted by ブクログ
“色々あったが、丸太はバーチが好きだった。
あんな男になりたいと、あんまりにもかけ離れていたからそれは思うことはなかったが、それでも尊敬していた。
彼の正体がマリアンナだとわかったけれど、それでも別に問題はなかった。
たとえばマリアンナがどんな姿でも、丸太はもう、マリアンナを忘れられない。
いつの間にこんなに魂の中に彼女が入り込んでいたのかと思う。
デートに誘わなかった悔恨が、彼女への思いを強くさせているのかと考えたが、それならそれで、もう、いい。
バーチがマリアンナなら、バーチも愛する。
それはなんだか滑稽に感じたが、少しの笑いもこみ上げてこない。
蓑崎で七年経って、何にも自分は出来ていない。
丸太の心はオスタスに囚われたままで、マリアンナと共に死んだままで、たとえこのまま年老いて死んでも、誰かと出会って何かのきっかけで結ばれたとしても、マリアンナを愛している。
それは単純に丸太にとっての事実だったから、こうして炎天下の蓑崎で、ビーチサンダルで歩きながら考えていても、気持ちが揺れることはなかった。”
嬉しいんだか悲しいんだか。
手に取り戻したものと、その手から失ったもの。
丸太、強いなぁ。
彼はきっと、なくなってしまった七年間の蓑崎のことを絶対忘れないのだろう。
うー、泣きたいのに何故か泣けない。
涙腺が緩む前に胸が軋んだ。
苦くて切なくてどうしようもなくて、でもバーチ=マリアンナだと知ったこの後のマルタがどう動くのかすごく気になる。
“今を大事に生きるって、森川さん、僕もわかんないけど。
でも森川さんたちに恥ずかしくないように生きていくことが、もしもそういうことだとしたら、僕はそうしようと思います。
「なんでもします。ありがとうございます。忘れません」
さようなら。
シシャが横目でマルタを見て言う。
「よくわかんないけど、僕、頃合い見てまた来るからね。……逃げようだなんて思うなよ」
一瞬シシャは顔の半分ほどにも目を広げ、口を耳元まで裂いて笑った。そして姿を消す。
春の風が吹き渡る。
どっ、と、固まりになって身体に当たる、生暖かく湿度を持ったその風。
マルタの涙を奪って散らす。帽子を飛ばされたが気にしない。
排気ガスの匂いのしない空気。その代わりに石炭や木材の燃える香りがする。
風に煽られてどこからか街路の花が、花びらが舞い上がる。
舗装されていない道路もある。公園も庭も多い。そこから吹き上がる土埃。
オスタスの風。
野次馬たちの声が風に乗って上がってくる。
目の前のバーチが動き出す。
七年、ずっと、思い焦がれた瞬間だ。
バーチ。
マリアンナさん。
僕はあなたをなんて呼んだらいいんだろう。
でも、時間はまた動き出した。これからまた始まる。繋がっていく。” -
Posted by ブクログ
“「リッツは僕が守るよ」
何が出来るか自信はないけれど、マルタは心の底から素直に思い、素直に言って、素直に口に出した。
自分の心にある、静かに光る恒星のようなもの。
時々感じるその苦しいような熱さに、この時マルタは一人で誓った。
「リッツは僕が守る」
リッツは顔を真っ赤にしてひとつ震えた。泣きそうだった。
「だって、ほら」
マルタは大きく息を吸って、それからいつものように笑う。
「リッツがいないと、僕、生活できないよ」”
ええっと?
展開が意外すぎて。
えーっと、っと。
頭の芯が冷えていくような鳥肌。絶望に似た虚無感。
続きが気になる。
高校でのマルタの行動が好みだ。
“「待ってよ」
シェリーは淀みも、躊躇いもなく宣言する。
「つきましてはゲームの潤滑な進行を鑑みて『名探偵』カードの『カード戦争』における効力、登録を全て抹消することを決定いたします。今までの参加、ありがとうございました。またの参加をお待ちしております」
お願いだ待ってくれ。
僕から
オスタスを
奪わないでくれ。
その言葉は音にならなかった。
マルタの喉に張り付いて音にならなかった。
「以上、○○年○○月○○日『カード戦争』委員会」
やっぱり日付は聞き取れない。
『カード戦争』委員会の使う本当の言語は、翻訳出来ないのだ。
マルタの目の前が白くなっていく。
オスタスの春の空が。
気絶してオーガーに抱えられたままのリッツが。
血を流して動かないマリアンナが。
白く、かすんで、空気と、温度が変わる。
エアコンの風の匂い。
新建材の家。
見慣れた、自分の家のリビング。
マルタは十分ほども茫然と突っ立ったままだった。
そしてやがて、その場に座り込んで、両手をついた。
薄い合板だ。
ワックス仕上げの。
瞬きを忘れていたようで、目が熱い。
眼球に瞼が張り付いていると感じる。
そう思った途端目の奥が熱くなった。
「ああ」” -
Posted by ブクログ
“「……デアスミス……」
掠れた声で思わず呟く。震えているのが悔しかった。
デアスミスはバーチとマルタのテーブルの横に立ち止まった。
「はじめまして、マルタ・サギーさん。いつもリッツが世話になっています。ありがとう。私はウィリアム・デアスミス。リッツの兄です」
デアスミスは曇りのない明るい、人好きのする笑顔でそう言って軽く両手を広げた。
マルタは頭の中が真っ白になった。
デアスミスはその彫刻めいた美しさの右手をマルタに差し出す。
マルタは何も考えずにその手を取りそうになった。
吸いこまれそうな青灰色の瞳。
「おいこらデアスミス」
不機嫌なバーチの声がして、マルタは出しかけた手を引っ込め、浮かせた腰をまた椅子に落とした。身体に鉛でも入ったようで、心臓が早鐘を打っていた、汗が噴き出したが寒気がした。
なんだ。
こいつはなんだ。”
デアスミスと初のご対面。
うー、マルタが好きすぎてたまらん。
バーチとのやり取りが本当面白いなぁ。素敵だ。
“マルタは何か反論したそうにバーチの顔を見つめていたが、早足で二階に行くと何冊かの雑誌をバーチに押しつけるように差し出した。
「これ。この中から選んで誰でもいいから化けろ。僕じゃなければいいから」
「化けろって。傷つくね」
「ラーメンと緑茶を出してやるからあっちに座ってそれ見ててくれ頼むからバーチ!!」
「なんだね人を厄介者みたいに」
バーチは雑誌を手に、ぶつくさ言いながらそれでもソファに座った。
置き場所からカップラーメンを二つ取り出し、ラップをはがしてかやくを入れながら、マルタは混乱する頭をなだめようとする。
どうして。
なんで僕は蓑崎にいるんだ。
なじみ深い家、なじみ深い台所。全てのものの位置を自分は知っている。
茶筒は引き出しの中、急須は食器棚の上から二番目の右手側。エアコンはかけっぱなしで、片付いているのは、そうだ、アウレカが来て掃除して。待て、今いつだ。もう一度自室に駆け上がってPCを立ち上げ、カレンダーを開く。
ぐう、と喉が鳴った。
やっぱり、オスタスに飛ばされた日だ。” -
Posted by ブクログ
“リッツの方が一瞬正気に戻るのが早く、ババロアはリッツの手に渡り、あっという間に食べられてしまったが、マルタはうわ、とられたと一声あげたきり、ナフキンで口元を拭って立ち上がりマリアンナに微笑んで言った。
どうやら少し照れているようで、一瞬視線が定まらない。
「あの、えー。アラン・レイ高校三年のジョン・ジョアンと申します」
嘘吐けマルタ・サギー。
「こちらは僕の後輩の」
とマルタに視線で促されて、リッツははっと我に返り、立ち上がって着衣を直し、顔を真っ赤にして口元を拭う。
「一年のデニス・エルロイです」
嘘吐けリッツ・スミス。
バーチはにこにこと二人を見つめる。
なんだ。
なんの冗談なんだこれは。
マルタもリッツもいつもの格好ではなく、グレーのウール地にネクタイの、アラン・レイ高校の制服を着ていた。
二人とも普通に通っていれば、確かにその年頃ではあるから無理はないといえばないのだが。
けれどどこか、大人っぽいというか、悪く言えばすれっからしているというか、学生特有の爽やかさとか清潔さとかがまるでなくて制服がまるで似合わない。
特にリッツ。
どこか、苦労が滲む感じだ。”
短編集二冊目。
やっぱり面白い。
バーチとその使用人たちの信頼関係とか心地いい。
カードの力にマルタが嬉々としてる場面とかはちょっとぞっとさせたり。
ジャックの情報の多さとタイミングの良さに一体何者だよって思う。
“「バーチが好敵手でいてくれる限り、僕には恩恵がある。だから、たとえばバーチが絶世の美女で俺を口説いてきても、ロマンスは生まれないよ」
ゲホ、と咳をする。
犬が黒く濡れた瞳で見上げている。
「感情よりも利害ということかい」
「そういえばそうなるかなぁ」
「そういうことだろ。でも、もしかしたらお前だって流されちゃうかもしんないぜ?」
からかうようなリッツの言葉にマルタは、溜息を吐いてリッツを見つめる。
「この話やめないか」
「なんでだよ」
「バーチが女だったら気持ち悪い」
少し考えて、リッツは肩を竦めた。
「……まぁ、確かにな」” -
Posted by ブクログ
“「兄さんは手段を選ばない。派手なことが好きな人だから、事務所に火をつけることぐらい平気でするだろうね。そうなる前に僕は自分で兄さんを捜して、彼の前に出なくてはならないのかも知れないのだけど、出来れば見つけたくない」
「だから、オスタスに係累のない僕のとこにトーリアスが君を預けたのか」
「うん」
だってマルタなら。
親も兄弟も友人もいないんだから。
とばっちりでマルタが死んでも、ふつうにオスタスで生活している人よりも全く被害が少ないから。
「あーなるほどねぇ。そっか。でもさ、リッツ。いいんだよ。別に」
マルタの言葉にリッツは視線を上げてマルタを見つめる。
マルタは笑っていた。”
カード戦争の詳細と徐々に明らかになる敵対組織の存在。
アウレカとのやり取りがすごく笑える。
面白さと懐かしさとが相まってちょっと泣きそう。
“「仕方ないか」
マルタはいかにもイヤそうに言う。リッツは横で苛つく。
「いや、いいカード引いたって喜ぶとこだろ、ここは」
「ああ、うー、ああ」
「他に使えるカードないんだからやれ」
息がかかるほど近くに顔を寄せてリッツは目を見開いて凄む。
「やれ」
「……ハイ」
マルタは押し負けてさもイヤそうにカードを場に置く。
「僕のオーダー……あーやだ」
「やれってば!」
死相が浮いているマルタのネクタイを掴んでリッツががくがく揺らす。
「『救援』。既知の任意の人物をここに呼び寄せる。……対象は、あー、」
言いごもるマルタをリッツが睨む。
「アウレカ」
「えっなにあんたアレと知り合いなの!?」
リュウカが、真っ青になって叫んだ。” -
Posted by ブクログ
“今日から助手のリッツは茶を淹れてやりながら、食事の間も婉曲にさんざん言ったことをまたぶつぶつ言う。マルタがカード使いであったことは、未だに少し複雑だ。
「カード使いならそうって言えよ。つか、あんなん推理も捜査もあったもんじゃないじゃん。ドクトル・バーチのお陰じゃないか……って、ドクトル・バーチってどんなんだろ。会ってみたいなー」
温めたカップにお湯を注ぐと、脳の奥まで届く様な香りが辺り一面に広がる。ご満悦で匂いを嗅ぐリッツは、リッツの寝床を作っているマルタを呼ぼうとしてふと気がつく。
雑然と物が置いてある棚の上に同じ文字らしきものが書かれている紙があった。
「なんだこれ。呪文かな」
リッツはそれきり興味を失って、マルタを呼びに行った。
リッツにはわからなかったが、それには漢字でこう書いてあった。
鷺井丸太。
自分の名を忘れない様に、といくつも書かれた言葉だったが、その文字が意味を持つのはまだまだ先のことである。”
短編集。
オルタスに馴染んできたマルタがいかに怠惰な生活を送っているかがわかったり。
ただこのマルタの性格はすごく好きだ。
嘘が吐けなくて自負責任が何気にある。
苦労人なリッツも人柄が良すぎて困る。
探偵と怪盗と探偵周囲の人物の愉快ともいえる人間関係。
読んでて思わずにやけてしまったり。面白い。
“「ドクトル・バーチからの予告状がきたぞ」
トーリアス警部がマルタ・サギー探偵事務所の扉を開けて言ったのは、冬の気配のする午後の早くだった。
「おお、久しぶりだなぁ」
マルタはぼんやりとそう言い、ジョゼフ犬はお行儀良くトーリアスを見上げて細い尻尾を振り、リッツ・スミスは窓を大きく開けて通りに向かって叫んだ。
「ありがとう、バーチ!!これでパンと紅茶が買えるよー!!」
「リッツー寒いー」
マルタの言葉にリッツは窓を閉め、靴音高くマルタに詰め寄って、額をごりごりと音がするほど合わせて、睨みつけると歯ぎしりをする様に言った。
「ここには立派な暖炉があるというのにだな。薪を!買う金もないのは誰のせいだ、言ってみろマルタ!」
マルタは顔を青ざめながら引きつり笑いを浮かべる。
「あっ、でっでも、ジョゼフはおなかいっぱいだと思う……」
「あたりまえだ。ジョゼフが飢えるくらいならお前が身体を売れ」
瞬きもせずにリッツは喉の奥から響く様な声を出した。
マルタは口の端に引きつった笑みを浮かべ、視線を外せないまま呟く。
「う、売れるのか僕」”
20141115 再読