すみ兵のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
“言うとマルタは、ベストの内ポケットからカードを一枚抜いて、立てた。
そのカードを見て、デアスミスは失笑した。
「ここで『名探偵』のカード?」
失笑はやがて大きくなり、デアスミスは身を反らして笑った。
「はは、ははは、ははははははは!!」
部屋に笑い声が響いた。
「なんのつもりだね。ここに、解かれるべき謎はないだろう?そのカードの使いようがあるのかな」
「あるさ」
マルタはデアスミスを見据えて言う。
「あんたは強くて僕は弱い」
マルタの真っ黒な瞳が、デアスミスの青灰色の瞳を射抜く。
マルタの顔は泥と血で汚れきっていたが、視線は澄んでいた。星のように。
「どうやったらひっくり返せるかって、それは -
Posted by ブクログ
“「リッツ」
マルタの困った声。それを聞いてもリッツは顔を上げる気にならない。なにか、強い感情で頭ががんがんする。
七年。
七年だと?
なんで。
なんだそれ。
「リッツ」
心配する声。
マルタの。
リッツは強く目を閉じる。涙がこぼれた。耳鳴りがする。七年。二十五歳。マルタ。マルタ一人で。モリカワさん?知らないところで。知らない人と。でもマルタがここにいるってことはきっと必死で戻ってきたんだ。帰りたいと思って七年。
それでなんでこんなに胸が痛いんだ。なんで苦しいんだ。
この一週間のことを思い出す。
懐かしいものを見るようなまなざしや、老人のような微笑や。
ヘンリーのデリを。
僕の紅茶を。
泣きそ -
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“色々あったが、丸太はバーチが好きだった。
あんな男になりたいと、あんまりにもかけ離れていたからそれは思うことはなかったが、それでも尊敬していた。
彼の正体がマリアンナだとわかったけれど、それでも別に問題はなかった。
たとえばマリアンナがどんな姿でも、丸太はもう、マリアンナを忘れられない。
いつの間にこんなに魂の中に彼女が入り込んでいたのかと思う。
デートに誘わなかった悔恨が、彼女への思いを強くさせているのかと考えたが、それならそれで、もう、いい。
バーチがマリアンナなら、バーチも愛する。
それはなんだか滑稽に感じたが、少しの笑いもこみ上げてこない。
蓑崎で七年経って、何にも自分は出来ていない -
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“「リッツは僕が守るよ」
何が出来るか自信はないけれど、マルタは心の底から素直に思い、素直に言って、素直に口に出した。
自分の心にある、静かに光る恒星のようなもの。
時々感じるその苦しいような熱さに、この時マルタは一人で誓った。
「リッツは僕が守る」
リッツは顔を真っ赤にしてひとつ震えた。泣きそうだった。
「だって、ほら」
マルタは大きく息を吸って、それからいつものように笑う。
「リッツがいないと、僕、生活できないよ」”
ええっと?
展開が意外すぎて。
えーっと、っと。
頭の芯が冷えていくような鳥肌。絶望に似た虚無感。
続きが気になる。
高校でのマルタの行動が好みだ。
“「待ってよ」
シェ -
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“「……デアスミス……」
掠れた声で思わず呟く。震えているのが悔しかった。
デアスミスはバーチとマルタのテーブルの横に立ち止まった。
「はじめまして、マルタ・サギーさん。いつもリッツが世話になっています。ありがとう。私はウィリアム・デアスミス。リッツの兄です」
デアスミスは曇りのない明るい、人好きのする笑顔でそう言って軽く両手を広げた。
マルタは頭の中が真っ白になった。
デアスミスはその彫刻めいた美しさの右手をマルタに差し出す。
マルタは何も考えずにその手を取りそうになった。
吸いこまれそうな青灰色の瞳。
「おいこらデアスミス」
不機嫌なバーチの声がして、マルタは出しかけた手を引っ込め、浮かせ -
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“リッツの方が一瞬正気に戻るのが早く、ババロアはリッツの手に渡り、あっという間に食べられてしまったが、マルタはうわ、とられたと一声あげたきり、ナフキンで口元を拭って立ち上がりマリアンナに微笑んで言った。
どうやら少し照れているようで、一瞬視線が定まらない。
「あの、えー。アラン・レイ高校三年のジョン・ジョアンと申します」
嘘吐けマルタ・サギー。
「こちらは僕の後輩の」
とマルタに視線で促されて、リッツははっと我に返り、立ち上がって着衣を直し、顔を真っ赤にして口元を拭う。
「一年のデニス・エルロイです」
嘘吐けリッツ・スミス。
バーチはにこにこと二人を見つめる。
なんだ。
なんの冗談なんだこれは -
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“「兄さんは手段を選ばない。派手なことが好きな人だから、事務所に火をつけることぐらい平気でするだろうね。そうなる前に僕は自分で兄さんを捜して、彼の前に出なくてはならないのかも知れないのだけど、出来れば見つけたくない」
「だから、オスタスに係累のない僕のとこにトーリアスが君を預けたのか」
「うん」
だってマルタなら。
親も兄弟も友人もいないんだから。
とばっちりでマルタが死んでも、ふつうにオスタスで生活している人よりも全く被害が少ないから。
「あーなるほどねぇ。そっか。でもさ、リッツ。いいんだよ。別に」
マルタの言葉にリッツは視線を上げてマルタを見つめる。
マルタは笑っていた。”
カード戦争の -
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“今日から助手のリッツは茶を淹れてやりながら、食事の間も婉曲にさんざん言ったことをまたぶつぶつ言う。マルタがカード使いであったことは、未だに少し複雑だ。
「カード使いならそうって言えよ。つか、あんなん推理も捜査もあったもんじゃないじゃん。ドクトル・バーチのお陰じゃないか……って、ドクトル・バーチってどんなんだろ。会ってみたいなー」
温めたカップにお湯を注ぐと、脳の奥まで届く様な香りが辺り一面に広がる。ご満悦で匂いを嗅ぐリッツは、リッツの寝床を作っているマルタを呼ぼうとしてふと気がつく。
雑然と物が置いてある棚の上に同じ文字らしきものが書かれている紙があった。
「なんだこれ。呪文かな」
リッツは -
Posted by ブクログ
“「バーチャルとリアルの区別って何だと思う?」
(中略)
丸太は話を聞きながら、なんとなく窓枠に腰をかけて空を見ていた。確か春。五月の若葉。桜は散って、少し暑い陽気の日だった。布団干したいなぁと思った。
「鷺井は?」
誰かに訊かれてぼんやり答えた。
「……自分がそこにいるかいないかじゃないの」
自分が言った答えがもし合っているなら。
丸太はラーメンのスープをぐい、と飲み干して器を置いて言った。
「ごちそうさま。ありがとう」
認めなきゃ。”
結構面白い。
マルタの性格とか。
語り口調が読みやすいし、カードのことやオルタスの世界観にも惹かれる。
まだ謎は、たくさんあるのだけど。
“「疲れただろ