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Posted by ブクログ
“「リッツ」
マルタの困った声。それを聞いてもリッツは顔を上げる気にならない。なにか、強い感情で頭ががんがんする。
七年。
七年だと?
なんで。
なんだそれ。
「リッツ」
心配する声。
マルタの。
リッツは強く目を閉じる。涙がこぼれた。耳鳴りがする。七年。二十五歳。マルタ。マルタ一人で。モリカワさん?知らないところで。知らない人と。でもマルタがここにいるってことはきっと必死で戻ってきたんだ。帰りたいと思って七年。
それでなんでこんなに胸が痛いんだ。なんで苦しいんだ。
この一週間のことを思い出す。
懐かしいものを見るようなまなざしや、老人のような微笑や。
ヘンリーのデリを。
僕の紅茶を。
泣きそうに味わって。
人が変わったように片付けたり走り込んだり。
ポケットからハンカチを出して涙を拭き洟をかむと、リッツは泣くのを堪えた赤い目でマルタに言った。
「食べよう!ヘンリーの、デリだ!」
笑おうとしたが、上手くいったかわからない。
マルタは頷き、微笑んでハムサラダを頬ばった。”
マリアンナへの求婚話の持ち上がりとか。
マルタがオスタスを懐かしんでる描写に泣きそうになる。
“なんだ、マルタ・サギー。
なんだその表情は。
かくれんぼをしていた大好きな人間を見つけた、いたずらな男の子みたいな。
鬼ごっこで、相手しか見えなくなって屋根から飛び降りて骨折してしまいそうな男の子の表情で。
抱き留めなくては、危ないだろう。
着地のことなんか、欠片も頭にないだろう?
鍔広の帽子、長い黒髪、フリルのついた白いブラウス、黒いマントにズボンにブーツ。獲物を放り出して、バーチはマルタを抱きしめる。
勢いを殺せずに、後ろに無様にひっくり返る。
「はは!バーチ、久しぶり!」
バーチの上に乗って屈託なく言うマルタに、後頭部を打ったバーチは、目の前がちかちかするのを堪えて怒鳴った。
「怪我をするぞこの大馬鹿者!」
「してないよ!」
言ってマルタはバーチの顔に顔を近づけて笑った。
警官たちが駆け寄るのも、ラン・フェオーが立ちつくしているのも、知らない。
ただ全身を駆けめぐるハイテンションな熱に支配されてどうしようもなかった。何も考えられない。
何も考えないまま紅潮した全身でマルタは言った。
「大丈夫だよ、バーチ。心配しないで!」
愛してる、と言ってしまうのをこらえるのがやっとだった。
キスをこらえるのがやっとだった。
七年、ずっと逢いたかった。マリアンナにもバーチにも。
ようやく逢えた。”
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