珀鉛病で弱っていつ死んでもおかしく無い状態のローがコラさんと別れて約束のとなり町までの三日間を飲まず食わずで歩き続けられたのも、命の危機に瀕してオペオペの実を扱えるようになったのも、自分自身への苦痛が伴う手術をやり遂げられたのも、病気を治して生きる事がコラさんからの愛に報いる事だと言う強い意志があったから。
助けてくれたヴォルフに自分の生い立ちからコラさんのことまで全て話せたのも、食事と温かい風呂と白いアザの無くなった開放感で心が軽くなっていたからなのはあるけど、コラさんの存在が「もう何も信じてない」と言っていたローの心を溶かしてくれたから。
コラさんからの愛がローを生かしている。
街に入るのはまだ怖くても自分を助けたくれたヴォルフに少し心を開けるようになって、それでもまだオペオペの実の事は言えないのは、相手のことが十分に分かっていない状態では賢明な判断でもあるし、後にヴォルフや仲間たちに自分から話すようになっていく変化が嬉しい。
コラさんからのローへの愛は、ローの心の扉を無理やりこじ開けるような力技の愛情の掛け方で、全てに絶望して信じられなくなっていたローにはそれくらい力技で無理やり押し付けられないと受け取れなかったと思う。
それはそれとして、意地っ張りで負けず嫌いで捻くれてるローに、必要以上に踏み込んでは来ないけど側にいて頼れば全力で助けてくれるって信じられるヴォルフの接し方はすごく合っていて、ローが受け取りやすい形で愛情を示してくれた信頼できる大人が、コラさんと別れた後にローの側にいてくれたのはとても大きい。
完全に善意だけだとローは受け取れなかったと思うので、ギブ&テイクという言葉でローが一方的に借りを感じる状態でなかったのも受け入れやすかったポイントだと思う。
ベポたちに初めて会った時にシャチとペンギンがベポをいじめていたのは、悪い大人から逃げて二人で生きていくために気を張って攻撃的になっていたんじゃ無いかと思う。
ベポがはベポで話しかけてくれたって理由だけで自分をいじめてくる二人と仲良くできるかもって無抵抗だったのは、ゾウからノースまで一人で彷徨って心細くて寂しかったんだろうな。
ローが13歳だから当時ベポ9歳で、ミンク族なんて珍しいから気味悪がられるだけならまだしも捕まって売られてもおかしく無い状況で助けてくれたローの存在はとても大きい。
ベポを連れて帰った後のヴォルフの様子見ながら、鼻を鳴らすのはちょっと嬉しい事があった時だってローが分かるのもすごく良くて、ひと月の間にヴォルフとの距離が縮まってるのと、ローが相手のことをよく見てるのが分かる。
シャチとペンギンが大怪我をした時に、自分をいじめてたはずの二人をベポが助けたいって言った優しさはローにとってもシャチとペンギンにとってもすごく大切なモノだと思う。
四人の中で一番年下なので、みんなの弟みたいな。
命を救われた事とローの強さに惹かれてシャチとペンギンは子分になるけど、絶対一緒に生活する中で年齢の話になったと思うし、「ローさん」って呼んで慕ってる相手が年下なのすごく良い。
ペンギンが四人の中で一番年上なので、ローに強さでは敵わなくても、おれがしっかりしなくちゃみたいなのがあると良い。
シャチとペンギンはニコイチだと思ってるけど、子供の頃の1歳差って結構大きいからやっぱりペンギンに守られている部分があったりして、状況の説明とか話してたのもペンギンだし矢面に立ったりするのはペンギンで、思ってる事をきちんと言葉にして相手に伝えられるのがシャチ。
ベポに謝って助けてくれたお礼を言ったりヴォルフの手術しようとしてるローに、ローなら出来るって背中を押したり、言うべきときに言うべきことを言葉にして伝えられるのがシャチ。
手術の時ローが「天才」って言葉をヴォルフの真似して使ってみるのもすごく良かった。
コラさん以外にも心の支えになる存在が増えている証拠だと思う。
二人を助けたことを「単なる気まぐれ」だって恩に着せないところがローの捻くれてるところだし優しさで、ヴォルフによく似ているところでもあるし、そんな捻くれてるところをみんながちゃんと分かって受け入れてくれている事がどれだけローにとって得難い大切なものか伝わってくる。
「この世界も、なかなか悪いもんじゃない」なんて、コラさんが聞いたらそれだけで号泣しそうな事を思えるようになったのがとても尊い。
フレバンスで幸せに暮らしていた頃のローは医学の勉強に励んでいて祭りに行くのが30分だけなのに不満すら持ってない優等生だったし、全てに絶望してファミリーにいた頃は世界を壊す為に残りの命を削っていて、コラさんとの旅も大切な時間ではあったけど命のリミットが迫っていて余裕がなかったから、ローの子供時代に同年代の仲間とバカなことやって笑い合えた時間がある事がとても嬉しい。
町に行くことになった時も、ローは色々ありすぎて捻くれちゃってるけど、元々お兄ちゃんで面倒見が良くて優しいから自分が守るべき子分がいる事で自分を奮い立たせて前に進む事ができるようになったのが読んでいてすごく嬉しかった。
三人が怯えているときに、自分も怖いのに珀鉛病の事を自ら打ち明けてそれでも自分は大丈夫だとカッコつける事で三人の背中を押すローが愛しい。
ローが頼ることのできるヴォルフと言う大人がいるから、子分を抱え込める余裕ができたように思う。
町の人が優しく受け入れてくれたとこも四人にとってとても大きな出来事で、その環境を作ってきたヴォルフにとってもすごく救われたんじゃないだろうか。
訳ありの自分たちを受け入れてくれて、手術の時は躊躇いもなく大量の血液を提供してくれて、シャチとペンギンの問題を片付けてくれて、ヴォルフからの掛け値のない愛情が傷ついた子供達を癒してくれて、信用できる『大人』もいるって分かったって言えるようになって。
ヴォルフにとっての後悔が実を結んだ結果がローたちのように思える。
ヴォルフや町の大人たちと言う安心を手に入れて、その上でそれぞれが自分に合った場所で働いて稼ぐ事が出来るようになったのも、順調に人としてみんな前に進んでいるのが嬉しい。
バラバラのことをしていても朝と夜のごはんは一緒に食べるのもお互いがお互いを大事に思ってその時間を大切に思ってるのが分かる。
ハートの海賊団の人数が増えてからもこの習慣続いてたら良いな。
実際に診療所で医療に携われるようになって直接患者を相手にしたり実地で経験を積めるようになった事で医者としても成長できたおかげで事故を起こしたヴォルフを助ける事ができたし、大切な人を自分の手で救えたことはコラさんに守られるだけだったローにとってとても大きな事実だと思う。
オペオペの実があっても魔法のように全てを救えるわけではないからこそ、「DEATH」の刺青を自分から見える位置に掘って戒めることにローの真面目さや医術に対する誠実さが表れている。
刺青入れてヴォルフに怒られるかもってビクついてるところは可愛い。
ヴォルフにとってギブ&テイクと言いながらどう考えても持ち出しの方が大きい行いはおそらく町の人たちに対しても同じで、過去に自分の息子を止められなかった罪の意識から来ていて、だからこそギブ&テイクの外にある「友達」と言う存在にローたちを置いたのは守るべき子供ではなく一人の対等な人間と認めた事でもあるし、対等な立場を罪人である自分に許した事になるんじゃないだろうか。
ローがオペオペの実の真の能力を知ってすぐに三人に話に行くのも泣けてくる。
全編を通してコラさんからもらった「自由」とは何か、その答えをローは探していて、強敵との死と隣り合わせの戦いの中で"本当の自由"と向き合う覚悟を決める。
人としても、医者としても、必要な経験をきちんと積めて成長できたから巣立って行く事ができたんだと思う。
ベポたちにとっても、虐げられて助けられて守られていただけじゃなく、実戦を経験して自分たちで敵を"悪い大人"を倒して、自分たちに優しくしてくれた人たちを守る事が出来た事はとても大きな自信に繋がっただろうし、それを為せる力をくれたローについて行く決断は決して軽いものではないけれど、とても心が躍る決断だと思う。
ヴォルフにとっても過去の後悔に決着をつけて、ローのおかげで実の息子を手にかけずに済んで、守ってきた子供達の成長をしっかりと確認した上で送り出す事ができて、親としての役割をやり直した上でギブ&テイクを超えた友達を手に入れらたのがすごくよかった。
エピローグで少し寂しくなった生活をヴォルフが充実して過ごしているのが嬉しかったし、ハートの海賊団として名を上げてるローが「単なる気まぐれ」を続けている事も嬉しい。
ローやベポたちの成長の物語でもあるけど、ヴォルフの再生の物語でもあった。