グラント警部は犯人を追跡中に足を骨折して入院することとなったが、ベッドから動けずに退屈を持て余していた。友人である女優のハラードは、歴史上のミステリーを探究すれば退屈がまぎれるのではないかと提案し、何枚もの歴史上の人物の肖像画を持参する。グラントは、その中の1枚に関心を持つ。グラントは人間の顔に現...続きを読むれる人物の性格を見抜く特技を持っていた。彼の眼には良心的で責任感のある人物として映ったその肖像画の主は、リチャード3世であった。
この小説は、「歴史がいかにして作られるのか」を探究し、確かな証拠がないにもかかわらず今や定説となってしまった歴史が、恰も真実のように語り継がれていることに疑問がある。グラントは、チューダー朝によって記された虚構が「歴史」として現在も流布しているのだという答えを導き出す。
著者テイは本書出版後間もなく没しており、本作が作者存命中に出版された遺作となった。
この作品が出版された際に、アントニー・バウチャー(推理小説の批評家)はこの作品を「推理小説分野において、永く古典とされる作品で(not only one of the most important mysteries of the year, but of all years of mystery)」と評しています。
お気づきかと思いますが、日本では〈安楽椅子探偵〉・江戸川乱歩先生が高く評価し、〈寝台探偵〉とも呼んでいます。探偵は一歩も動かない。登場するデータはすべて史実という制約が課せられている難しさはあります。
この作品が上梓され評判になり、高く評価しご自身の作品にも取り入れたのは、高木彬光の『成吉思汗の秘密』(1958年)等の神津恭介シリーズです。
「訳者あとがき」までお読みください。味わい深い作品だと思う。