小野寺健のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレカズオイシグロは、前にも日の名残り、私を離さないでを読んだことがあり、
今回映画化されたことを受けて興味をもって読んだ。
流れ、雰囲気は日の名残りに近い。
途中途中のエピソードが何に繋がるのか、なんでそのようなことを思い出すのか、最後に少しわかる。
相変わらずの読後感に圧倒されたが、今回一番圧倒されたのは、意外にも巻末の三宅香帆さんの書評だった。
書評に解説が書いてあり、人によってはつまらなく感じるかもしれないが、自分は三宅さんの書評を読んでこの本の理解と読後感を深めることができた。
人は誰しも人には言えないことを抱えて生きる。
そして、テクニック的には書かれていないことを想像して読むのが -
-
Posted by ブクログ
ネタバレ恋のから騒ぎの曲。
昼ドラ華の嵐。
上巻はストーリーが面白くて夢中で読んでいたが、下巻では登場人物が想像できない程に残酷で、続けて読む気がしなかった。
こんなに酷い人間を創造できる作者の女性が怖かった。
作者の父親はアイルランド出身で差別されていた。
閉鎖的な田舎で暮らしていた環境が残酷なキャラクターを生み出したのか。
ベルギーに留学しているので、視野は広げられたはず。
あとがきによると、同じ時代のジェインオースティンは、幸せに育てられて、その著書の内容にも反映されている。
環境と教育が大事。
ヒースクリフを親切で拾ってきたばっかりに、隣家も巻き込んで不幸の連鎖。
代々同じ環境で育つと、不 -
Posted by ブクログ
ネタバレ主人公の女性は、本当にできた人だと思った。舅にも優しく、逆らわず、古い価値観にとらわれていることも受け入れて相手を立てている。自分勝手な知り合いの頼みごとも断らず、わがままな言動にも怒らずに付き合う。お金まで貸してあげる。とにかく怒るということがない。そういう姿に「なんてできた人なんだろう」と思った。
でも、今の彼女の状況を知ると「あれ?」と思う。離婚し、外国人と再婚している。ピアノ教師には意地悪な嘘までつく。あの時、舅に合わせていたのも本心じゃなかったのかもしれない。夫との離婚の理由も、恵子に何があったのかも明かされないままだ。
それでも、ニキの新しい価値観には理解を示していて、そこには相変 -
-
購入済み
この緻密で酷薄で、これほどに情熱的な物語を、1800年代というだいぶ前の、田舎に住む、おそらくは人生経験も限られた二十代の女性が完成させたとはとても信じられません。
まさに唯一無二と言ってよいでしょう。
そしてこの激しい作品を完成させた女性は、人生に挫折し若くして逝去した実兄の後を追うように、三十歳で亡くなりました。常に毅然とし、作品へのどのような評価も聞き流していたといいます。
天国の眠りとしての成就でなく、迷える魂となって再び荒野を駆け巡りたい。
そう断言した著者を、心から敬服します。
翻訳者も、心底疲れたとあとがきに書いていましたが、著者の強くどこまでも深い魂に触れた、本当によい翻 -
-
Posted by ブクログ
ジョージ・オーウェルが何を思い描き「動物農場」や「1984」を綴ったか、そして彼の生活を愛する様子がエッセイや手紙を通して語られている。
彼は意外にも愛しく思う女性と結ばれ、家庭を持ち、親しい友人と適度な頻度で文通していた。全体主義を文学的に批判する様子を見て、鋭い洞察力を磨き、鍛練に勤しんでいる、若干ではあるが冷徹な人であると思い込んでいた。
しかし、本書を読み終えて、彼もイギリスで貧しいながらも執筆を積み重ね、また、その中で戦争や貧困、ファシズムを経験し、苦労の末に書き上げた一作なのだと理解することができた。
文学者の生涯を追いつつ、彼らの思いを想像するというのも粋な体験だなと思った。 -
Posted by ブクログ
前半のパリでは、高級ホテル、高級レストランで働いていた筆者がその裏側のとんでもないカオスぶりを面白おかしく描き出す。人物描写が巧みで、活気にあふれた破茶滅茶な喧騒があたかも目の前で起きているかのような臨場感。どんちゃん騒ぎのパリ、ちょっとみてみたい。
後半のロンドンは、浮浪者に身を窶した筆者の、まさしく放浪記である。魅力ある浮浪者仲間の生き様はときに明るく読める瞬間もあるが、根本的にはイギリスの制度上の問題や大衆の意識について、鋭い疑問を投げかけている。
ブレイディみかこ氏の「労働者階級の反乱-地べたからみた英国EU離脱-」でも似たようなことが述べられていた点は非常に面白い。
本書は約100 -
-
Posted by ブクログ
言わずと知れた『動物農場』『1984年』の著者、ジョージ・オーウェルのエッセイ!どんな人なのかと思ったら、回顧主義者のちょっとメンドクサイおっさんで、食器洗いに苦心している庶民的なところもあり、全文通して真面目な文体なのにめっちゃ面白い人だった(interestingというよりfunny)!
第2部の『ジュラ島便り』はジョージ・オーウェルが知人にあてた書簡をとりまとめたものなのだけど、この時に、あの『1984年』を書いていたんだなぁ、と思うと不思議な感じです。この手紙を書いた2、3年後には亡くなってるんですよね。人生は短い。
もし、ジョージ・オーウェルが現代に蘇ったら、私なら間違いなく、い -
Posted by ブクログ
『屋根裏部屋の一つには、仮装舞踏会で履くようなアメリカ向けのけばけばしい靴を作っている、ブルガリア人の学生がいた。この学生は六時から十二時までベッドの上にすわりこんで十二足の靴をつくり、三十五フラン稼いだ。そして、あとの時間はソルボンヌの講義に出るのだった』
ジョージ・オーウェルといえば「1984」で、全体主義を揶揄するディストピア小説ということになるのだろうけれど、近未来として描かれたその年は既に過去の時となり、危惧されていた第三次世界大戦も起こらず、現実の世の中はオーウェルが極端に描いて見せた世界とは異なっている。しかしそこに描かれた人々の暮らしは、実のところ絵空事ではなく、少しだけ見方