小野寺健のレビュー一覧
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嵐が丘と言えば、ロミオとジュリエットのような、お互いの家柄とか立場とか国境とかが壁になって、心やさしい男女が、相手を思いやりながらの恋愛小説と思ってました。完全なるロマンス。甘々。
それがまったく違ってて、苛烈極まる小説で、恋愛小説というよりもサスペンスホラーみたいな感じです。サスペンスはさておいて、ホラーです。
下巻の途中あたりからやっと、ヒースクリフが好気になりかけてきました。
視点が第三者という事がこの小説のいい所でもあり、主人公を好きになれない駄目な所でもあると思います。ヒースクリフ視点だったらもっと違っていて、彼を好きになれると思います。
家政婦から見たヒースクリフは極悪非道の男と -
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『1984』や『動物農場』で知られるジョージ・オーウェルは、世界恐慌の余波がまだ残るパリ、ロンドンを放浪していた。そのときの悲惨な貧困生活をユーモア溢れる文章で記したのが、この『パリ・ロンドン放浪記』。
特に興味深いのが、オーウェルがどんなに貧しくなっても、虚栄心を捨てきれないという描写。例えば、お金あるときにはレストランで外食することができたが、困窮極まってそれが不可能になってしまってからも、見栄をはるためにレストランへ行く振りをして公園で時間を潰し、帰りにパンをポケットに忍ばせてこそこそとアパートに帰る。他にも、ルームメイトと食べ物を譲り合って、結局相手に食べ物の取り分を多くとられてし -
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ネタバレこの訳が良かったのか、大人になってから読んだからなのか、子どもの頃なんだかよくわからなかった「嵐が丘」という小説が、非常によくわかりました。
大キャサリンとヒースクリフの決定的な擦れ違いが悲劇を生んだのですね。しかも結局キャサリンは何が悪かったのか生涯分からないまま死んでしまったわけで……
それと、個人的にはネリーとヒースクリフの間にも、お互いにしか分からない奇妙な縁があったのだな、と思いました。
そして、この本を人に紹介する時は冗談めかして「リア充爆発しろと滅茶苦茶やった男が結局リア充に負ける小説だよ」とか言ってます。いやすいません。実際キャサリン・リントンとヘアトンが仲良くなっていってヒ -
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英米文学の知識があれば、もっと楽しく読めたと思う。
ディケンズの評論は何とか読んだが、他の文芸論は読まなかった。
全編を通して伝わってくるのは、オーウェルの建前論を排した実直さ。
ユダヤ人差別について述べた評論では以下の指摘が鋭い。
曰く、
「ユダヤ人差別について検討しようとするのなら、なぜあきらかに非合理なこんな信念が人々の心をとらえるのだろう?とは考えず、なぜユダヤ人差別思想はわたしの心をとらえるのだろう?という疑問から出発しなければならない。」
また、なんらかの「主義」をもつ人々に対しての、「認めることの出来ない事実」の指摘も手厳しい。
たとえば、平和主義者に対して、 -
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時代の移り変わりとそれが生む歪み。被害者というのは語感がやや強すぎるのだけれど、時代の流れに、パラダイム・シフトに晒され、翻弄された人々。その生き様。
メッセージを読み取るのが難しい作品だったけど、解説を読むと色々なことがしっくりくる感じがした。
佐知子と万里子、藤原さん、緒方さんという他人についての回想が全編を占めるにも関わらず、全ての要素が今の悦子に帰結していく点で、この物語の構成は爽快感すらある。イギリスへの移住と景子の自死、その詳細が語られることはほぼ無いのにも関わらず、回想とのシンクロ性が、悦子の人生に纏わり付く陰の輪郭をぐっと強めている。
集団的なトラウマ、というのがこの小説の主 -
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1920〜30年代のパリ・ロンドンの最底辺の生活を描いたルポ
貧乏の酷さと汚さ、非人間的な労働環境などがリアルに書かれている。本当に酷い生活なんだけどどこか楽しそうにも見える。それは周りの人間の面白さだったり、人生に対する吹っ切れ方からくる。でも貧乏を肯定するわけではなく、社会の間違った構造や無駄な消費が、貧乏や非人間的な労働を生んでいるという指摘もしている。
貧困に生きる人々を愛おしく描きながら、その背景にある構造には厳しく批判を入れているのである。
パリとロンドンの違いも面白い。パリの方は取り繕うことが少ない、全員が自分のために勝手に生きているって感じ。あと出てくる人が多様。大陸だからな -
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カズオイシグロのデビュー作。
娘が自殺した女性が、過去の長崎での日々を回想する物語。とても面白いのだが、ストーリー展開的な面白さというより、登場人物たちの会話や、主人公の感覚に違和感を感じて先が気になる、そんな読み方をしたように思う。
読み終えたときに、佐和子は自分自身で、万里子は景子を投影してるのかなと感じたのだが、解説があったことでよりわかりやすくなった。解説を踏まえてもう一度読みたくなった。
どうして今、自分はこの記憶を思い出すのか?そんな視点を持って読むと、わかりやすくなると思う。語られないストーリー、語られない思いが多くあるけれど、何を見るのか、読者に託された余白の部分がイメージとし -
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ネタバレカズオイシグロの信頼できない語り手はデビュー作から健在だった。信頼できなさでいったら今まで読んだ中でもトップ。
結局彼女の回想やこの物語は何を言いたいのか、
全てはぼんやりとしか見えないのだが、言葉にできない印象にあふれている。
戦前の価値観を引きずる「緒方」、典型的な昭和の親父の「二郎」。彼らは悦子にとっていつのまにか足にからまる縄のような存在だったのだろうか。佐知子の行動は悦子のイギリス行きに影響したのだろうか。佐知子と万里子はその後どうなったのだろうか。悦子は日本を棄てたことを後悔しているのだろうか。
新しい時代への希望、家父長制への怒り、敗戦国の人間のプライド、女性の自立、殺人
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『ミス・サイゴン』だと思った。戦後の痛みと、混乱のなか、世の中が「変化」していくことを嘆き、もがく旧世代の緒方さん(=悦子の義父)と、「停滞」する日本にいてはいけないと信じて、アメリカへ渡ろうとする佐知子。やがて同じように、離婚を経てイギリスに移民した、悦子。佐知子も悦子も、子どもを連れて越境する。本作において、ヒロインたちはとにかく自分を時代の前へ前へ、駒を進めようとする。子どもを巻き込んで。
ミス・サイゴンでは、ヒロインのキムは我が子に未来を切り拓くため、自分の命を犠牲にして、我が子をアメリカに渡らせた。
何が人を越境させるんだろう。海を渡った先に、約束された未来、少なくとも今よりもい