小野寺健のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
人間の心の底のマグマが描かれてはいる。ただやはり解説の内容から忖度しても、それは母国語で読んでこそ伝わってくるマグマであり迫力なのかもしれない。
非常にこなれた訳で読み易くはあるが、まどろっこしく無駄なセンテンスも多くあると感じてしまうのは、私だけだろうか…?傑作と呼ばれる小説ほど、長編であっても無駄なセンテンスが一切無く、繰り返し読めば読むほどに「この箇所はこういう意味、役割を担っていたのだなぁ…」といった発見があるものだ。
そして何より、初回に読み終わった時の衝撃といったら、計り知れないものがある。
そうした衝撃は、あまり感じなかった。 -
Posted by ブクログ
英文学の講義を取っている。課題その2。
『嵐が丘』は子供向けにリライトされたものを読んだことがあって、キャサリンとヒースクリフの恋愛小説だとずっと思っていた。
のだが。
これ、恋愛小説?
二人の間にロマンティックな感情が介在するようにはとても思えないのだけど。いや、確かに強靭な絆は存在していて、二人は互いに互いの片割れという唯一無二の存在なのだが、その関係性が「あらかじめ与えられている」ように見える。いつから、なぜ、彼らがこれほど強く結びつくようになったのかが全く不明なのだ。恋愛小説の重要なファクタとして恋人たちの関係性の発展を描くという面があるはずなのに、そこんとこはまるっとすっぽ抜けている。常人の理解を超えてどこまでも惹かれ合うキャサリンとヒースクリフは、なんだか人間のように思えなかった。
さて、一旦気づいてしまうと、ほとんどすべての登場人物が人間とはかけ離れた動きをしているような気がしてきて困る。聞くところによると、『嵐が丘』は登場人物の誰にも感情移入できない名作として名高いらしい。それも頷ける。これでもかとばかりに強烈な喜びや憎しみが描かれるのに、その感情の発生メカニズムがほとんど見えてこないのが不気味でならない。奇妙な隔絶感をずっと感じていた。
下巻に入ると、第二世代が登場する。第一世代と同じ名前と気性を受け継いだ子どもたち。相変わらず行動原理がよく分からないままに愛し合い、憎み合う。与えられた人格が永遠に固定している。持ち主のいない激情の塊がただ飛び交う様を見せられているようで、だんだんと当てられてくる。疲労困憊しつつ終わりを見届けた。
私には最後まで、ヒースクリフのことが分からなかった。ただ何か大きな恐ろしいものが滅びるのを見た。 -
Posted by ブクログ
ブライズヘッドという広大な邸宅、そこに住む人々――。華麗にして、精神的苦悩に満ちた回想録。
やはりなんといっても、主人公の友人・セバスチアンの人物造詣が魅力的であった。
貴族の次男であり、大変な美貌の持ち主、そして人を魅了せずにはいられない人柄。
そんな彼が、厳重なカトリックの家(この家がブライズヘッドである)にどんどん蝕まれていく様子が読者をひきつける。家族が彼に構えば構うほど、荒廃していくセバスチアン。ああ、なんと繊細でいて純粋な存在。しかも美しいと来た。彼がその生来の魅力ゆえに、家族の影響を受け流すことができずにいる様が、鮮やかに描かれている。
純粋なものがその純粋さゆえに傷つくのを描写するのは、ときにあざとくなりがちだと思うけれど、本書ではそれが必然的に描かれていて違和感がなかったと思う。
その友人の姿に傷つきながらも、どうすることもできずにいる主人公が、非常に冷静でこれまたよい。彼は後年画家になるのだが、その鬱屈しているとも取れる芸術への傾いだ態度が面白く、説得力があった。
全体的に文章は美しく感傷的なのだが、一方で皮肉っぽく、ときにそれは辛辣にも感じられた。しかし解説によると、この著者の著作ではこの本はむしろ異例で、他の本はもっと突き放した書かれ方だそうである。こ、怖いなぁ。この本でもかなり突き放してると思ったのに。
ちなみに、この本ではセバスチアンの家族をめぐって、かなり宗教的(ほぼカトリック)の話も展開されるが、素人にはそこらへんのニュアンスがさっぱりであった。
カトリックの人が読んだらどう思うのだろう。
下巻では話の展開がややまどろっこしく感じられるところもあったが(ジューリアのところ、私は少々長いと思った)、やはりセバスチアンの存在が大きくて、全体の話を上手く引き締めてくれていたと思った。
しかし私は、話の本文とは関係ないところでちょっと気に入らないところがあったのだ。それは、上巻に解説が載っていて、その解説内で下巻の内容がネタばれされていることである。
どうして下巻に解説をつけなかったのだろう・・・それがわからない。どうして全てを読んでしまう前に、読者の可能性を狭めるようなことをしたのだろう??
感想を書いてみるとたくさん褒めているのに、評価という点になるとあまりぱっとしない本があるが、これはどうもそれらしい。解説だけが不満の全てではないけれど、なぜか☆3つ。