森本あんりのレビュー一覧

  • 反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

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    ネタバレ

    反知性主義という切口でアメリカのキリスト教、歴史、政治、社会を分析する。反知性主義は知性に反対するのではなく知性が権力と結びつくことに反発するものだとして、その負の面も描きつつ肯定的な評価も与えている。

    アメリカの歴史の流れや、自分の中で曖昧だった「ピューリタン」や「福音主義者(エヴァンジェリカル)」の定義が少し理解できた。

    また、トランプに対しても本書を読むことで少し見方が変わった。アンドリュー・ジャクソンとの共通点など、トランプはアメリカにとって決して新しい存在ではないのだと思った。

    アメリカのラディカルな平等理念が反知性主義を生むというのも面白かった。今の格差社会アメリカを見ると平等とは結びつけづらいが、元来アメリカは貴族が支配するヨーロッパに反抗して生まれた国であり、底流には平等主義があるということだろう。トマ・ピケティもそのようなことを言っていた。確かに、目上の人ともファースト・ネームで呼び合うなど、フラットな文化には違いない。結果としての格差はあるが、機会の平等を重視しているということだろう。

    フィニー、ムーディ、サンデーらリバイバル運動のヒーローが、時代のニーズを捉えて伝道していくところは、クリスチャンとして見習わねばと思わされた。ムーディが少年時代に想像上の大観衆を前に演説の真似をしていたというエピソードは微笑ましく思った。自分の子どもたちの性質も将来、主のために用いられることを祈る。

    【以下、面白かった箇所の要約】

    P34-47
    ハーバード、イエール、プリンストン大学はピューリタン牧師養成を目的として設立された。だが、中世ヨーロッパの神学校とは違い、教理教育や博士号は重視しなかった。重視したのは一般教養。牧師(=説教者)には一般教養こそが必要というのがピューリタンの考え。プロテスタントの中でもルターはカトリックの影響が強く神学博士号を持っていた。カルヴァンはピューリタンに近く、広範な著述にも関わらず、修士号も博士号も持っていなかった。

    P52-53
    初期のピューリタンはオルガン、尖頭、結婚式のドレスや指輪、クリスマス等もカトリック的として拒否した。違反には罰金もあった。性愛の悦びは率直に認めた。ピューリタンは生真面目で率直。笑えるエピソードも多く、それを大真面目に記録していることも面白い。

    P56-70
    リバイバルはアメリカの平等の理念を呼び覚まし、以下のような多くの社会運動に影響を与え、その精神的支えとなった。
    (18世紀)独立革命
    (19世紀)奴隷廃止、女性の権利
    (20世紀)公民権運動、消費者運動
    リバイバル発生の内的要因として、人々の間の回心体験への渇望が挙げられる。明確な信仰を持つ植民第一世代と比べ第二世代以降は信仰が明確でない人が増えてきたが、信仰告白をし教会員籍を得ないと公民権も得られなかったことから、回心体験を求めた。
    孤独で不安な新規入植者たちもリバイバルの担い手になった。定住者による安定した社会の維持を願っていた既存教会は、そのような不安な新規入植者たちを受け入れる準備ができていなかった。

    P121-122
    反知性主義はラディカルな平等論に育まれる。それは、ごく普通の人びとが、道徳的な判断能力をもっていることを前提とする。それはまた、民主主義の前提でもある。

    P133-141
    エドワーズやエマソンは自然の中に神の栄光を見る。エマソンの神は、キリスト教的な世界観と接してはいるが、聖書的な人格神ではなく、宇宙万物に内在する精神。その精神と個人の精神が呼応する。主客の区別への反逆。宇宙の原理ブラフマンと個人の魂アートマンとの不二一元論という古代ヴェーダ哲学に通じる。エマソンは直感を重視し、ヨーロッパの知的権威を批判する。

    P141-142
    ソローはエマソンの著書「自然」に感激し、エマソンの庇護のもと「森の生活」を書いた。

    P145-153
    十九世紀にアメリカの国土は拡大。独立に際しイギリスからミシシッピ川以東を割譲→ナポレオンから大陸中部を購入→西武開拓。この時期に成長したのがメソジストとバプテスト。

    P155-173
    反知性主義の大統領ジャクソン。名家の知識人であるアダムスに選挙で敗れたのを不正と言い続ける。あからさまな先住民追放政策。

    P172
    反知性主義の目的は権力者の鼻をあかすこと。手段はスマートでなければならない。反知性主義には、相当の知性が必要。

    P175
    第二次リバイバルのリーダーであるフィニーは、古色蒼然としたプリンストンの奨学金付入学を断る。反知性主義者は、どんなに世間の評判がよくても、自分自身の判断でそれを退ける。

    P176
    自然科学を高く評価するのはピューリタンからの伝統。

    P177-183
    フィニーは、リバイバルは神の奇跡ではなく、人間が自然法則にしたがって合理的に努力することにより起こせると言った。「神は自ら助くる者を助く」と精神。宗教的興奮はすぐ醒めるのが人間の生理的特性だが、それで構わないと言った。ある程度の間隔を空けないと次のリバイバルは来ないので、休んで待つことを説いた。

    P185-186
    リバイバルを十万人規模の集会による巨大なビジネスにしたドワイト・ムーディ。
    ムーディの時代、アメリカは農業から工業へ移行し、移民も増え、大都市には孤独で不安な労働者が溢れていた。ムーディのリバイバル伝道は、そのような労働者の心を捉えた。

    P221-245
    反知性主義の完成者ビリー・サンデー。
    サンデーのようなショービジネス化したキリスト教は、政教分離の帰結。政教分離により税金で教会を運営できないため、大衆を楽しませることにより献金を集めるしかない。逆に言えば、アメリカのキリスト教が先進国の中で例外的に活発なのもそのため。
    サンデーは右傾化。進化論は全否定。

    P272
    日本の反知性主義者は、空海、親鸞、日蓮、田中角栄など。日本は知性も反知性も中途半端な「半」知性主義。ハーバードが「上」という序列意識はアメリカにはない。

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    2024年06月28日
  • 反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

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    政教分離後エンタメ化した伝道集会が熱狂を呼び、ナショナリズムや平等意識と相性が良く、権力と知性の世襲が嫌われた。誰でも回心してまじめに生きれば救われる、帰依すれば聖書にないことは否定しなければいけない。それが今のアメリカの一部だと理解しました。

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    2024年02月10日
  • シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理

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    面白かった!
    読みやすく学び多い、会社員的に嬉しいコンセプトの本です。
    ニュースで触れる米国の「極端さ」を、今後は一段深く観察できそう。

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    2023年12月31日
  • 不寛容論―アメリカが生んだ「共存」の哲学―(新潮選書)

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    なぜ今まで宗教学に興味をもってこなかったのかと後悔してしまうほどすばらしい内容。人間が考えたものである以上、政治思想や哲学や歴史や人々の価値観にはいつも宗教の下地があることが理解できる。もっと学びたい。
    価値観が異なっても許容し共存するという意味での寛容は、「トルコから世界を見る ――ちがう国の人と生きるには? (ちくまQブックス)」に書かれていた「ものさしは複数ある」という認識に近いし、子どもの学級内での過ごし方としてよく言われる、「みんな仲良くは難しいが平和的に共存しよう」という考え方とも通じる。
    皆が「礼節をもって、暴力に訴えず、会話を遮断せずに続けるだけの開放性を維持する」ことができれば平和になるので、さほど難しくはないように思えるが、その境地に至るのが困難だから諸々の問題が生じるのではと思う。まず自らの信念によほど強い確信がなければ、他者の異なる意見に接することで自分の内部に揺らぎが生じ、不安になる。自分を不安にするものは排除しなければならない、となる。相手の態度があまりに確信に満ちていると、自らの不安定を指摘されているようで、あたかも自分が攻撃を受けたかのように感じる。攻撃を受けたら自らを守るため反撃しなければならない、となる。これらの問題をどのように乗り越えるかが、私たちが考えなければならない課題だと思う。

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    2023年08月04日
  • シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理

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    シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理 (NHK出版新書)
    by 森本 あんり
    それは、アメリカという国がさまざまな側面において、宗教という 鋳型 で作られているから

    なぜいまポピュリズムがアメリカを席巻している

    人びとは思い思いに書いたプラカードを掲げ、Dump Trump, Racist, Sexist, Anti-Gay!(人種差別・女性差別・同性愛差別のトランプを追い出せ!)と、調子を合わせてスローガンを叫んでいます。子どもも老人も、白人も黒人も、女性も男性も、家族連れも同性カップルも。歩道にいた人びとも「一緒に声を上げよう」と誘われて、次々に加わっていき、デモはどんどん膨らんでいきまし

    もともと知性は権力と結びつきやすい性質をもっています。そしていったん結びつくと、それは自己を再生産するようになる。つまり、知性は固定化し、固定化すると堕落するのです。  トマ・ピケティの『 21 世紀の資本』( Le Capital au XXIe siècle)が日本でも評判となりましたが、この本が突きつけた問題も同じです。金持ちは金持ちを再生産する。上流階級は良い教育を受けて、その子どももまた良い学校に入る。すると、彼らもまた良い仕事について、良い収入を手にする。逆にそうでない者は、いつまでもチャンスがなくて浮かび上がれない。  こういう階級の固定化に腹を立てているのが、現在のアメリカなの

    いつもそのたびに候補者から福音派の願いを 叶えてくれるかのようなリップサービスを受けながら、候補者が当選し、いざ政権を担当する段になると、ほとんど恩恵はなく、裏切られてばかりでした。  そんな彼らからすると、トランプは、確かに下品で乱暴ですが、心の内にあることと口から出てくる言葉が 甚だしく違っているということがない。それは政治家としてはまずいけれども、福音派から見ると、彼こそ「正直な人間だ」ということになるわけ

    もしアメリカがこれまで「偉大」だったとしたら、それは国内だけでなく世界中に正義や人権や民主主義を普及するといった目的理念を掲げていたからです。その姿勢は、いつも独善的ではた迷惑だったかもしれません。 高邁 な理念の下には、 怜悧 な国益の計算もまた 潜んでいたことでしょう。  しかしそれでも、こうした大義名分があってこそ、アメリカのパワーとヘゲモニー(覇権)は曲がりなりにも国際的な認証を受けてきたのです。アメリカを「偉大」にしてきたのは、経済力や軍事力だけではない。それによって何を達成しようとしているのか、という目的の正統性でし

    次章で詳しく考察するポピュリズムは、陰謀論と非常に相性がいい。アメリカは、ポピュリズム発祥の地でもあり

    ポピュリズムのもつ熱情は、本質的には宗教的な熱情と同根

    政治とは本来、妥協と調整の世界です。一方的な善の体現者もいなければ、一方的な悪の体現者もいませ

    だからポピュリストの発言は、妥協を許さない「あれかこれか」の原理主義へと転化しやすいのです。   市井 の人びともこれを歓迎します。善悪二元論的な世界理解は、日頃抱いている不満や怒りを、たとえ争点とは事実上無関係であっても、そこに集約させてぶつけることができるから

    つまり多数者といっても、全体ではなくあくまでも部分にすぎないのです。そして統治者もまた、全国民の代弁者ではありません。  部分が全体を僭称するとき、正統性は内側から 蝕まれてしまいます。そしてこの構図は、宗教において正統から異端が生ずるプロセスとまったく同じです。このことは終章でくわしくお話ししましょ

    アメリカは、過去も現在も、一貫して「アメリカ・ファースト」だし、日本も一貫して「日本ファースト」です。たとえ他国への恩恵を強調して見せるとしても、その裏にはしたたかな国益の計算があり

    一般に、「正統」というと、折目正しくきちんとしていて厳格なイメージですが、歴史をふりかえると、じつは正統はいい加減で大雑把です。逆に、異端となるのは、知的にもすぐれており、道徳的にも立派な人びとばかりです。  第2章で説明した「チャーチ」と「セクト」の区別を思い出してください。正統は「チャーチ」です。いわば、誰でも入れる寛容で大きなテニス部のようなものです。それに対して、異端は「セクト」です。入会資格も厳しく、明確な目的をもった精鋭部隊です。正統は言うならばデフォルト(初期値)で、異端はそれに対するアンチテーゼ

    その先にあるのは、理念や目的を欠いた場当たり的なポピュリズムの支配です。会社で言えば、利益だけしか追求しないマネジメントということになるでしょ

    人は、金儲けのためだけに働いているのではありません。自分が社会の役に立っている。尊敬される意義のある仕事をしている。そういう意識をもっている人は、志気も高く熱心に働くことができ、結局は会社全体の評価も

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    2023年07月21日
  • 反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

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    いまを知るためには歴史を知る必要があるし、歴史を知るためにはその中で大きな役割を果たしてきた宗教について知ることが欠かせない。アメリカがなぜ「アメリカ」なのか、本書を読んでようやく理解することができた。
    サンデー以降、現代につながる流れや、他国での思想についても学びたい。

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    2023年06月09日
  • 不寛容論―アメリカが生んだ「共存」の哲学―(新潮選書)

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    不寛容なしに寛容はあり得ない。
    自分が嫌悪する、許容できないものに対してどうするのか、という問いこそが寛容論。

    わかりあうことはできないが、わからないままに受け入れることはできる。

    ウィリアムズを切り口に寛容論について述べられた本。この内容でこの読みやすさはとてもよかった。
    内容としても、筆者が述べている通り、まさに今求められる考え方なのではないだろうか。

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    2023年03月07日
  • 不寛容論―アメリカが生んだ「共存」の哲学―(新潮選書)

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    不寛容なしに寛容はない と最初の方に出てくるが、「寛容」はこれに尽きる感じだ.アメリカへイギリスから移住したピューリタンが原住民と交渉しながら植民地を建設する過程で、「寛容」をどう取り扱うかを議論しているが、宗教の問題が基盤にあることは日本人には理解が難しいと思った.ロジャー・ウイリアムズに焦点を当てて「寛容」の問題を解説しているが、彼の頑なさはある程度理解できると感じた.契約を結ぶこと、宣誓をすることなど、現代社会にも通用することが17世紀のニューイングランドでなされていたことに驚いた.

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    2022年12月16日
  • 反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

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    アメリカの反知性主義について書かれた本。
    社会的病理・ポピュリズム・ナショナリズム等で象徴的なキーワードとして聞いたことがあったが、その根底にあるアメリカ独自のキリスト教思想や歴史について記載されていて、非常に面白く興味深い内容だった。

    ■アメリカはもともと中世の無い社会、王様のいなかった社会だった歴史から、知識層が大きな力をもってきた。それに対抗するものが反知性主義。
    ■アメリカではキリスト教が独自の解釈で広まった。神との契約とは、神からの無償の慈悲を指すモノから、自らもしっかり信仰しないといけないという考えに変わる。これが信仰復興運動につながる。
    ■アメリカキリスト教の副産物として、極端に平等を求める思考がある。信仰復興運動と相まって強烈な反インテリにつながる。インテリなだけでは大統領になれない。

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    2022年11月07日
  • 反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

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    ネタバレ

    "知性にせよ信仰にせよ、旧来の権威と結びついた形態は、すべて批判され打破されねばならない。なぜなら、そうすることでのみ、新しい時代にふさわしい知性や信仰が生まれるからである。その相手は、ヨーロッパであったり、既成教会であったり、大学や神学部や政府であったりする。反知性主義の本質は、このような宗教的使命に裏打ちされた「反権威主義」である。 (p.140)"

     現代日本において反知性主義と言えば、"最近の若者は本を読まなくなったとか、テレビの低俗な娯楽番組で国民の頭脳が毒されているとか、大学はレジャーランド化して単なる就職予備校に成り下がったとか(p.3)"といったネガティブな事例、あるいは社会に蔓延するナショナリズムやポピュリズムを指す言葉となっている。しかし、この用語が生まれたアメリカでは、元々もっとポジティブな意味を与えられていた言葉だった。それは、「反-知性」主義というよりも寧ろ反-「知性主義」と括るべきもので、"知性と権力の固定的な結びつきに対する反感(p.262)"を原動力とする。
    "大家のもつ旧来の知や権威への反逆であって、その反逆により新たな知の可能性を拓く力ともなる。反知性主義は、知性の発展にも重要な役割を果たすのである。(p.237)"
    そして、アメリカの反知性主義は決して最近になって突然現れたわけではなく、キリスト教を背景としてその社会に深く根差している。本書では、建国以来の「アメリカのキリスト教」史を振り返り、反知性主義という大きな流れがどのように発展していったかを非常に分かりやすく解説している。

     結論を先に言えば、アメリカの反知性主義の根底にあるのは、既成教会に対する反発から生まれた宗教的な平等主義と、真面目な努力には神が必ず祝福を与えてくれるという道徳観念である。
     前者は、入植当時のニューイングランドにおけるピューリタン社会が高度に知性的な社会だったという事実が前提としてある。歴史的に見て、当時のニューイングランドは人口当たりの大学卒業者の割合が異常に高かったという。また、プロテスタント教会は一般信徒にも聖書を読むことを奨励するので、日曜日の礼拝は聖書の内容を牧師が解説する難解なものだった。元々、ピューリタニズムは、教会の純化を求める革新運動として始まった。だが、"旧世界では既存の体制を批判する人びとであったが、新世界ではみずからが体制を建設しこれを担ってゆく側にある。(p.63)" 極端な知性主義は、反動として「信仰復興運動(リバイバル)=宗教心の急速かつヒステリックな高揚が広がっていく現象」を引き起こすことになった。その担い手は巡回説教師であったが、彼らは大学で神学を勉強したわけでもなく、"みずからの信仰的確信だけを頼りに、ある日どこからともなく町にやってきては、人びとを集めて怪しげな説教をして回る(p.83)"のである。当然町の牧師たちは彼らを批判するが、人気は衰えない。彼らの説教が抜群に「面白い」からだ。
    "それまで人びとが聞いてきた説教といえば、大学出のインテリ先生が、二時間にわたって滔々と語り続ける難解な教理の陳述である。それに比べて、リバイバリストの説教は、言葉も平明でわかりやすく、大胆な身振り手振りを使って、身近な話題から巧みに語り出す。既成教会の牧師たちがいくら警告を発しても、信徒がどうしてもそちらになびいてしまうのも無理はない(p.83)"
    この信仰復興運動は、徹底した平等理念に繋がっていく。つまり、一人ひとりがそれぞれ心に抱いた信仰の確信こそが正しく、インテリ牧師の、学術的に裏付けされているとしても何だか小難しい話より尊重されるべきものだという考えである。
    "アメリカ人の心に通奏低音のように流れる反権威志向は、このようなところから養分を得て根を張っている。彼らは自分で聖書を読み、自分でそれを解釈して信仰の確信を得る。その確信は直接神から与えられたのだから、教会の本部や本職の牧師がそれと異なることを教えても、そんな権威を怖れることはない。よく言えば、これが個々人の自尊心を高め、アメリカの民主主義的な精神の基盤を形成することになるのだが、悪くすると、それはまことに独善的で自己中心的な世界観に立て籠もる人びとを作ってしまう。(p.151)"
     後者は、神学的に言えば、神と人間との間に結ばれた契約において、双方がお互いに履行すべき義務を負っている("対等なギブアンドテイクの互恵関係(p.23)")という側面を強調していることになる(このような契約理解は、建国期に活躍したピューリタン指導者ジョン・ウィンステップが語った説教の中に既にその片鱗を垣間見ることができるという)。現状がどんなにどん底であっても、回心して真面目に生きれば神からの祝福を得るという福音のメッセージは、確かに救いである。だが、「努力すれば報われる」という道徳が、「報われたのは自分が努力したからだ、正しかったからだ」(ヴェーバーはこれを「幸福の神義論」と呼んだ)という自己正当化に転換するのは容易だ。特に、時代が進んでリバイバルが産業化・娯楽化していくにつれてこの傾向が顕著になっていく。つまり、宗教と現世的な利益・実利志向のビジネス精神が結びついたのである。リバイバル集会は自己啓発に近いものとなり、"宗教的訓練はビジネスの手段(p.267)"と化す。二十世紀初頭の大衆伝道家ビリー・サンデーに対する筆者の心理分析を、少し長いが引用する。
    "つまり彼は、世間的に成功することで、自分が大きく道を踏み外してはいない、ということを実感したいのである。(略)世俗的成功は、それ自体が目標なのではなく、自分の生き方の正しさを計るバロメーターとなった。彼にとって、信仰とはすなわち道徳的な正しさであり、世俗的な成功をもたらすものである。だから、もし自分が世俗的に成功しているならば、それは神の祝福を得ていることの徴なのである。
     彼が長老派教会の牧師として正規に任職されることを求めたのも、ことさらに奢侈でおしゃれな服装を好んだのも、そして臆面もなく集会の人数や献金の多さを誇ったのも、みなこの同じ論理に基づいている。何ともわかりやすい感覚であるが、あまりに直接的で、何かしらもの悲しいところがある。(略)
     癒しがたい空洞を内心に抱えているからこそ、外面ではどこまでも自分を膨らませてゆく。それがこの時代のアメリカの特徴であり、ビリー・サンデーという個性の特徴でもあった。サンデーは、まさに時代の子である。(p.244)"
     サンデー以降の反知性主義は、その大衆的な成功のために「権威化」していくという矛盾に陥り、元来の反権威的性質を次第に失っていくことになる。

     最後に、現代日本の反知性主義について考えたことを書いて終わる。筆者はあとがきで、
    "強力な知性主義がなければ、それに対抗する反知性主義も生まれず、逆に強力な反知性主義がなければ、知性主義も錬磨されることがない。(p.272)"
    と書いているが、まさにその通りだと思う。日本では思想の伝統化が終ぞ行われることがなかった、と述べたのは丸山眞男である(『日本の思想』)。これを彼は神道の「無限抱擁性」に起因するものだと分析したが、この無限抱擁性のためにキリスト教やマルクス主義のようなその下に概念を整序することを内面的に強制する思想に対しては不寛容であり続けた(相対主義が、それ自体を相対化する視点を決して許さないように)。ともかく、現代日本に蔓延る反知性主義が、アメリカにあったような創造的な「反権威主義」ではなく、単なる大衆迎合と拝金主義であるとしても怪しむに足りない。例えば、所謂「成功者」の言動を批判する人に対して「お前も成功してからモノを言え」といった物言いがなされるのを時折目にするが、これはまさに上述の「世俗的な成功」=「正しさ」という図式に当てはまるだろう。ただ、そこには宗教的意味合いはまったくなく、金の多寡があるだけだが。「成功者」の言うことに聞くべきものが皆無だとはもちろん思わないけれど、彼らの発言を何でもかんでも有り難がるのは危ういと感じる。きっと、「成功」が全面化した価値観にとっては、実際には「成功」するための手段にはどこまで行っても正解が存在しないという事実の為により一層、「成功者」の示す「正解」が生活のあらゆる場面で正しいのだという、ある種の道徳に至るのではないかと想像する。

    はじめに
    プロローグ
    第一章 ハーバード大学 反知性主義の前提
    極端な知性主義 ピューリタンの生活ぶり
    第二章 信仰復興運動 反知性主義の原点
    宗教的熱狂の伝統 「神の行商人」 反知性主義の原点
    第三章 反知性主義を育む平等の理念
    アメリカの不平等 宗教改革左派とセクト主義 宗教勢力と政治勢力の結合
    第四章 アメリカ的な自然と知性の融合
    釣りと宗教 「理性の詩人」と「森の賢者」
    第五章 反知性主義と大衆リバイバリズム
    第二次信仰復興運動 反知性主義のヒーロー リバイバルのテクニック
    第六章 反知性主義のもう一つのエンジン
    巨大産業化するリバイバル 信仰とビジネスの融合 宗教の娯楽化
    第七章 「ハーバード主義」をぶっとばせ
    反知性主義の完成 知性の平等な国アメリカ アメリカ史を貫く成功の倫理
    エピローグ
    あとがき

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    2023年01月21日
  • 反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

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    アメリカの反知性主義について分かりやすく書かれた1冊。キリスト教の流入から端を欲し、平等な社会であるアメリカだからこそ、知性と権力に反したリバイバルが反知性主義につながる過程が分かりやすく書かれている。

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    2022年04月10日
  • 不寛容論―アメリカが生んだ「共存」の哲学―(新潮選書)

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    入国審査書面の契約ひとつとっても、何故そのような項目が設けられているのかという歴史的背景を知ると納得が出来る。他者と暮らすとは何かを考えるきっかけとなる。

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    2021年07月13日
  • 不寛容論―アメリカが生んだ「共存」の哲学―(新潮選書)

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    近代や現代の寛容論ではなく、その源流とも言える中世の寛容論を下敷きに、米国建設前(植民地時代)の人物でもあるロジャーウィリアムズに焦点をあて、彼にとって寛容が如何なるものだったのかを中心に論じている。
    彼が重んじた「礼節」について、「マナー」に通じるところがあると感じつつも、「マナー」よりもより深層にあるような、所作や心情の向け方まで表したものであるように感じた。

    ウィリアムズみたいなちょっとおかしな(褒め言葉のつもり)人達が社会から少しずつはみ出ることで、漸進的に社会が変わってきたのだと感じる。もちろん、そういうおかしな人たちを下支えしてきた他者や社会があってのことだけれど。

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    2021年02月06日
  • 異端の時代 正統のかたちを求めて

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    正統と異端に関して、カトリックをベースに社会現象も含めた議論は非常に難しかったが、基本的な考え方に関して多くの切り口を備えておくことの重要性を再認識させられた.キリスト教を基に議論が展開されていたが、仏教の話も出てきて著者の目のつけ方の深さを実感した.宗教的な、特にカトリックでいう「正典」「教義」「職制」の議論は正典である聖書の成立過程を追うことで正統との関連性を解き明かしてくれた感じだ.異端がでてくるから正統が確立していくという、やや矛盾した論理は最後に述べられた次の文に集約されるのではなかろうか."日本に真正の異端が生まれ、その中から腹の据わった正統が生まれることを願いつつ、筆を擱く."

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    2021年01月15日
  • シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理

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    『反知性主義』と『異端の時代』のエッセンスを凝縮した講義録。ポピュリズムの視点からみたトランプ、オバマ、サンダーズの共通性など、挙げられている事例も興味を惹く。森本氏の議論に関心のある人は、まずはこの本から手に取るのがよいと思う。

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    2020年12月23日
  • 異端の時代 正統のかたちを求めて

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    トニ・モリスン「他者の起源」の日本語版序文の解説を読み、著者に興味が湧いたので読んでみた。

    著者のフィールドであるキリスト教史において「正統・異端」がどのように生まれ、機能しているかから始まり、ゆくゆくは現代のアメリカや社会を覆う正統なき異端の時代を、見事に読み解いている。

    「正統・異端」という宗教性を持った構図は宗教(キリスト教やイスラム教)に限定されず広く社会全体の仕組みに根差していると前置きをした上で、私たちが盲目的に信じている正統や権威を成り立たせているのは、キリスト教でいう教会や聖書(正典)にあるのではなく、背景にある信憑性構造(どこでも、いつでも、誰にでも信じられている、かのように思えるもの)であり、おおまかな限定性を持つものだからこそ、対比として明確な異端との対立構造を持っている、というのは非常に興味深かった。

    2020年11月現在、アメリカ大統領選挙では正統たりえないトランプをバイデンが僅差の末に下したが、「反対派に投じた人も含めアメリカの代表となる」と発言したバイデンに対して、アメリカにおける正統とみなされているものはわずかであるが変わりつつあるのだろうか(現在の選挙制度に対しての疑義も投げかけられている)。

    そんな中日本では何故かトランプ待望論が続いているというおかしな状況だが、著者曰く「日本ではあるべき異端は生まれず、全て政治的な問題になってしまっている」と評されている中、待望されている異端は生まれてくるのだろうか。

    抽象的な表現や固有名詞が多数出てくるので容易には読めなかったが、非常に刺激を得れたので、時折読み返したい。

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    2020年11月17日
  • 異端の時代 正統のかたちを求めて

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    丸山眞男による「L正統」と「O正統」の定義をやんわり否定し、そもそも正統と異端が何であるかを論じている。丸山の定義に説得力を感じていた、自分の浅さを恥じた。

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    2020年11月18日
  • 異端の時代 正統のかたちを求めて

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    基本的にキリスト教を中心に論を進めるが、「異端たるためには、正統に取って代わるだけの信念、気概が必要」との指摘は鋭い。

    正典、教義は正統から派生するもので、正典から正統は生まれないというのも考えればその通りで、プロテスタントの基盤はむしろ危うい。諸派、原理主義が生まれるのもやむ無しと思える。

    いろいろな点で勉強になった。

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    2018年12月28日
  • 異端の時代 正統のかたちを求めて

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    キリスト教の歴史に範を求めながら、現代社会が陥っている信頼性、宗教性の喪失をえぐる。

    個人主義の宗教化という、エマソン、ソロー、ジェイムズの系譜が白眉だが、あまりにその指摘が的確で戦慄する。

    組織に、現代に、社会に生きる人間として、非情に示唆に富んでいた。

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    2018年10月11日
  • シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理

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    アメリカにおける政治と宗教、それから社会について、建国まで遡って解説した本。途中、アメリカ社会は自由意思を尊重し、その延長で意志の力を過信する傾向があるとの指摘があるが、これは「為せば成る」の日本と通じるものがあるのではないか?

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    2018年02月04日