村上靖彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
著者の言っていることには基本的に賛成だし立場も似ている気がするけれども、一冊の本としては、だいぶとっ散らかっている感じがする。たしかに書かれている内容は『客観性の落とし穴』なのだ。その穴に落ち続けると、どこに行き着いてしまうのかが書いてあるのだ。だけど、このオビだと、ひろゆきのような冷笑系の人々の煽りに対する返答が直接的に書いてあるのかと思ってしまい、それにしては随分遠回りだなあ、という読後感になってしまう。著者が研究する際の方法論である現象学やインタビューのススメみたいにも読めてしまう。オビが読み手をミスリードしている気がする。わたしだけミスリードされてるのかもしれないけど。
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Posted by ブクログ
ネタバレ『客観性の落とし穴』を読んで、客観的なデータや合理性ばかりを重視する社会が、少数派や弱い立場の人の実情を見落としやすいという指摘には納得できた。効率や数字を優先するあまり、人の個別の事情や感情が軽視されるリスクは現代社会の課題だと思う。
ただ、著者が強調する「一人ひとりの語りに耳を傾ける」ことは理想的ではあるが、現実的には時間や資源の制約もあり、全ての声を平等に拾うのは難しいという印象も受けた。現場の実情を考えると、なかなか実践が難しい部分もある。
だからこそ、客観的なデータや制度の整備と、個々の声を尊重する姿勢とのバランスをどう取るかが重要になる。この本は、「客観性」という言葉の裏にある -
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「客観性」。もはや神格化されていると言っても過言ではないこの言葉に警鐘を鳴らす1冊。
ものごとをどこまでも客観的に見ていくと、それは全て数値化・データ化されてしまう。
例えば、スギの木は花粉症の原因となりうる植物であるが、その花粉が原因で鼻がムズムズしたり目が痒くなったりなどの人間の「経験のダイナミズム」は、客観的に見れば無駄である、とされてしまうのだ。
そういった、「経験のダイナミズム」の重要性を今一度説き、昨今社会が抱えている問題解決の糸口を見つけていく。
正直、終盤の筆者の意見はなかなか理想論で実現は難しいと思ったが、面白い内容ではあった。 -
Posted by ブクログ
本書は
前半-客観性と序列化について
後半-客観性の対照となる個人の経験について
書かれているのだが、前半の客観性と序列化についての経緯や問題点には、大いに興味があり、納得できる部分も多かった。
科学によって、自然や人間でさえも数値化されてしまい、『正しい』とされることからズレることの難しさや、序列化による優劣の社会的な常識の息苦しさは感じるところがある。
後半の客観から排除された「個人の経験」に注目することについては、納得は出来るが現実的に人間の認知領域の限界により難しいのではないかと感じた。
ただ客観性が真理ではない、という考えは非常に重要であり、一人ひとりが客観性やエビデンスがあ -
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村上靖彦(1970年~)氏は、東大教養学部卒、同大学院総合文化研究科博士後期課程満期退学、基礎精神病理学・精神分析学博士(パリ第7大学)取得、日大国際関係学部助教授・准教授、阪大人間科学研究科准教授を経て、同教授。精神分析学・現象学者。
本書は、2024年の新書大賞第3位を獲得。
本書の帯には、「「数字で示してもらえますか」、「それって個人の感覚ですよね」、「その考えは客観的なものですか」、「エビデンスはあるんですか」 この考え方のどこが問題なのか?」と書かれており、私も、それに大いに興味を引かれて手に取った。
が、通読して、正直なところ少々期待外れであった。
本書の構成は、前半で、客観性・数 -
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統計や平均という科学的観点だけでは抜け漏れがある
個人の経験、体験といった個別性を消してはいけない、といった論旨
著者は貧困、子育て、ケアなどの現場に従事しているため特に個別性の重要度を感じるのだろう
この様な現場以外にも社会的な切り捨てを防ぐには個別性への配慮は必要ではある
しかしながら、世の論調は理想だけを打ち出したインクルーシブという思想の提示だけであり、それを実現するための手段や環境構築は個人や企業に委ねるのみという無責任
私見としては個別性への配慮は、現代資本主義の環境下では実現し難い
即効性ばかりを求める社会構造では、相応の時間を要する個への対応は致しかねる
(タイパを重視する若年