倉田タカシのレビュー一覧
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ネタバレほんタメで紹介されていたので、読んでみた(もちろんあかりん帯のものを購入)。
最初は「なんだこれ?」という感想だったが、五通目の手紙を読んでこの小説の面白さに気づいた。まさかあの蟹頭がこの物語の主要メンバーに入るとは……。でも、ある物があるところでは人気者になっていて、あるところでは忌むべき存在とされていて、さらにあるところでは言ってはいけない言葉として扱われているなんて、結構あることなのかもしれない。
「旅をして地図上のまったく同じ地点に立っても、見える景色はまったくちがったもので、それぞれの眺めは厳密なところ、まったく同じ景色として共有することは不可能なんです。(…)ただ逆を言えば、私が見た景色は当然間違いではないし、だれに何も文句を言われることはない、とも考えられるんですよね。これは不安なことでもあり、また同時に心強いことでもあります。」(262〜263ページ)
景色を見た時に「すごーい」「感動した」という感想が出がちだけど、その感情になる背景は一人一人違うんだな、と。だからこそ表面的な感想だけじゃなく、景色を通して自分の深いところに問いかけをして出てきた言葉に耳を傾けたい(自分探しの旅ってこういうこと?)。
多分この小説を読んで思い描いた風景だって一人一人違うんだろうな。
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東京創元社が、社名の「創元=GENESIS」を冠して二〇一八年に刊行したSF書き下ろしアンソロジー第一集。各作品の前に編者による洒脱な紹介コメントも寄せられていて、「日本の現代SF小説界、作家も出版社も一丸となってこんなメンツで盛り立てていきますぜ」という顔見世興行的な気合いの入りようが感じられる。今のところ二〇二一年の第四集まで毎年刊行が続いているようだ。
SFに限らず同時代の作家の好きと思える小説に出会えることには、古典名作を楽しむのとはまた違う喜びがある。創元さんの四年前のお薦め、彩り豊かで「ぜんぶ好き」とはいかないが、これだけいろいろ並べて出してくれたことにありがとうという気持ち。
以下、備忘メモ。
■久永実木彦『一万年の午後』
聖典(ドキュメント)に従い「特別」を作らないことにこだわるマ・フたち。マ・フとは、人類が遺した人類そっくりなロボット。
■高山羽根子『ビースト・ストランディング』
ちょっとよくわからなかったけど、木綿が人類を救った?(違)
■宮内悠介『ホテル・アースポート』
やっと読みやすいのがきた。SFなのにミステリー。弦楽器や香水もいい味出してる。
■秋永真琴『ブラッド・ナイト・ノワール』
王族とかヴァンパイアとか、ラノベっぽい。でも嫌いじゃない。好みが似てたのか(眼鏡とか)。片仮名タイトルが続くなあ。
■松崎有理『イヴの末裔たちの明日』
ここまででいちばん好き、王道の、すぐそこの近未来らしさ。AIに次々と仕事が奪われる時代、「人間にできる仕事」というキーワードで求人検索する主人公の姿が、なかなか笑えない。
■倉田タカシ『生首』
不条理もの。夢みたいな目まぐるしい混沌。意味はわからないけど不思議に好き。
■宮澤伊織『草原のサンタ・ムエルテ』
(未読)「本格的近未来アクションSF」とのことだが、私の頭にはぜんぜん入ってこなくてギブアップ。みんな大好きらしいガンダムが私にはぜんぜん見られない感覚と似ているが、この作品がガンダムと似てるかどうかは知らない。
■堀晃『10月2日を過ぎても』
トリは大御所らしい。しかも大阪SFというジャンル?らしい。高齢者ばかりになったマンションの理事をしてる設定もリアル。でもちょっと受け止めきれなかった。 -
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2018年末に刊行された新しめの日本SFアンソロジー。短編8編+エッセイ2編が収録されています。
アンソロジーを読むこと自体、ちょっと良い(と見込んだ)食事処にぷらっと入って「おまかせコース」を頼むようなもので、満足したい気持ちと、意外なものを味わいたい気持ちが同居していると思います。
個人的には両ポイントともにちょうど良い感じの1冊でした。編集者の匙加減の素晴らしさもあるんでしょうが、SFというジャンルの中での振れ幅もなかなか心地良かったと感じました。
(正統派SFもありつつ、一見ファンタジーでは?日記では?となる作品や、突き抜けたシュールさの作品があって、色彩豊かでした)
1編挙げるとすると、個人的には「イヴの末裔たちの明日」が面白かったです。AIに仕事を奪われ、ベーシックインカムで養ってもらう世界を舞台に、「これから人間にできるのは新薬治験くらい」というネットの書き込みを見て治験ボランティアを始めた主人公は…という話。
結末を読んで、こういう世界は本当にあり得るよなぁ…と思いました。でもそれはユートピアなのかディストピアなのか、正直悩んでしまいます。
あと、個人的に短編を読むときに気にしているのが、どれだけ早くその短編の世界を理解できるか、です。
別に早い方が良い訳ではなく(遅すぎると短編だと終わってしまいますが…)、書き出しに個性が出ると言うか。割り切って説明調で書くケースもあれば、最初に象徴的なパーツを掘り下げて書くケースも。
本著を読んで感じたのは、前者のような親切かつクイックな、ある意味ラノベ的な書き出しもアリだなぁというコト。時代に合わせた変化なのでしょうか。
各短編それぞれの個性が組み合わさった、面白いコース料理でした。
次巻も読んでいきたい、出版元の矜持を感じる作品集です。 -
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SF。短編集。エッセイもあり。
これは良い企画。5年、10年と続いてほしい。
久永実木彦「一万年の午後」
人類絶滅後のロボットたち。綺麗な文章が印象的。
高山羽根子「ビースト・ストランディング」
怪獣を持ち上げるスポーツ。相変わらず奇妙な設定が持ち味。好き。
宮内悠介「ホテル・アースポート」
SF設定でのミステリ。ミステリとしては小粒だと思うが、上手くまとまってる。舞台設定が良い。
秋永真琴「ブラッド・ナイト・ノワール」
吸血鬼&マフィアもの。ラノベやマンガぽさが強い。成田良悟『バッカーノ!』風な印象。好き。
松崎有理「イヴの末裔たちの明日」
近未来の技術的失業。リアルなテーマを、静かな文章でコミカルに描く。作者らしい。好き。
倉田タカシ「生首」
かなりの異色作。自分はついて行けなかった。
宮澤伊織「草原のサンタ・ムエルテ」
SFアクション。『裏世界ピクニック』のイメージが強いが、こんなのも書くのか…。
堀晃さんは、日記風ということでスルー。 -
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■個人的なメモ
[△]久永実木彦「一万年の午後」/ヒト絶滅後、一律なマ・フたち、聖典、宇宙の地図づくり、変化しないこと。
[▽]高山羽根子「ビースト・ストランディング」/ビースト挙げ競技、旧野球場。
[○]宮内悠介「ホテル・アースポート」/宇宙エレベーター、ホテル、殺人事件。
[△]加藤直之「SFと絵」/ゲーム「ディガンの魔石」以来ファンです。
[○]秋永真琴「ブラッド・ナイト・ノワール」/旧吸血鬼の「夜種」、人間は王族、ローマの休日、好みのキャラ、好みの設定、好みの会話。
[△]松崎有理「イヴの末裔たちの明日」/技術的失業、AI、ロボット、ベーシックインカム、治験、星新一さんっぽいオチ。
[△]吉田隆一「SFと音楽」/音楽SF案内。
[▽]倉田タカシ「生首」/生首落とし、半世紀ほど前の前衛的小説のようなレトロ感。
[△]宮澤伊織「草原のサンタ・ムエルテ」/異星人憑依型スーパーガール、戦闘サイボーグ部隊、死の概念。
[▽]堀晃「10月2日を過ぎても」/大阪市内中を自転車で走っているので馴染みの地名や風景ばかりですが・・・ -
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高山羽根子、酉島伝法、倉田タカシの三人の作家が、架空の国を旅しながら(どうやってかはともかく)手紙を送り合うという設定の「旅書簡集」。そして巻末エッセイ(あとがきのようなもの)は宮内悠介。お、東京創元社のSFアンソロジーシリーズ『GENESIS』で見かけるような作家たちだぞ、と思って手に取った。
読んでみると、GENESISを読むときに似た幻想浮遊感に見舞われる。そして、時折り「わかる」地平に降り立つのだが、そこもどこかしらなにかしらずれている。私が「わかる」と思っていることなんて世界の中のほんの一部なのだなあなどと思っていると、突然、人生哲学とか人間の本質みたいなことを考えさせるようなフレーズが、あったりなかったりして驚かされる。そしてそれよりなにより、この三人の三つの旅が、意外な形でつながりを見せてきたりこなかったりする様に目が離せなくなり、個々の旅の世界を楽しみながらも、いったいこの大きな物語の終着点はどこなのか、それを見届けたいという思いが否応なく高まっていった。
と同時に、現実問題、こんな付かず離れずが絶妙な合作本はいったいどうやったら作れるのだろう?この三人の関係性は?出版社が仕掛けて三人集めて「よろしくお願いします」でできるものなのかな?といった制作の裏側への興味もわいてくる。それへの答えは、ひとつは奥付け手前の「本書は〜を元に〜」といった説明文にもちろんあるのだが、そういった事実関係の説明とは異なる“階層”での述懐が宮内さんの巻末エッセイにあり、これがまた良かった。私が映画監督だったら、この巻末エッセイを含めた本書全体を映画化したい。
以下、自分用断片備忘メモ。
・ほふりの村。祝祭感。(倉)
・着水した飛行機。ハリウッド映画味もほんのりありつつ、おかしさと、得体の知れなさと。(倉)
・島々の話。UVクリーム騒動の顛末に笑い、“満潮娘”とのひとときに癒される。(高)
・川が分かつ街。こちらとあちらに分かれていて、いろいろと暗喩的。美術館がある。(倉)
・雨とカーフューの街。「行政手続きが電子化されてAIが全般的に判断を行うようになったときに入り込んだバグが・・・」というようなSFらしい話が。(倉)
・変な通貨の国。“踊り”が通貨。(高)
・鳥の村。よそ者である自分の魂がそれに完全に乗り移るまで、案山子になり続けるという地元の儀式に参加。(酉)←酉島さんの旅は、敢えてここまで個々に挙げなかったが基本過酷なので、この程度のことはきっと大丈夫だろうと思うのだが、絵葉書に描かれた巨大案山子(その一部として生きている酉島さん自身を含む)の絵は胸に迫るものがある。