春夏冬ゆうのレビュー一覧
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うわーめっちゃよかった。
これぞ僕の好きな杉井光だよ!
高校生の音楽と青春ということでもちろん「さよならピアノソナタ」を思い出したのだけど、最初のピアニストの凛子の話なんかもろ「ピアノソナタふたたび」だと思った。
そのまま彼女がヒロインになるのかなと思っていたら、次はドラマーの詩月でその次はヴォーカルの朱音と、一人だけじゃないんだ! と驚いてしまった(笑)
でも、みんなそれぞれに抱える悩みを主人公が次々に音楽の力で突き破っていく様は、どれもこれもグッとくる。
挙句の果てには音楽教師の美沙緒の想いさえ掬い上げるとは!
ラストの電光掲示板に写る奇跡の瞬間はほんと泣きそうになった。
杉井光らしい怒涛のような音楽の表現も、相変らずボケと突っ込みの楽しい会話漫才も、久々に杉井光を満喫した気分。
楽しかったあ! -
Posted by ブクログ
この表紙、前面に居る伽耶に注目してしまうけど、よくよく見たら後ろの真琴ってメイド服姿?女装をメインに扱う作品でもないのに、女装姿の主人公が4度も表紙を飾るって本当にみょうちきりんな話だと思いますよ?
音楽要素をメインにした作品で『竹取物語』なんて今年公開された某作品を想起してしまうけど、本作は『竹取物語』を全く別の切り口から扱って見せたね
現状、PNOはアルバム制作に取り掛かっているけど、制作途中の音作りに現れていたようにPNOの終わりは既に予見されている。いずれ訪れる滅びを緩やかに待っているような状態。それは喩えればかぐや姫が月に戻る自分の運命を知った上で地上での日々を過ごしていたような
そうした喩えを真琴に当て嵌めた時、残る時間を真琴はどう過ごすのか、という点が主題に上がって来たような
それだけに真琴の日々を穢すかのように、PNOへと暴走したファンや記者が群がり、懸念した学校側がPNOの活動に口出ししてくるのは真琴にとって面倒な展開
真琴って途轍もない音楽バカだから音楽にかまけていられればそれで人生満足できそうなタイプ。逆に言えば、音楽以外のストレスが圧し掛かっていると途端に人間力が下がってしまうタイプでもある。そんな彼にとって明確に音楽活動を禁じられているわけではないが、学校関係者がバンド活動に控えめだけれどしつこく注文を付けてくる状況は面倒となるわけだ
作中でも言及されているけど、真琴が高校に通い続ける理由ってかなり希薄になっているんだよね。音楽関係では既に幾つも仕事をしているし、音楽バカだから音楽漬けの毎日となった方がコンディションは上がるだろうし、学校で親しい者なんてそれこそバンドメンバーしか居ない。そして大学へ進学する気は無いから学業に注力する理由がない
彼は早くもモラトリアムに突入している。それも何をすればいいか判らないというモラトリアムではなく、進む道が決まっているのに決断を先送りにするモラトリアム
真琴がそうした状況に陥っている為に、似た状況と言えなくもない伽耶が2学期になってから友達を作る展開は意外性があるね
伽耶って真琴程では無いにしろ、ある程度自分がどのような道を進みたいかはっきりしていて、既に芸能業にも就いている。まあ、芸能業だから学業を続ける利点は真琴よりもあるのだろうけど、学校生活へ必要以上に注力しなくても良い立場かもしれない
そんな伽耶が今更になって友達作りに成功して、おまけに友達・悠麻子の依頼により文化祭で活躍の場を得られるなんてなかなか無い経験
伽耶に朗読させるというのだから、てっきり悠麻子は伽耶をイメージして作劇したのかと思いきや、むしろ真琴をイメージしたのではないかと思わせるのは面白いね。勿論、真琴の苦悩とかぐや姫の苦悩が奇妙な形でリンクしているからそう見えているだけではあるのだけど
ただ、前半部と後半部を異なるイメージで悠麻子が作った可能性はあるんだよね。悠麻子は前半部を書き上げた後、PNOに見せて反応を求めた。自分の物語がPNOにどう響くかという点を見たかったのだろうけど、反応を貰ってもすぐには後半部を書き上げられなかった
前半部にてかぐや姫が自分の行動目標として提示したのは夫の獲得と水の運搬。後者は兎も角、前者は可能だがそれを得てしまうと『竹取物語』ではなくなってしまう。その意味ではかぐや姫はそもそも手に入らないものを求めていたと言える
後半部になって新たに現れる要素として音楽が挙げられるね。音楽関係者に作品の反応を求めていた悠麻子が後半部を書き上げる為に最も欲したのは何か?といえば、真琴と離れて活動する凛子達の様子だったのではないかと勘繰ってしまう
レコーディングシーンにて言及があるように、いつだって高クオリティな演奏を繰り広げる凛子達だけど、真琴が関わらず、真琴に見て貰える余地が無い局面ではパフォーマンスが落ちるとの事で
今回の朗読劇、本番は真琴に見て貰えるだろうとの期待があるからパフォーマンスは極端には落ちないだろうけど、彼女らの胸に渦巻くのは真琴がバンドや学校から去るのではないかという不安感か。前巻で十二分に示されたようにPNOはいずれ真琴が去る形で終わってしまう。かぐや姫がいずれ月に帰ってしまう物語に曲を付ける行為は彼女らに真琴が去る未来を想像させずには居られない。おまけに近頃の真琴が学校を辞めそうな雰囲気を醸し出しているなら尚の事
そうした感覚はきっと悠麻子が書く後半部に影響したのではないかと思えてしまう
『月の末姫の物語』の後半部、今巻の後半部、それらはどう終わるかと俎上に上がる展開。ラヴェルのエピソードだってそうだし、真琴が高校中退に誘惑され始めたのもそう。でも、そうした悩みにおいて本当の問題と成るのはどう終わるかよりも、どのように終わりの時を迎えるかなのでは無いかと思ってしまう。その点はそれぞれの文化祭の過ごし方に最も現れたような
真琴の姉は文化祭のノリを当時は嫌っていても今は人生に必要だったと述懐した。高校では生徒会を中心として無法ファンへの対処を行った。真琴を朗読劇の会場まで連れってくれた学生達が居た
言ってしまえば文化祭なんてたった1日で終わってしまうイベントだけど、生徒達は佳い終わり方が出来るよう全力で楽しんだ。でも、それは終わらせる為ではなく今を過ごすため。終わりを迎えるというより、終わらせない為の努力であるようにも思えてしまう
『月の末姫の物語』の終わり方は『竹取物語』と大枠で変わらない。かぐや姫は月に帰ってしまう。でも、かぐや姫にとっては帰った瞬間が終わりなのではなく、帰ってからも命尽きるまで戦い果てた後が終わり。彼女にはそれまで出来る何もかもがある
かぐや姫が唯一持ち帰り、最も必要な大切なものと称した竹笛こそが終わる瞬間までを豊かに過ごしつつも終わりに抗う最上の方法だったのかも知れない
だとしたら、文化祭や朗読劇を経て真琴が終わりへの向き合い方を変えたのは同様に今を豊かに過ごしたく成ったからかもしれないね
高校には様々な何もかもが在る。そこには出会いも別れも満ちている。最終的にPNOが崩壊してしまうとしても、その瞬間はきっと佳いものとして迎えられるのではないか?前巻まではPNOの終わりを悲壮に感じていたものだけど、この巻を通して少しだけ明るい終わりとして想像できるのではと思えましたよ -
Posted by ブクログ
ネタバレ表紙の女の子は誰だ、また新キャラ? とは思わなかった。
そう何度も何度も引っかかるものか。さすがに僕にだって学習能力はある。
肩・ヘソも露わな、デコルテラインの綺麗な子。でも、泳いだその眼と頬に浮かんだひとしずくの汗を、もう見逃すものか。
冒頭、“死”について思いをめぐらす不穏なシーンから始まったが、あとはいつもどおりのイチャメチャとツッコミ。
今作の主題はアルバム制作。そして、待望の水着回である。
ああ。第1巻で描かれたあの夏から、せっかく打ちそろった美少女たちが水着姿を披露することもなく一瞬のうちに過ぎ去ってしまったあの夏からようやく1年が経つのか、と感慨深く思ってしまった。
いやぁ、作中じゃ1年だけど刊行年でいえば5年ぶりの夏なんだから嘆息もつきたくなるでしょ。シリーズとしても約2年ぶりの刊行。
杉井センセが「世界でいちばん透きとおった物語」でスマッシュヒット飛ばして続編の注文もこなしてたものだから、本作がいつになったら出るのか、一般文芸に軸足を移してこっちは立ち消え打ち止めになるんじゃないかと気が気じゃなかった。
蓋を開けてみりゃ別作品も同時刊行という悪魔の企画のためにさらに延びてたらしい。新規営業もまあ必要なんだろうけど、既存のファンにもちゃんとエサください。
さて、本題(?)の水着シーンだが、もう、ハーレム最高!!
マコト君、いつもなら言葉で表現しろと言われると途端にしどろもどろになってまともに見れない喋れないのに、今回は冷静にきめ細かく(文字どおり肌理こまかく?)描写している。
まあ、ぜんぶ音楽経由なもんだから、それぞれの視点はエロいはずなのに、視線がまったくエロくないという絶妙さ。
健康的な水着姿の美少女たちを前に何を考えてんだぁっ! て、音楽のことしか考えてないんだよなぁ。
“賢者”ならぬ一読者としては、詩月が試着を考えてた残り4着の水着がいったいどんなモノだったのか、とってもとっても気になってます、はい。
物語中盤のスタジオレコーディングのシーンでは、プロのエンジニアの手を借りながら夢中になって音を録り重ねてゆく真琴が、大好きな玩具を与えられた子供のようで羨ましくもあり、またその後の“スタジオの魔法”があまりにも魅力的だった。
そして後半の音探し。
浜名湖周辺ということだから、ヤマハ(株)のイノベーションセンターがモデルなんだろう。
人から人へ、そしてすべての音を呑み込んでしまうその場所へ。
蒔田シュンが遺した音を求める巡礼にも似たその長くて短い旅は、冒頭のシーンとも呼応して、まるで心の奥底に眠る迷宮に深く潜ってゆくかのような不思議な感覚だった。
次は、あんまり間をあけずに「神曲プロデューサー」を読んでみたいと思っている。
もう12年も前に書かれた物語だが、昨年になって文庫化されていたことがわかった。これも「~透きとおった物語」効果だろうか。
蒔田シュンを主人公とした連作短編集で、海野リカコや窪井拓人とのエピソードが含まれているらしい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ久々の学園ノイズ。
いやあ相変わらず楽しい。のっけからボケツッコミが炸裂してそうそう作者の物語はやっぱりこれだよねと思った笑
今回はアニメで言うところの水着回なのだけど、嬉し恥ずかしの展開になるかと思いきや、さすがに音楽バカの真琴では何をやっていても音楽の話になっていくんだなあ。
今作を読んでて二つのことを強く思った。
一つはこれってがっつり神曲プロデューサーのエピソードだなあという事。蒔田さん(の影)は前から出て来ていたけれど、ヒロイン海野リカコも登場し、彼の遺した音をめぐるミステリー仕立てになっている。
作者のファンとしてはこういうの良いよね。
もちろんキョウコさんやチアキはさよならピアノソナタだし、作者の物語には同じ時空で繋がっているものがいくつもあって、さよならピアノソナタ、神様にメモ帳、神曲プロデューサー、そして学園ノイズ(あとなんなら楽聖少女も)。
別のお話の中で懐かしいキャラに会えるのは嬉しいものだ。学園ノイズは特にそう。この作品がさよならピアノソナタと神曲プロデューサーを繋いでいる。
もうひとつ思ったのは、もしかしたらこの巻が最終巻かもしれないなという感覚。
真琴はPNOの終わりを予感していて、もしそうならPNOの終わりが物語の終わりじゃないかなと思った。
そしてラストまで読んで、PNOの終わりではなかったけれど、でも、これで最終巻でも良いんじゃないかな?とちょっと思った。いや、もちろんまだまだ続いてくれるのは嬉しいんだけど。なんというかそろそろ作者も終わりに向けて話の準備を始めたように思った。
それにしても真琴は難儀な性格だよなあ。音楽に妥協がないのに、世間体を気にして悩んだりして、でも結局音楽のことに関しては人でなしなのだ。でもだからこそ音楽に関しては信頼できる。それでも真琴が音楽を裏切りそうになる瞬間に、伽耶が言う、そんなのは先輩じゃないです、と言う言葉はなんて強い言葉なんだろうと思う。なかなかひどいことを言ったりするんだけどでも真琴の本質を突いているんだよね。 -
Posted by ブクログ
ギター、ベース、ピアノ、ドラムを扱ったバンドもの(?)のライトノベル。ラブコメ要素もあり、ハーレム的な展開もところどころに見受けられた。
ただ、このラブコメ展開が個人的にはハマらなかった。主人公がヒロイン(のうちの1人)と出会って間もないのにやけに好かれていたり、主人公がその好意に鈍感だったりといったいかにもラノベっぽい展開が、個人的にはあんまりこの作品には合ってないように感じた。このテンプレ通りのような安易なラブコメ要素を取り入れるくらいなら、この作品ならではの音楽を通した人間関係を深掘りしていけばいいのにと思った。
その他の点に関しては、終盤暗い展開はあるものの、全体的には読みやすく、かつ作者のこだわりを感じる作品で楽しく読めた。続巻を買うかは検討中。
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Posted by ブクログ
原作における丁々発止のコメディトークを損なうこと無く、むしろ漫画ではパワーアップしているんじゃないかと思えるテンポ感の良い遣り取りは好印象
凛子も詩月も別にボケキャラという訳ではないのだけど、傍若無人な二人に対する真琴のツッコミが全編に亘って冴え渡るものだからどこまでも楽しんで読める
勿論、音楽表現も負けていないのだけど
今巻前半で主題となるのは詩月のエピソード
ドラムの才覚はあれど、家の都合により満足に音楽に注力できない。それに釣られて望まれる華道も微妙な出来映えになる
音楽バカである真琴としては詩月がドラムに関われない点を惜しいと思うが関わる踏ん切りもつかない
そこで凛子が有無を言わさず機会を作る流れは良いね。こういうシーンを見ると真琴の最良の相棒は凛子であると思えるよ
そのような二人が仕掛けた音楽劇だから詩月は音楽と華道を取り戻せたのかな
次に主題となるのは日常での居場所を無くし音楽を奏でられる場所を彷徨う朱音
原作を読んだ際はわんぱく犬のイメージが強かったのだけど、漫画版では中性的な魅力が増してカッコイイ系になっているような
見た目が目を引く彼女だけど、バンドの助っ人をする際は目立たぬ演奏に終始。スタイルの異なるバンドに対して背景に徹せられるならそれは実力の現れで
実力があるのに思うように音楽を楽しんでいない
そんな音楽不満足状態の少女に対して何をするかは次巻に続く感じか
結構じっくりと描いてくれていてファン的に満足できる構成だよ
あと、本コミカライズにて注目したくなるのはやはり各キャラクターの表情だろうね。小説媒体ではどうしたって限界があるそれぞれの見た目の表現、けれど絵で表現される漫画ならそこは余さず見えてくる
特に原作は真琴視点で進行するから真琴が見ているものしか描写されない。…まあ、彼は気付かないけど色々と見ているタイプだからそれなりに描写されていたりするけど
それでも7話ラストの表情はコミカライズならではと言えるのだろうね -
Posted by ブクログ
美沙緒が戻ってきて、伽耶も高校に入学、凛子達は真琴と同じクラス。バンドにはマネージャーも付いたし、拠点となる活動場所も確固たるものが手に入った
真琴にとって何もかも順調と言える状況。…だからこそ彼がヘタってしまうというのは面白い話
思えば真琴って逆境を好むと云うか、自分で状況を複雑怪奇且つ難題だらけの局面に持ち込むのが好きなような気がする。勿論本人としてはギリギリの状況を楽しんでいるなんて事はないのだろうけど、彼の本領が最も発揮される時がそういう局面である点を考えると、彼は安寧を手に入れてしまったが故に緩んでしまったのかも知れない
窪井拓斗からの依頼曲、邦本からの依頼曲。どちらもプロとしての依頼であるにはベストな楽曲を提供しなければならない。けれどそんなタイミングで緩みが生じてしまえば、そりゃ最良の楽曲なんて手掛けられるわけがなくて
状況打開の最初の一歩がちょっと驚きの方向性だったね。軽音部のプロデュースだなんて
バンドの楽曲でもなければ仕事の楽曲でもない。なら趣味曲といえばそうでもない。一度依頼されたとはいえ断った素人の案件、加えて他人事なのに無理して関わったからには良いものを作り上げなければならない。
その意味では自分を追い詰める遣り方。今の真琴が取るべき姿勢
そうして作り上げられただろう楽曲は是非とも聞いてみたいもの。作中で疑問視されたように安易に作ったらアイドル気取りっぽくなってしまう。でもバンドマンがバンドの楽曲としてハモるからこそ形になる
楽曲アレンジの完成度、そしてバンドのプロデュース方針。それらが合わさるから真琴が手掛けた軽音部への助力は形になるわけだ
それを踏まえると3・4話のエピソードは更に別方面のエンジンとなったのかな
普通に生きる事すらまだ難しい美沙緒、ピアノコンクールの世界を捨てた凛子。本気の世界と既に無縁になっていた筈の二人。それが美沙緒の決意のコンクール出場によって戦いの場が生まれるのか
ただ、二人が胸に抱えた悲願は全くの逆だったのかな?美沙緒はこれからも生きていく為に真琴から離れる決断をした。凛子はこれからを真琴と生きていく為に美沙緒と戦った
だから二人の戦いの勝敗はコンクールの順位ではなく、真琴が決める必要がある
超絶技巧と言える二人の楽曲を聞きながら真琴が下した判断基準はスキルではなく、再び聞きたい曲という基準
それは正しく美沙緒と凛子を分かつ順位付けになるね。真琴は知らずしてこれまで何度もこだわってきた美沙緒よりも凛子を選んだという事になる
その決断はこれからを音楽に関わって生きていく真琴にとってもエンジンとなる
だから5・6話はそれらの前置きによって得られたエンジンを真琴自身が点火する物語
失う物や立ち止まる事を恐れていたら何も手に入らないし進めない。今の真琴にはエンジンは有っても点けるべき火が見当たらない。まさかそれがあんなものだとは思わなかったけど
無茶苦茶で違法スレスレなダブルブッキング、落ち度なんてPNO側には一切ない。本来なら真琴が負うべき苦労もない
この構図は軽音部の時と似ているね。わざわざ関わるべきではない局面。でも関わったらとんでも無いプレッシャーが舞い込む
でも、真琴はそれだけでなく、不必要にも程が有る荒業にも出てるね
真琴達にとってPNOとは自分の音楽を奏で守れる楽園。安寧を得続けるにはそこに居座り続けなければ良い。けれど、その道を選んでしまえば音楽家村瀬真琴は進めない
もう一つの楽園、もしくは楽園の外側。PNOなのに真琴一人で立ったステージ。以前のムサオならあのような歓声は得られなかったしそもそもステージに立つ事すら出来なかっただろう規模
それでも真琴は一人でステージに立ててしまったし、成功もしてしまった。それは間違いなく旅立ちの証明
真琴側から見れば楽園を壊してしまったようなもの。でも伽耶達は帰ってきた彼を熱烈に迎え入れた。楽園は失われていなかった
それは真琴がこれからを進んでいくには充分過ぎる原動力で充分過ぎる温もりだね。そしてPNOという楽園とは別に出航した『村瀬真琴』という新しくて古い船。音楽に生きる彼の業を新たに見た気分になったラストだったよ -
Posted by ブクログ
バレンタインデーに受け取った想いを返すホワイトデー、甘酸っぱいイベントも音楽バカの真琴に掛かれば素っ気ないイベントになってしまうのでは…?という懸念を他所に予想以上のホワイトデーが描かれていたような
一方で女の子達と向き合うイベントは真琴にとって自身の構成要素に音楽以外のどのようなものが含まれているか捉え直す機会となったのかな
ホワイトデーに何を送れば良いのか、そして何故姉の偽装恋人なんてしなければならないのか。音楽バカにとって余計な悩み事となる冒頭のエピソード
出掛け先でバンドメンバーに遭遇してしまうなんてラブコメとして定番展開の中で見えてくるのはホワイトデーに何を返すかという悩み事が近づく日々においても真琴がバンドメンバーの女の子達をバンドメンバーとして見ている点。硬派なのか超鈍感なのか。
でもそういった変わらなさこそ真琴らしい
本番は姉の補助も有って皆が想定していた以上のお返しが為されたようで
きっと彼女らも真琴がきちんと意味を把握した上で渡してきた、とまでは思わないだろうけど、それでも特別なお返しは特別
それにしても複数の女の子へ同時にマカロン渡すって凄い状況……
続く少女達との逢瀬は日常イベント味が強いエピソード。一応、マネージャーをどうするか?という課題こそあれ、大きな問題が存在しない日々の中で強調されるのはこれまでとこれからの少女達と真琴やバンドとの関係性かな
朱音が考えていたのはマネジメントの問題、PNOは真琴が始めたバンドだけに真琴の雑用部分が多い。だから朱音がしようとしたのは真琴から余計な重しを取り除こうとした行為
やっと本気になれる場所を手に入れた朱音からすると大切な友達が居るバンドはずっと存続させたい。だからそれが消えてしまうんじゃないかと不安に思ってしまうのか
ああして地元トークが出来るなら繋がりは消えないかもしれないけど、音楽バカの真琴にとっても同様の意味となるのか……
詩月が考えていたのは距離の問題か。今は同じ高校だし近場に住んでいるから一緒に活動できる。でも転校なんてしたら真琴達と離れ離れ。詩月がしようとしたのは余計な重しが降り掛からないようにした行為。だから父の不倫相手にも会いに行った
親が離婚した際にバンドの為に一人暮らしか華道の為に母についていくか。詩月にとってどちらも重きを為す要素。だからバンドに居る真琴に本気度が疑われてしまうかと詩月は懸念していたようだけど…
真琴の返しは良かったけど、口説いているようにしか聴こえない台詞だなぁ(笑)
伽耶が考えていたのは所属の問題か。これからも本格的に音楽活動を続けていくならどこかしらの事務所に所属した方がいい。それはバンドの重しを分散するような行為だけど、所属したらそれはそれで重しが現れるというのは難儀な話
伽耶がそういった点を気にしていたのは自身が気にしているからか。演技と音楽の両輪という意味では詩月と似た悩みだけど、未熟な伽耶はまだ自分の中でどちらに重きを為すべきかを決めきれなかった
真琴は伽耶にとって必要な答えを与えてやれた感じだね
凛子が考えていたのは練習場所の問題か。音楽に関わる者にとって大切な音を鳴らす場所、たった1つの場所にこだわっていれば今回のスタジオ改装のように不意に使えなくなる日が来るかもしれない。かと言って様々な宛てを作るのも重しとなる
シェアハウスさえ有ればバンドメンバーで住めるし一緒に練習も出来る。音楽をやる者にとって理想的な環境。そういったものを差し出して、更にはそこから続く未来にも目を向けている凛子の想いの深さを感じるようなエピソードだったよ……
そして肝心の真琴は……
彼の音楽はどのように開始したのか、どのように継続しているのか。これまでも美沙緒の存在が真琴を揺るがす場面は描かれてきた。それは彼にとって美沙緒が掛け替えの無い人物という証左。曲すら書けなくなるだなんて音楽バカである真琴の原動力に近いものに美沙緒はなっているという事か…
そんな状態だから普段なら心躍るような依頼も無味乾燥なものとして、気乗りしない話題として受け取ってしまうわけで
本作は真琴視点で描かれているから、真琴と同じように美沙緒の現状を心配する凛子達の心情はしかと描かれない。けど、気落ちした真琴に踏み込まないという形で配慮や心配がされてきた
でも考えてみれば、それは元教え子である凛子達の問題であって、会った事すらない伽耶にとっては全く無関係の問題なんだよね。おまけに美沙緒の音信不通で真琴が揺らいでいるという事はそれだけ真琴にとって美沙緒が大切な存在であると叩きつけているようなもの
伽耶は勇気を出して、そして挑むように真琴に音楽バカのなんたるかを叩き返したね
これまでの真琴は自分がやりたいとか、美沙緒に聴かせたいが為に音楽をしていたかもしれない。
伽耶が示した痛みの音楽。大切な存在が居なくなっても音楽にしがみついてやるというバカみたいな覚悟。これに応えられなかったら音楽バカなんて名乗れやしない
そうして結集した音楽の先にまさかの再会が待っているとは……
第1巻にて真琴達の前から姿を消しつつも、その存在感故にPNOの中核と等しい核を為してきた彼女。これで完全復活というわけではないようだけれど、それでも彼女が戻ってきたのは本作においてとても明るい話題となりそうだ
美沙緒が戻ってきて、伽耶も高校に入学した。PNOの未来含め何もかもが上手く回り始めそうな春先。これからも本作を読み続けられるという喜びや温かな春模様が幾つも描かれた巻だったよ -
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作曲家が消えたとしても音楽は消えないと云った趣旨が描かれた前巻、続く今巻はならば残り続ける音楽に対して奏でる音楽家や演奏家はいつまで音楽に付き合い続けられるのかと云った趣旨が描かれていたような
この巻において、真琴の人間性を表す言葉として、「人間やめるか音楽やめるか選ばせたらお前は一秒も迷わず人間やめるだろうな」なんて失礼な発言が登場する。他にも「あんたはそっちの国の人なんだよ」なんてぼかしながらも真琴という人間を表した発言も有る
真琴は命の危機に瀕したとしても音楽を続けていそうなイメージが有る。そんな真琴にとって本人の意志ではない理由で音楽の才能があるのに音楽を辞めようとする人間を放置しておけないのかもしれない
音楽の危機に瀕した人々に真琴が関わる事で起きる反響はとても素晴らしいものに仕上がっていたように思えましたよ
黒川と蝶野のエピソードは音楽家で有り続けられる者とそうでない者の物語と言えるか
かつて界隈で一斉を風靡した伝説的ユニットの再結成。今も音楽に当然のように身を浸す蝶野と同じように、黒川もステージに上がれば素晴らしいプレイングを披露できる。二人は同じ音楽や夢を共有できているように見えてしまう。
それでも黒川は音楽を辞めた。あれだけのステージを披露した後に辞めざるを得ない理由を説明した際に蝶野が彼女の勧誘を諦めたのは、黒川の限界に理解を示したのではなく、理解できなくなったから勧誘しなくなったのではないかと思えてしまったよ…
それだけにキョウコの発言は印象的と思えたな。「音楽をやめた人というのは、ただやらなくなっただけだよ」
同時進行する黒川のエピソードからは彼女がこの法則に当て嵌まるとはとてもではないが考えられない。つまり、この「やらなくなっただけ」というのは音楽をやるのが当然のような人達に関する話であり、言ってしまえばこのような発言が出来るキョウコとて“人間よりも音楽を選ぶ”人種であると察せられる
結局、音楽の世界に生きる者にとって夢があるからとか素晴らしい音楽を披露できるとかそういう理由で音楽をやっているわけではないのだろうね。逆に言えば、音楽の世界に生きられない者はどれだけのプレイングを持っていたって音楽を続けられない
音楽の世界に生きる事を当たり前としてしまう真琴にとって、素晴らしい歌声を持つのに住んでいる国が違う黒川の姿は寂しいものに映ったのかもしれない…
後半部はアマチュアオーケストラ『けものみち交響楽団』との関わり
年齢の高い団員ばかりのアマ楽団。前半部で語られた“そっちの国”とはまるで異なる世界に生きていると思える人々。けれど音楽の世界に生きる真琴が尊敬し、真琴が音楽とほぼ同一視しているフシが有る美沙緒が指導した楽団であるのなら、そう単純な存在ではないわけで
自分の音を持つ真琴達を驚愕させる音楽を披露できる『けものみち交響楽団』はいわば本物。立場とか年齢とか関係なく音楽の世界に生きている。そこまで精緻に組み上げられた楽団であるなら、それを一つの楽器であると形容するのは納得の内容
指揮経験のない高校生が選曲をした上で楽団の指揮を執る。普通は尻込みして当たり前の展開。けれど、自分が聴きたい音楽の為に突き進んでしまう真琴は音楽バカな側面が強調されているね
バレンタインコンサートの段階では選曲だけして客席で聴くしか無かった。素晴らしい演奏を「なんでこんな客席の片隅でシートにへばりついて聴いているばかりなんだ」と忸怩たる想いに囚われてしまうのが真琴の真髄。このシーンにこそ黒川が住んでいる国が違うと形容した真理が詰まっているね
真琴は良いと思った、魅了された音楽が眼の前に有るならそれを体感しなければ気が済まない。当然に『けものみち交響楽団』の解散も許容できない
だからこそ真琴は突っ走り始めるわけだ。自分が指揮台に立つのを待たずに楽団が解散してしまうなんて許せないから
そこには冴島俊臣の件が絡んではいる。下手をすれば凛子はバンドを辞めさせられ望んだ進路も選べなかったかも知れない。冴島俊臣に自分達が身を浸す音楽を馬鹿にされた件は真琴にいつもの如く相手を音楽でぶっ飛ばす活力を与えるものに成るね
けれど、最後に明かしたようにそれは建前のようなものになっていくね。真琴は確かに楽団が奏でる音楽を最高峰へと押し上げ最上級の演奏を実現しようとしていた。そこには冴島俊臣に認めさせ、楽団の解散を止めるという目的が有った。けれどいつの間にか目的がすり替わっていくのが手に取るように判るね
『けものみち交響楽団』は美沙緒が残したものであり、きっと残したいものであり。『けものみち交響楽団』には真琴の音楽が活きていてそれを刺激すれば最高の音楽が奏でられると判っている。つまり真琴の中で最高の音楽に身を浸したいという欲が勝ってしまうわけだ
いや、それにしてもとんでもない曲で冴島俊臣をぶっ飛ばそうとしたものだね!まさかの自作曲をクラシックと偽って楽団に演らせるなんて。そのような曲を音楽家にぶつけるだなんて
でも、あれこそが音楽家の武器であり、自分を表現する魂であり、真琴の音楽バカとしての全身全霊なのだろうね。だからこそ冴島俊臣に楽団の価値を理解させられた
それはさておき、続々と真琴とヒロイン達の関係が両親公認みたいな感じになっていく流れにはちょっと笑ってしまう。これ、そろそろ後戻りできないトコまで来てしまっているんじゃなかろうか(笑)
再びの春。伽耶は無事高校に合格し、『けものみち交響楽団』も続く事になった。春の芽吹きと共に喜ばしいニュースが幾つも舞い込んだラスト。こうなると“彼女”の復帰も近いのではないかと期待してしまうが…… -
Posted by ブクログ
前巻が少女達にとってPNOが楽園であると示すエピソードになったなら、今巻はその楽園を作った真琴にとってPNOは楽園足り得るのか?という点を描いていたような
そう思えば、演奏面において真琴より秀でた伽耶の登場は真琴がバンドに居続ける事は正しいのか?と問うと共に、楽園に居ると選ぶのであれば何を楽園の外に置き去りにしなければならないかを問い掛けているかのようだったよ
真琴が新メンバー候補・伽耶のプレイングを耳にして心が揺さぶられる、なんてのは前巻でも似たような展開が有ったけど、今回はまた別種のものだったかな
キョウコの時は真琴の立ち位置が乗っ取られるかのような感覚だった。でも、伽耶は真琴とは異なるベースを操るから乗っ取りにはならずにPNOを別種の存在にさせかねない作用として効いてくる
けど、元々は感情の赴くままに奏でていた真琴にとってPNOは特定の形を持つバンドとまでは必ずしも確信できていない状態。また自らの音楽が急拡大していた事態に心が追い付いていなかった事もあって、真琴はバンドを外から見たいなんて言い出したのかもしれない
真琴の代わりにバンドへと仮加入した伽耶は瑞々しさに溢れたタイプだね。若い憧れを以てPNOに入り込んだ。そこには父への反発なんていうそれこそ若年時代にしか出来ない振る舞いも見て取れるし、芸能社長に騙される危うさも見える。先にバンドに加入した凛子達が音楽体験における危うさを持っていたのに対し、伽耶の場合は人格形成における危うさが見て取れるね
そう考えると、PNOに辿り着いた伽耶は凛子達とは異なる動機や背景によって辿り着いたと捉える事も出来なくはない。凛子達は音楽を自由に奏でられない境遇に息苦しさを感じていた所にPNOという楽園に巡り合った。対して伽耶もPNOは目指していたものの、そこに楽園を見ていた訳ではなかった。真琴への憧れから彼女はPNOを志した
若々しい彼女だからPNOへの加入背景には父親の陰ながらの手助けなんて幼さも見えてしまうが、それを伽耶は許容できないと
そこで真琴の自分勝手な音楽欲が伽耶にまで欲を与える形は面白いね。おまけに「僕は、伽耶の音が欲しい」とか言うなんて。そりゃ伽耶が真琴含めPNOに夢中になるのは当たり前だし、自分が加入した途端に真琴が一時脱退したらむくれるよなぁ(笑)
真琴がソロ活動を模索する中でネットの片隅で出逢った一つの音源。小さな子供にとって秘密の地図を見つけて方々を探し回って宝物を見つける行為が夢の具現であるならば、音楽家にとって音の欠片から関係者の記録を探し回って楽曲を作り上げるのも夢のような行いなのかもしれない。このエピソードを読んでそんな事を思ってしまったよ
何処からどう聴いても良い音源。だけど中途半端な作りで由来も不明。その音に魅了されれば完成させたくなるし、誰がどうしてネットの海に落としたのかも気になってしまう
これは真琴がバンド活動を続けたままであったなら、実らなかった出逢いだろうね
拓人が味わった奏でた音が自分の音では無くなる感覚。昔はそれに対し素直に反発してしまい音は楽曲に成らず誰の耳にも届かなかった。蒔田シュンとの繋がりも途絶えてしまえば、それが日の目を見るなんて本当に有り得なかったのだろうね
そう思えば、生まれ落ちないまま漂っていた音の欠片を何年も経ってから楽曲として作り直すなんて真琴は凄い事をやってのけたね。それはなんて夢のある話だろう
でも、このエピソードにて夢が甘いものとして扱われず苦々しいものとなっているのは現実の儚さを感じてしまう。音は楽曲に成れば消えない。けれど、それを扱う人間はいつか消えてしまうし、聴く人が居なくなっても消えてしまう。
なら、かつては自分の音ではないと反発してしまった音であろうと拓人は蒔田シュンという才能を認めた人が存在したとこの世に刻みつける為に曲をきちんと作り上げる必要があった
そこに真琴が介在できたのなら、真琴が音を拾い上げた甲斐があったというもの
そんな物寂しいエピソードの後に始まるクリスマス編も何とも言えぬ甘さと苦さが両立しているね
クリスマスイブにダブルブッキングならぬクアドラプルブッキングが発生するなんてそれどんな夢次元?と聞きたくなる。しかも、途中で変にバレたりせず誰とも穏やかにクリスマスデートを実行できるとかどういう事です……?
ただ、真琴は四人の少女への恋愛感情が現時点では希薄なものだから妙な背徳感とかも無かったりするのだけど。その傾向は真琴が選んだクリスマスプレゼントにも現れているね。物の見事に音楽関連アイテムばかりで、彼女らのどういった面を重視しているかが浮き出てくるかのよう
どこかの誰かさんみたいにビートルズのレコードを送らなかっただけマシとも言えるけど
こうして都合よく織り成された甘い夢のような時間は守られクリスマスライブの時間へ。そして裏で進行していた苦々しさの静かなインパクトが……
音は楽曲に成れば消えない。だから美沙緒がネット上に上げた楽曲も真琴に届いた為に消える事は無い。つまり、美沙緒という個人が消えてしまう事態が有ったとしても美沙緒が真琴の為に紡いだ楽曲が消える事はない
成功例の少ない手術に対して何か抵抗が出来るとすれば、自分を何処かに残すように祈りを音に乗せて放流する事だったのかもしれない。だからネットに曲を残して、用いたピアノを託して……
こうして託されたなら真琴だって応えなければならない。美沙緒によって結成のきっかけが与えられたPNOは真琴を中心とした楽園。だから伽耶という素晴らしいベーシストが居たとしてもPNOから真琴が抜けるなんて有り得ない
真琴にとってPNOは完璧な楽園とは言い難い。けれどそこを楽園としてしまったなら、楽園が奏でる音楽を求める者達の安息を守る為に彼は音を世に解き放ち続けなければならないわけだ
他方で伽耶を楽園から放逐して終わりにするのではなく、ソロプロデュースの形にしたのは意外だけど、良い着地点だったと思えるね
……その際の台詞がどう考えても告白以外の何物でもなかったのに他意が一切含まれてないって真琴は凄いなぁ(笑)
真琴が楽園で奏でた祈りは届き再会が約束された。彼はもう少しPNOに身を置きつつ、音楽的才覚を発揮していくのだろうと思える暖かいラストでしたよ -
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同じテーマ性の作品なのだから『さよならピアノソナタ』要素を何らかの形で出してくるかもと思っていたけど、まさかこういう形でお出しされるとは!
第1巻では音楽を通して少女達と楽園を築き上げる工程が描かれた。続く2巻では楽園外での環境が少女達にどう影響するか、その際に真琴が築いた楽園はどのような助けとなるのかという点が描かれたような
一度ピアノを挫折してしまった凛子だから、バンドを通して復活できたならピアノの道に戻そうとする動きがあるのは当然。そのような揺り戻しに対し真琴達は他人故に凛子の家庭問題に首を突っ込むのは難しい。詩月の時は音楽を通して華道の腕前を上達させる事で親の束縛を黙らせたけど、凛子の場合は同じ音楽でありながらより難度の高いピアノに集中させるという親の意向が有り、凛子の母が軽蔑するバンドの人間である限り抗議すら聞いて貰えない
だから対処法を誤って初ワンマンが大コケしかねない状況に陥ってしまった。というより、凛子が発していた弱々しいメッセージを真琴が正しく汲み取れていなかったというべきか
ただし、結局は真琴達に出来るのって音を鳴らす事だけなんだよね。凛子を母の拘束から解き放つのは音楽しかない
真琴は凛子が音楽を奏でられる最高の舞台を用意した。でも、それ以上に凛子から弱々しさを吹き飛ばすのは選曲理由だろうね。真琴はいつだって凛子をステージの中央へと、楽園の真ん中へと招いてくれる。それは凛子に束縛する母から逃げる場所も立ち向かう場所もあると知らせるものとなる
最後、これを家庭の問題ではなく「わたしの問題」と言い切った彼女の姿は勇ましい
詩月に生じた問題もやはり他人にはどうしようもないもの。詩月の家庭環境も禄郎の病魔も一介の高校生である真琴に出来る事なんて一欠片も無い
代わりに、真琴に出来る事はここでも音を鳴らす事だけ。けれど、今度は聞かせる相手が異なっているね。余命が限られ親族の多くから嫌われる禄郎にとって、家庭に居場所が無く自分を頼る孫娘の行く末は喫緊の課題。それだけに詩月が慕う真琴に対して査定の形で音楽を奏でさせたのは、音楽を通して真琴は詩月が頼れる人間であるかを見定めようとしたからか
真琴が禄郎と行ったセッションは2回だけ。どちらも禄郎から合格点を貰えた訳じゃない。詩月を救える音楽ではない
真琴の音楽が真の意味で届いたのは禄郎を三途の川から呼び戻す際か。
聞かせる相手は意識が無いのだから本物の音を鳴らす必要はない。音の無い幻想のセッション。傍目に見る分には奇怪で奇妙な音楽。けれど、絶望に顔を伏せた詩月、詩月の行く末を見守れぬまま無人島へ旅立とうとしていた禄郎を引き止める最上の音楽となるね。
禄郎を呼び戻し、詩月を絶望から引き上げた。それは真琴で無ければ出来なかった事、そこに楽園があると示すセッション。禄郎が与えた合否判定は何よりも真琴の音楽への賛辞と思えたよ
そして朱音のエピソードはキョウコとの対決を含みつつ進行する話となったね
話の立ち上がりこそ朱音が詩作をしてみたいと言い出した事から始まっている。けれど、あっという間にPNOのマネージングについての話に移り、キョウコの登場へ至るからこれらのエピソードが朱音のものであるとは感じ難い。というより、朱音の話を展開しつつPNOの話を進行させた感じか
朱音は作詞をする理由を取り分を増やす為なんて嘯くけど、その実態はPNOを確かな居場所とする為なんだろうなと察せられるね
PNOに入るまで幾つものバンドを潰してきた朱音。PNOは真琴の才能に拠って潰れそうにはない。代わりに自分がいつまでも必要とされるか判らない。だから真琴が完璧に出来ているとは言い難い詩を担当する事に拠ってPNOに自分の居場所はあると確定させたかった感じか
だとしたら、キョウコの誘いは真琴を揺さぶるけど、同じくらい朱音を動揺させたんじゃなかろうか?
真琴にとってはキョウコのプレイングを眼の前で見せられて戦力外通告させられた形。朱音にとってはPNOが無くなってしまうかもしれない形。どちらにとっても切実で、バンドを続ける為に何をすればいいか魂懸けて考えねばならない問題
これは先の凛子や詩月の話と比べると、真琴達にはどうにか出来る余地のある問題。けど、プロミュージシャンを納得させるわけだから、実際にどうにか出来るかは別問題
ここで活きてくるのは朱音の詩作か。朱音は詩を作る上で「I need you」をどう訳すかを悩んでいた。この言葉の対象が誰であるか、何であるかは読者にとっては明瞭なのだけど、物語としても真琴としても不明瞭なまま。すると、真琴にとっての「I need you」の対象である美沙緒の話題になって、当然朱音はより真琴から必要とされたいとの想いを強くする事になって…
この必要とされたいとの感覚は双方向のものだね。勘違いしている真琴は当然として、不要と言われた朱音達にとっても互いを必要としている。このような感情から、PNOはバンドという形をしている事で楽園に成るわけではなく、あの4人で成立している事で楽園としても成立しているのだと見えてくる
そうこうしている内に真琴の中でキョウコを倒すという感覚が優先度の低いものになっていく様は印象的。キョウコから戦力外通告された事もバンドを解体されそうな事も腹が立っている。けれど、キョウコに認められたいとかそういう想いは何処かに置いてきてしまった
真琴が音楽を届けたい「たったひとり」、それはあの瞬間において間違いなくPNOの為だったのだろうなと思ってしまうよ。真琴にとっての居場所であり、凛子も詩月も朱音も居る居場所。そしてあの曲の詩を書いたのが朱音であるならば、朱音に最も届けたい歌となって
それを思えば、朱音が最後に告げたかもしれない言葉が「I love you」ではなく「I need you」に連なる言葉であるだろうと思えば、真琴の歌はきちんと朱音に届いたのだろうと思えるよ
そしてラストのオチですよ(笑)
確かにキョウコの発言は紛らわしかったけど、それが真琴を盛大に勘違いさせPNOの動力源に成るなんて誰が想像しただろうね(笑)
真琴ってこれまでも凛子や詩月の告白同然の言葉に全く気付かずスルー、なんて事態が多発していた。つまり彼を極度のニブチンと捉えればこのような事態もそりゃ生じ得るんだろうけど、それにしたってあんまりな勘違いですよ!
本作は基本的に真琴の視点で進行するから気付き難いけど、キョウコが指摘したように実はPNOにおいて最も厄介な問題を抱えているのって真琴なのかもしれないね(笑) -
Posted by ブクログ
杉井光先生の作品を読むのはこれで2度目。というか、『さよならピアノソナタ』以来
あらすじや表紙にどこか『さよならピアノソナタ』っぽさを感じてしまってどうにも読まずには居られなかったよ
そして内容はあの懐かしい熱量を彷彿とさせる要素を含みつつ、現代における若者達の音楽の楽しみ方を上手く作品に落とし込んだ作品に思えたよ
鬱屈とした想いを懐きつつも音楽に向き合わざるを得ない幾人もの少女達に寄り添う事になったのが本作の主人公・村瀬真琴
凛子達が持つ音楽の才能が非常に判りやすく華美であるのに対して、真琴の才能は控えめであり陰に籠もるかのよう。この控えめというのは才能が無いという意味ではなく、一見して判り易い才能を持つ華々しい凛子達に比べて、彼の何が凄いのかという点がすぐには判らない意味
真琴が投稿した動画の反響って冷静に考えれば凄いものだと判るけど、女装して投稿した事で再生数が伸びた事実が「実力に拠って評価された訳では無いのでは?」と本人含めて思わせる状態となっているね
けれど、美沙緒から押し付けられた音楽授業の代役も立派にこなせているし、合唱曲の編曲なんてのもほいほい出来ている。これらを「実は音楽の才能が無かった」なんて表現する事は宜しく無い
自信が無い彼の一人称視点である為に誤魔化されそうに成るけれど、よくよく見れば彼も一角の音楽家である事が判る
けど、本人の自覚としては凛子達に劣っている認識が続く。だからか華々しい才能を持ち、自分を魅了する音を鳴らせるのに、音楽に向き合う事すら辞めてしまいそうな凛子達を放っておけなかったのだろうね
音楽で絶望しているなら音楽で吹っ飛ばせ。これまで接してきた音楽で悩みを吹き飛ばせないなら、新たな音楽の光景を目の前にぶちかませ。そのような無茶苦茶な方法で真琴は少女達に寄り添っていく
この流れがいつしか控えめであった筈の真琴の才能を更に花開かせ、衆目に晒す流れも素晴らしいね
最初に関わる事になった凛子は音楽の申し子という表現を判りやすく当てはめられるタイプだね
真琴が面倒でいやらしい感じにアレンジした楽譜を少し見て弾いただけで暗譜してしまう。また高校入学前はコンクール荒らしなんて呼ばれる程にコンクールで優勝していた
そんな彼女が衝突してしまったのは音を望ましい形でなぞるだけでは到達できない領域か。彼女自身も自らの音を価値のないものだと考えるようになったのに、それでも彼女は音楽を捨てられなかった
そんな凛子に真琴がぶちかましたのはそれこそ音色を操作できる鍵盤楽器。あのシンセサイザーなら凛子が願い望んでいた音色を完全に再現できる。けれど、混じりっ気がないが故にそれは音楽家の凛子を満足させず、むしろ混じりっ気のある音楽こそ彼女が求めて止まなかった音だと気付かせる流れは素晴らしいね
このような遣り方にこそ真琴の真髄が詰まっていると言える
次に関わったのは詩月。本人は音楽に染まりたいと思っているし、ドラム愛が抑えきれていないが、家庭の事情や周囲が彼女に望む在り方によって音楽に己を染める事が許されない
結果、音楽の道が絶たれようとしていた。勿論、音楽の才能を愛する真琴はそのような事態を許せないが一方で他人の事情に踏み込む事を思い切れない弱さがあるね
ここで真琴の背を引っ叩いてくれるのが先に真琴に解放された凛子となるわけだ。凛子が仕掛けたセッションは詩月が自信を無くした一因かもしれない音合わせの焼き直しのようで居て、そこに真琴を挟み込む事で二人の音が調和される形となっていたね
凛子と詩月は幾つもの壁を挟んで音を重ね合わせようとした。普通なら届かない音が互いに耳を澄ませ、相手に届けようと思う事でセッションが可能となった。その上で真琴は二人が綺麗に合わせようとしていた音をぶっ壊してしまった。けれど、そのような無茶苦茶な音こそ詩月にとって気持ちの良いものだったと教える工程は真琴と凛子のコンビネーションでなければ出来なかったものだろうね
朱音は音楽以外に居たい場所を持っていなかったのに、バンドを続ける調和性がない為に音楽の居場所すら失いそうになっていた少女か
朱音は真琴や詩月が陶然とするような音楽の才を持っているのにそれを発揮できる居場所を持っていない。というより、手近な居場所に居着く為に才を敢えて使っていないというべきか
なら、彼女と向き合う為に真琴はバンド的な居場所を作る必要に駆られる訳だ。ここで面白いのは今度は詩月が朱音を解放するのに一役買う点かな。凛子の解放に真琴が対面したように、詩月の解放に凛子が前に出たように。彼女らはバンドを名乗り始める前から互いの音楽を必要とする繋がりが生まれていた
そうして行われたセッションはその後に作り上げられる楽園を前借りしたようで居て、既に完成形に近い形として出来上がっていたもののように思えたよ。あの時点で彼女らは互いの音に惚れ込んでいたと伝わってくる
少女達が集まる流れは全てが運命に拠るものとか、偶然が積み重なってとかそういったもので無いのは少し印象的かもしれない
本作における物語の始まりの地点を何か一つ定義するとしたら、それは美沙緒が真琴を見出した時ではなく、やはり真琴が演奏動画をネットの海に放流した時だったのではないかと思えてしまう。その時から全てが回りだし、美沙緒が真琴を見出し、真琴が凛子達と関わるようになったのだから
美沙緒が真琴と凛子達の出会いを導いたのは事実だけど、そこから様々な音楽が奏でられる楽園が築き上げられたのは確かに動画がきっかけだろうから
そういった意味では真琴達の在り方を変えるのが再び投稿動画となるのは納得の展開かもしれない
バンドをしたかったわけではない。音楽で世界に向けて訴えたいものが有るわけでもない。それでも鳴り響かせずには居られない音があって、十全に奏でさせてやりたい音楽家達が居て、音を届けてやりたい相手が居て……
人気や今後の活動を考えればあのライブシーンで真琴が出ないのは正解
でも、彼らPNOが音を奏でているのはそういった理由に拠るものではなくて、もっと純粋で尊い動機によるもの
だから幾千幾万のコメントから奇跡にも近い確率で一番大切な言葉を掬い上げられるし、そこから始まったアンコールはPNOが最も奏でたい音になる
いや、それにしても真琴が消してしまった初期衝動が込められた楽曲を凛子達も知っていたというのは驚きだったけども
最後に示された楽園の場所、美沙緒から託された大切な音の数々
終わり方は残響音だけが響いて他の音は鳴り止むかのように静かなもの。そのような構成だから読後の余韻を感じられるし、次に鳴る音がどのようなものか想像を膨らませてしまったよ