あらすじ
出来心で女装して演奏動画をネットにあげた僕は、謎の女子高生(男だけど)ネットミュージシャンとして一躍有名になってしまう。顔は出してないから大丈夫、と思いきや、高校の音楽教師・華園美沙緒先生に正体がバレてしまい、弱みを握られてこき使われる羽目になる。
無味無臭だったはずの僕の高校生活は、華園先生を通じて巡り逢う三人の少女たち――ひねた天才ピアニストの凛子、華道お姫様ドラマーの詩月、不登校座敷童ヴォーカリストの朱音――によって騒がしく悩ましく彩られていく。
恋と青春とバンドに明け暮れる、ボーイ・ミーツ・ガールズ!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
行間から音楽が聞こえてくるような文章!
真琴くんもヒロインたちも音楽への向き合い方がかっこよくて、登場人物全員好きになっちゃう!
キャラクター造形は分かりやすくテンプレラブコメラノベ的ではあるっちゃあるんだけど、下手に個性を付け足しすぎてないことでテーマと物語がストレートに伝わってきたような気がする。
Posted by ブクログ
杉井光の作品に音楽が絡むことは多々あったが、ここまでド直球の青春バンドストーリーは「さよならピアノソナタ」以来だろうか。
あの作品から10年以上の年月が過ぎ、音楽を取り巻く環境も変わってしまったが、音楽とバンド、とりわけライヴが持つ眩しさに変わりはなく、それを描き切っている素晴らしい作品だったと思う。
かねてから思っていたが杉井光のすごいところは「クラシック/バンド/DTM」などの極端に差があるジャンルそれぞれの「プレイヤー/リスナー/クリエイター」各自の立場からの描写がひたすらリアリティを持って深く描かれているところにあると思う。作中のキャラ作りも上手く機能していると思うし、今作のギャグやかけあい面も白くて普通に笑ってしまった。
ほんとうに素晴らしい作品だと思うし、こらからの作品も一生読んでいきたいのでこれからもお願いします。
Posted by ブクログ
うわーめっちゃよかった。
これぞ僕の好きな杉井光だよ!
高校生の音楽と青春ということでもちろん「さよならピアノソナタ」を思い出したのだけど、最初のピアニストの凛子の話なんかもろ「ピアノソナタふたたび」だと思った。
そのまま彼女がヒロインになるのかなと思っていたら、次はドラマーの詩月でその次はヴォーカルの朱音と、一人だけじゃないんだ! と驚いてしまった(笑)
でも、みんなそれぞれに抱える悩みを主人公が次々に音楽の力で突き破っていく様は、どれもこれもグッとくる。
挙句の果てには音楽教師の美沙緒の想いさえ掬い上げるとは!
ラストの電光掲示板に写る奇跡の瞬間はほんと泣きそうになった。
杉井光らしい怒涛のような音楽の表現も、相変らずボケと突っ込みの楽しい会話漫才も、久々に杉井光を満喫した気分。
楽しかったあ!
Posted by ブクログ
ギター、ベース、ピアノ、ドラムを扱ったバンドもの(?)のライトノベル。ラブコメ要素もあり、ハーレム的な展開もところどころに見受けられた。
ただ、このラブコメ展開が個人的にはハマらなかった。主人公がヒロイン(のうちの1人)と出会って間もないのにやけに好かれていたり、主人公がその好意に鈍感だったりといったいかにもラノベっぽい展開が、個人的にはあんまりこの作品には合ってないように感じた。このテンプレ通りのような安易なラブコメ要素を取り入れるくらいなら、この作品ならではの音楽を通した人間関係を深掘りしていけばいいのにと思った。
その他の点に関しては、終盤暗い展開はあるものの、全体的には読みやすく、かつ作者のこだわりを感じる作品で楽しく読めた。続巻を買うかは検討中。
Posted by ブクログ
杉井光先生の作品を読むのはこれで2度目。というか、『さよならピアノソナタ』以来
あらすじや表紙にどこか『さよならピアノソナタ』っぽさを感じてしまってどうにも読まずには居られなかったよ
そして内容はあの懐かしい熱量を彷彿とさせる要素を含みつつ、現代における若者達の音楽の楽しみ方を上手く作品に落とし込んだ作品に思えたよ
鬱屈とした想いを懐きつつも音楽に向き合わざるを得ない幾人もの少女達に寄り添う事になったのが本作の主人公・村瀬真琴
凛子達が持つ音楽の才能が非常に判りやすく華美であるのに対して、真琴の才能は控えめであり陰に籠もるかのよう。この控えめというのは才能が無いという意味ではなく、一見して判り易い才能を持つ華々しい凛子達に比べて、彼の何が凄いのかという点がすぐには判らない意味
真琴が投稿した動画の反響って冷静に考えれば凄いものだと判るけど、女装して投稿した事で再生数が伸びた事実が「実力に拠って評価された訳では無いのでは?」と本人含めて思わせる状態となっているね
けれど、美沙緒から押し付けられた音楽授業の代役も立派にこなせているし、合唱曲の編曲なんてのもほいほい出来ている。これらを「実は音楽の才能が無かった」なんて表現する事は宜しく無い
自信が無い彼の一人称視点である為に誤魔化されそうに成るけれど、よくよく見れば彼も一角の音楽家である事が判る
けど、本人の自覚としては凛子達に劣っている認識が続く。だからか華々しい才能を持ち、自分を魅了する音を鳴らせるのに、音楽に向き合う事すら辞めてしまいそうな凛子達を放っておけなかったのだろうね
音楽で絶望しているなら音楽で吹っ飛ばせ。これまで接してきた音楽で悩みを吹き飛ばせないなら、新たな音楽の光景を目の前にぶちかませ。そのような無茶苦茶な方法で真琴は少女達に寄り添っていく
この流れがいつしか控えめであった筈の真琴の才能を更に花開かせ、衆目に晒す流れも素晴らしいね
最初に関わる事になった凛子は音楽の申し子という表現を判りやすく当てはめられるタイプだね
真琴が面倒でいやらしい感じにアレンジした楽譜を少し見て弾いただけで暗譜してしまう。また高校入学前はコンクール荒らしなんて呼ばれる程にコンクールで優勝していた
そんな彼女が衝突してしまったのは音を望ましい形でなぞるだけでは到達できない領域か。彼女自身も自らの音を価値のないものだと考えるようになったのに、それでも彼女は音楽を捨てられなかった
そんな凛子に真琴がぶちかましたのはそれこそ音色を操作できる鍵盤楽器。あのシンセサイザーなら凛子が願い望んでいた音色を完全に再現できる。けれど、混じりっ気がないが故にそれは音楽家の凛子を満足させず、むしろ混じりっ気のある音楽こそ彼女が求めて止まなかった音だと気付かせる流れは素晴らしいね
このような遣り方にこそ真琴の真髄が詰まっていると言える
次に関わったのは詩月。本人は音楽に染まりたいと思っているし、ドラム愛が抑えきれていないが、家庭の事情や周囲が彼女に望む在り方によって音楽に己を染める事が許されない
結果、音楽の道が絶たれようとしていた。勿論、音楽の才能を愛する真琴はそのような事態を許せないが一方で他人の事情に踏み込む事を思い切れない弱さがあるね
ここで真琴の背を引っ叩いてくれるのが先に真琴に解放された凛子となるわけだ。凛子が仕掛けたセッションは詩月が自信を無くした一因かもしれない音合わせの焼き直しのようで居て、そこに真琴を挟み込む事で二人の音が調和される形となっていたね
凛子と詩月は幾つもの壁を挟んで音を重ね合わせようとした。普通なら届かない音が互いに耳を澄ませ、相手に届けようと思う事でセッションが可能となった。その上で真琴は二人が綺麗に合わせようとしていた音をぶっ壊してしまった。けれど、そのような無茶苦茶な音こそ詩月にとって気持ちの良いものだったと教える工程は真琴と凛子のコンビネーションでなければ出来なかったものだろうね
朱音は音楽以外に居たい場所を持っていなかったのに、バンドを続ける調和性がない為に音楽の居場所すら失いそうになっていた少女か
朱音は真琴や詩月が陶然とするような音楽の才を持っているのにそれを発揮できる居場所を持っていない。というより、手近な居場所に居着く為に才を敢えて使っていないというべきか
なら、彼女と向き合う為に真琴はバンド的な居場所を作る必要に駆られる訳だ。ここで面白いのは今度は詩月が朱音を解放するのに一役買う点かな。凛子の解放に真琴が対面したように、詩月の解放に凛子が前に出たように。彼女らはバンドを名乗り始める前から互いの音楽を必要とする繋がりが生まれていた
そうして行われたセッションはその後に作り上げられる楽園を前借りしたようで居て、既に完成形に近い形として出来上がっていたもののように思えたよ。あの時点で彼女らは互いの音に惚れ込んでいたと伝わってくる
少女達が集まる流れは全てが運命に拠るものとか、偶然が積み重なってとかそういったもので無いのは少し印象的かもしれない
本作における物語の始まりの地点を何か一つ定義するとしたら、それは美沙緒が真琴を見出した時ではなく、やはり真琴が演奏動画をネットの海に放流した時だったのではないかと思えてしまう。その時から全てが回りだし、美沙緒が真琴を見出し、真琴が凛子達と関わるようになったのだから
美沙緒が真琴と凛子達の出会いを導いたのは事実だけど、そこから様々な音楽が奏でられる楽園が築き上げられたのは確かに動画がきっかけだろうから
そういった意味では真琴達の在り方を変えるのが再び投稿動画となるのは納得の展開かもしれない
バンドをしたかったわけではない。音楽で世界に向けて訴えたいものが有るわけでもない。それでも鳴り響かせずには居られない音があって、十全に奏でさせてやりたい音楽家達が居て、音を届けてやりたい相手が居て……
人気や今後の活動を考えればあのライブシーンで真琴が出ないのは正解
でも、彼らPNOが音を奏でているのはそういった理由に拠るものではなくて、もっと純粋で尊い動機によるもの
だから幾千幾万のコメントから奇跡にも近い確率で一番大切な言葉を掬い上げられるし、そこから始まったアンコールはPNOが最も奏でたい音になる
いや、それにしても真琴が消してしまった初期衝動が込められた楽曲を凛子達も知っていたというのは驚きだったけども
最後に示された楽園の場所、美沙緒から託された大切な音の数々
終わり方は残響音だけが響いて他の音は鳴り止むかのように静かなもの。そのような構成だから読後の余韻を感じられるし、次に鳴る音がどのようなものか想像を膨らませてしまったよ
Posted by ブクログ
音楽×女子高生
全体的に駆け足で進んだ印象だったけれど、杉井光らしい人の心の歪みを描くのがさすがだった。
凛子のキャラがいまいち定まってないのと、相変わらず鈍感主人公だったのは残念。
リメイクorリミックス?
会話のテンポの良さと面白さで全巻一気読みした。1巻のあとがきにもあったが旧作のさよならピアノソナタに酷似している。旧作から時間が経って読者層も一巡したからわからないだろう、とでも思ったのだろうか?
主人公の立ち位置、バンド構成、学祭でクラシックを挟む等々…偶然数ヶ月前にさよならピアノソナタを読んだばかりだったので記憶に新しく気になってしまった。違うのは主人公が女装するくらい。これなら旧作を改訂すれば良いのでは?
それに鈍感系もここまで来るとねえ。
最初にも書いた通り会話は良い。音楽教師のその後も気になるし所々にひっかけが有るのもよく出来ている。とはいえ主人公の楽器パートやバンド構成を変えるなりすれば全く違った作品として読めたかもしれないが、これではやはりリメイクとしか思えない。楽園ノイズしか知らない人にさよならピアノソナタを読んだ感想を聞いてみたい。