上田岳弘のレビュー一覧
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ニムロッド 上田岳弘
中本はサーバー運用会社に勤める。
ある日社長からビットコインの採掘する課の課長を任される。
そんな彼にはニムロッドという同じ会社の名古屋拠点で働く同僚がいる。彼は小説を書いている。そしてニムロッドは中本に駄目な飛行機コレクションのメールを日々送ってくる。執筆している小説も送ってくる。
中本には田久保という彼女がいる。彼女は離婚歴あり。子供をおろした経験もある。
3人を繋ぐのは中本が左目から流す涙の症状。
中本とニムロッド、中本と田久保。交互にやり取りが描かれている。その交互の移り変わりにある交差点が文章で表現されている -
Posted by ブクログ
ネタバレ昔読んでも心には残らなかった気がする。
「小難しい言葉を使っていて、よく分からない小説だな。」で終わっていた気がする。
この歳になったからかは分からないが、
読んだ直後は久しぶりに自分の考えを頭の中で整理してた。瞑想してた。自分と久しぶりに会話したというか。
主題が読み手によって変わる本な気がする。
比喩的で曖昧で物語もフワッと終わる。
そこが、考えさせられて、面白い。
私が感じた主題は、「日常の空虚さ」「特別でありたいともがく姿」「実は何もない自分自身」こんな感じ。
上の言葉はネガティブなイメージはなくて、ただ事実として作者が捉えてる事を描いてる感じ。
だから、読み手によって受け取り方が変わるんだと思う。
登場人物はサーバー保守をやっている「僕」、その先輩で友人の荷室=ニムロッド、「僕」の恋人の田久保紀子。
「僕」は社長命令で仮想通貨の採掘を業務指示される。
仮想通貨は普通の通過と違い、信頼性という概念はない。日本という国が保証してるから成り立つ円だが、それと違い仮想通貨はただ存在しているだけ。ただ求める人がいるから価値が発生する。
ニムロッドは「僕」の1つ上の歳で会社の先輩。仕事と並行して小説を描いている。並行してと書いてはいるが、本人にとっては小説執筆がメイン。
新人賞に3度応募し、3度とも最終選考まで残ったが全て選ばれず、恐らくそれが原因で鬱になる。そして、「僕」と同じ東京支社から名古屋支社へ異動する。
田久保紀子は39歳、有名な外資企業に勤務。数ヶ月に1回は出張で海外へ行くようなキャリアウーマン。離婚歴があり、元旦那とは子供ができたがおろす決断を1人で下す事になったせいで亀裂が入り、今でもその傷が心に残っている。
話は3人の登場人物の会話や日常に、ニムロッドの書いている小説の内容を挟む形で構成されている。
空虚さやから回るイメージは、仮想通貨・ニムロッド・田久保紀子・ニムロッドの小説に出てくるダメな飛行機コレクションで感じるんだと思う。
ダメな飛行機コレクションというのは、今までの歴史上、今ある飛行機が出来るまでに造られた飛行機のこと。原子炉を積んでいたり、縦に飛んだり、そもそも飛べなかったり。様々な飛行機が登場する。「失敗があるからこそ今があるんだから、ダメな飛行機コレクションは愛らしい。」と書いてあった気がする。
荷室が書いている小説の中の人類の王ニムロッドはダメな飛行機を集めている。
小説の中での人類は寿命がなくなっている。寿命を無くすか、死を選ぶか人間は2択を迫られ、寿命を無くした人間のみが小説では生きている。
小説のニムロッドも寿命はない状態。
ニムロッドは自分の作った仮想通貨のおかげで資産は有り余り、昔から作りたかった世界一高い雲の上に突き出るくらい塔を建て、その中にダメな飛行機をコレクションしてる。
寿命の無くなった人類は次第に自分の欲望を満たし尽くして、より効率的に生きるためにひとつになり、人間であることを辞める。仮想通貨を運営する"あのファンド"という何かと一体化するらしい。
ここがすごく怖い。欲望を満たした人間は死ぬか個を無くすかしかないらしい。
ニムロッドと田久保紀子は、己の無力さに虚さを覚え、それが満たされない人生を過ごしているという自覚を持って生活してる。何のために自分が小説を描いているのか、働いているのかよく分からなくなっている。代わりはたくさんいると。
「僕」は自分を唯一無二と信じ、自分の周りを大切に思いながら過ごしているように感じる。
(→どちらかと言うと鈍感に生きているからそこまで深く考えてないと言えるかも。)
「僕」については詳しく小説内で触れてないが、ニムロッドと田久保紀子をより深く描写する事で対比させ、そう感じさせてるのかもしれない。
小説の中の人類の王ニムロッドは、帰還設計が考えられていないダメな飛行機で太陽に向かって飛んでいく最後で終わる。人間を辞めることはしない。
すごく小さな距離かもしれないけど、太陽に向かって飛び続けること、人間で居続ける事を辞めることは出来ない。
それがニムロッド(反逆者)が決めた事らしい。
空虚さなんて誰もが味わったことがある気持ちだと思う。自分が何者かも分からない。情報がありふれる現代で自分の気持ちも分からない。
色んなものに振り回されて、ある意味檻の中に自ら入っている感じ。
そんなイメージを小説で伝えたかったんじゃないかと思う。
あとこの小説で印象的だったのが、最後の方。
「僕」と付き合っている田久保紀子がニムロッドの小説を読んで気に入り、タイミングがあった際に3人で通話した後の部分。
「僕」は田久保紀子と連絡がつかなくなる。
そして、ニムロッドも田久保紀子もそれぞれ東方洋上にさるという描写がされている。
東方洋上にさるというのは歴史上の人物が自殺する前に残した最後の言葉らしい。結局生きて戻り、長生きするらしいが。
この3人の関係性が変わったのか、2人は東方洋上にどう去ったのかすごく気になる。一緒に去ったのか、それぞれ個別に去ったのか。
人間、そんなに大したことは出来ないんじゃないかな。歴史上に残る事が偉大ではなくて、些細な事をいかに自分事として感じ、自分の人生を過ごすかって事が私は大事だと思う。
自分の気持ちって見えづらくて、色んなものに隠されやすいから、
敏感に生きていきたいなとこの小説を読んで改めて感じた。 -
Posted by ブクログ
読書開始日:2021年7月30日
読書終了日:2021年7月31日
所感
閉塞感、暗い雰囲気をまとった作品。
読みやすくはあったが、各々の心情が難しい。
ニムロッド、田久保は現代の完璧を追求し、尖りを叩く閉塞感にどうしても嫌気がさしていたのか。多分そうだ。
ニムロッドは誰かの心に文字を通してなにかを記載したかったが、叶わなかった。記載ができなかった。
だからこそ自分と似通った駄目な飛行機を愛す。だが周りがどんどん効率化、合一化することによって愛すべき駄目なものが無くなる。ついに駄目な飛行機も世から尽きる日が怖くなり太陽に向かった。
田久保も、あの日の判断で自分にレッテルを貼ってしまったことで、ニムロッドと同様の状況に陥っていた。仕事柄、合併を推奨し個をつぶしていく作業は、悲しくも完璧、効率化を追い求め、レッテルを貼ってしまった自分だけが取り残された感覚になる。それ故の東方洋上に去る。
2人は泣く資格が無いと思い込んでいるため、なんの感情もなく涙を流す中本サトシに自分の流せない涙を重ねていた。
どこか愛すべき中本サトシの個を、2人は愛していた。
このまま世界が進むと同時に個は少なくなり、効率化していき、閉塞感が増すのは目に見えるが、そこさえも超えると、なにも考えない生き物になる。
誰もが根元に、自分の考えを誰かの心に残したいと思っている。
世界の未来と、人間の根源的な欲望のジレンマの作品か。
難しい…
まどろむ
採掘完了2140年
夫は判断を完全に委ねるべきではなかった。
夜のこんな時間に、深く考えた会話なんて期待していない。
彼女の目元に涙の跡を探してみるが
人口を支えるだけの技術革新が、そのまま高くそびえる塔を支えるのだ。
一つの小説が世の中に存在するためだけに行われる、シンプルな行為。
ビットコインの採掘状況はまるで天気の話題みたいに、挨拶じみてきている。
どうせもうほとんどの人はこの世界がどうやって運営されていているのかなんて、知らないし興味ないんだから
肌理は細かい
言いたいことを言えばいいじゃん。恋人といるなんて、半分くらいはそのためなんだし
サトシ・ナカモトのジレンマ
僕たちは確かに会話しているが、僕たちの会話暗号化されたデータそのものだ。
一緒にいるときは意識もしない彼女の姿をなぜ僕は無機質な文字をみながら思い浮かべているのだろう。
その代わりみたいに僕の左目から涙が流れ続ける。
誰もが心の奥底に抱えている根源的衝動=誰かの心に文字を通してなにかを記載すること -
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ひが彼我の差を感じて悦にいる? 荘厳な塔 ビットコイン採掘に充てるサーバー補充の要請をしたが 634関東平野を意味する「武蔵野」という言葉が担ぎ出されたのだ ブルジュ・ハリファの828 ダイバーシティ(多様性)は大事だからと優しく認めてもらえる 寡作のまま死んだ伝説の作家らしい 彼女の中2病的な心情吐露を僕は好ましく思っていた 最適な形状に収斂しつつある最新型スマートフォン発表のネットニュース 創設者としてのアイコンを担いきれていない 鳥の形を模したものだった 操縦桿を握る手を濡らした 蕩尽的に もた凭れる さと聡い よもやま四方山話 荷室仁 バベルの塔 駄目な飛行機コレクション 彼からのメールはあの鼎談ていだん以来途絶えたままだ 桜花が進む距離なんか 誰もが心の奥底に抱えている根源的な衝動に違いない 未熟なロックスターが二十七歳で自殺するように 山っ気 ゆうよう悠揚迫らざる冷静な筆致で進行し こつぜん忽然と締め括られる 快く途惑わせ続けている 何処か超越的な「他処」に位置している それを除けば謎めいた重層化も錯雑化もなく 超越的なトポス(場所)を起点として湧出した言葉の運動がまずあり 聳える窮極の「山」を目指して困苦の旅に出るといった試練は せんしょう僭称 こうとう高塔 上田岳弘の小説家としての欲望の核心の在り処を端的に物語っている こうむ蒙っている 喫緊の課題
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ネタバレ前世の記憶をいくつも持っている我輩、そして今は山上甲哉。
今世は普通の平凡な一般人として人生をまっとうするはずだったけれど、
我輩の意識の中にはある人物の記憶があった。
ひとりはJといって、ハッカーとして大変頭の切れる男でありながらも、自分の能力を活かし切れずにいる自意識の塊のような人物。
もうひとりはSといい、淡路島で新興宗教の教祖をしている人物。
我輩である山上甲哉が、Jに自分の存在を知らせるために送ったメールは
Jの所属する組織のEに気づかれ
EとJ、同じ組織のMは
教祖のS、教団だった早乙女や北海道にいる山上甲哉に会いにくる。
JとSの記憶を覗くことができ、Sを通してEと早乙女の記憶も覗けて
地震による津波で、それぞれの運命は別れ、我輩はまた新たな人間となる。
不思議な話。読むのに時間をかけすぎた。 -
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以下、ネタバレ含む。注意。
語り手、井上由祐は三人目の私である。
一人目はクロマニョン人の私。
二人目はユダヤ人、ハインリヒ・ケプラーとしての私。
二人の記憶を積み重ねながら、三人目である井上由祐は、クロマニョン人の私が予想した通りの世界になっていることを眺めつつ、「私の恋人」になり得る存在を探し始める。
一方で、その恋人候補にピッタリなのが、メルボルンの旧家に生まれたキャロライン・ホプキンス。
彼女は高橋陽介がしてきた「行き止まりの旅」を引き継ぐ者として、日本に来ている。
この「行き止まりの旅」は三周を想定されている。
一周目は、ヒトのアウト・オブ・アフリカの行程。
二周目は、西洋諸国の領土拡大と世界大戦の行程。
そして人類は三周目の終盤にいて、ヴァーチャルを含んだ旅は、AIを生み出したことで序列の逆転を起こすだろう。
今まで「行き止まり」に至った人々が、その度、淘汰され、アップデートされていったのと同じように。
キャロライン・ホプキンスは、高橋陽介の旅を引き継ぎながら、皆に警句を与えることを目的として動いている。
対して、そうしたヒトの繰り返しを予見している井上由祐は、彼女は「幻惑」されているとして、自らは超越者の視座を保とうとする。
短いけれど、捉えにくい話で、でも一つ一つの要素はとても面白い。
ヒトは歩みを止められない。
アフリカを出て、定住するに相応しい地を見つけても、次はその地を奪い、広げるためにまた歩む。
そして、正しさを決めた後の悪に対しては容赦がなく、同じヒトであってもそれを認めない。
井上由祐は、彼女の旅を理解することが出来る。
一周目、二周目を当事者として生きた者として。
さて、井上由祐は「行動する」のだろうか? -
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語り手は「私」と「吾輩」という2つの一人称を同時に使い、
しかも今は「ヤマガミ」という青年であるがかつては石原寛治でありフロイトでありテレンティウスであったといい、
その上ほかの登場人物の意識を覗いて記述することも出来るという。
なんだかわけのわからないメタメタな構成である。
けれど「語り手」のその立ち位置というのは要するに、
登場人物に憑依してその視点で物語世界を見るという「書き手」、すなわち小説家自身のことを、
SF的に、もしくは寓話的にとらえ直した私小説なのではないか、とも思う。
「中二の時に他人の意識が流れ込んでくるのを感じるようになった」というようなくだりはつまり、
「このころから妄想と自意識の線引きが出来るようになって、自分でない別の人格としての物語を造り始めた」という「書き手」自身の独白であって、また、
「吾輩に起きていることは全て私の妄想なわけだ」という一文は、
「吾輩」を「語り手」に、「私」を「書き手」に読み変えることも出来る。すると、そのあとの御託云々はそのまま、書き手の「意識の流れ」そのものだ。
物語を産む「書き手」とは、その世界においては創造主なのである。神なのである。
しかしこの世界の「神」は自分自身が物語の中に入り込んでしまっていて、「語り手」たる主人公に「語られて」しまってもいる。
「私」が溢れまくっている。「私」があり余る。「私」以外にも「私」はいるの。
という、そんな「私」小説である。
主人公は「私」という概念そのものなのかもしれない。
文学の世界の中で「私」はこれから、どこに行けばいいのだ。どこに行くのだ。