上田岳弘のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
Uber Eatsの配達員の「K」とTikTokerの「ICO」。いかにも現代を象徴するような設定だ。
資本主義の巨大なシステムの末端に組み込まれて、労働力として搾取されるUber Eats配達員。存在を見下されることもある。しかしKは、意に介さず、毎日の労働で身体を鍛え、配達エリアを熟知し、法律を学び、どんな世界でも生きていける自分を作り上げようとしている。
一方、ICOも金銭的に恵まれない境遇にあっても、自分の才覚でフォロワーを増やし、TikTokerとしてそこそこ成功、さらに同級生と協力して「イデア」としてのICOを作りあげようとする。
途中に出てくる小学生「k」の家庭で起きる事件だったり、ICOの同級生の事故など、残念ながら小説の展開として意図がわかりにくかったところもある。
しかし、こんな日本にしてしまった高齢者世代への若者世代からの怨嗟と、若者の象徴として、来るべき時に備え、黙々と個々の能力を高めるUber Eats配達員たちの姿が目に浮かび、これが著者が感じている現代なのかもしれないと思った。
耐えに耐えた彼らがいつか黙って世の中をひっくり返してしまうのでは、などと不気味さを覚えつつも、エールを送りたいような複雑な思いになった。 -
Posted by ブクログ
これは完全に『ノルウェイの森』のオマージュだなあ、と思った。登場人物も、どもりのある「先輩」は突撃隊だし、有能すぎる「向井」は永沢さんに当たるのかな、とか考えながら読むのも楽しかった。
著者の独特の世界観。『私の恋人』『ニムロッド』『旅のない』と読んできて驚いた。そこからいきなりの、村上春樹的な設定。果たして「血も涙もない的確な現代人」としての恋愛がどのように進んでいくのか、すごく興味深かった。
が、最後まで読んでみて、うーん、期待しすぎたかなあ、というのが正直な感想だった。「望未サイド」から明かされるトリックもいささか必然性に欠けるように思えて腑に落ちない。
詳しい説明がないのでわからないが(そこも村上春樹っぽい)、望未は何らかの障害を負っていて、久島に「もう自分には関わらないでほしい、自分から開放されてほしい、忘れてほしい」と伝える。で、そう言われた彼の方は、最愛の彼女にとってもキレイな言葉が並んだ手紙を書く。
が、果たしてこれは決して的確な現代人の結論なのか。そうではなく、悲しいけど障害者あるあるなのではないか。結局は自分の冷たい決断に(キレイな言葉で)巧妙な言い訳をつけているだけのように思えて、少し落胆した。
まあ、最初に期待した分だけ辛口な感想になってしまったけれど、恋愛小説としては十分に面白かった。最後まで一気に読んでしまいました。 -
Posted by ブクログ
P163そうだね、愛していないね、と僕は呟いて、彼女のワイングラスをもぎとって、寝椅子に押し倒してそのまや再び抱いた。妙に興奮していて、言葉は必要なかったから、今度は彼女に何も囁かなかった。抱きながら、もしかしたらそろそろ渚とも終わりなのかなと考えていた。
愛していないがこんなに色っぽいことあるんだ
p231雰囲気を壊すと悪いからといって参加しなかった花火。〜落ちる度に彼女は謝った。九本目、ようやく二つの火球が一つになって、どっちかに移ることもなくそのまま燃え続けた。ぱちぱちぱちぱち、と長く燃え、それから避けられぬ運命をたどるようにして、火花が弱まって、燃え切ってからぽとりと落ちた。彼女は謝らなかった。
p301皆報われづらい誠実さを抱えたままゆっくりと駄目になっていく。 -
Posted by ブクログ
仮想通貨・ビットコインのマイニング(採掘)や実用化に失敗した「駄目な飛行機」たち、そして高くそびえる塔といったモチーフを反射板みたいにつかいながら語られる物語。
デジタルの圧倒的な大波をざぶんと浴びせられ、そののちデジタルの破片をたくさん身体に受けたままアナログの立場で書いた小説、といった感覚でした。なんていうか、乾いていてシンプルで、それでいて割り切れないような生々しい複雑さの結び目のようなものがある。
主人公の中本哲史はIT企業の社員で、新設された採掘課の課長。運営するサーバーコンピュータの空きを使ってのビットコインの採掘を命じられる。主人公の名前はビットコインの創設者とされるナカモト・サトシと同じ名前です。このリンクがまた、この小説の乾燥した読み味に一役買っているような気がします。
恋人の田久保紀子は大手外資企業で、人には話せない企業秘密を抱えながらシンガポールへ飛んだりしながら大きな仕事をしている。
友人であり同じ企業の名古屋支社に勤務するニムロッドこと荷室仁は、小説家志望で新人賞の最終選考で3度落ちたことで鬱病をわずらい、そこからいくらか回復した状態で物語に登場する。
この中本哲史を中心としたこの三人だけの物語です。遺伝子のコードやプログラムのソースのように、小説がそれを読む人の心になにかを記載する作用を期待して小説を書いているのではないか、という仮説があります。それは夢想なのだろうけれど、この空っぽの世界を支えているのはそういった行為かもしれない、と。この部分に、僕はかなり同意しましたね。
150ページほどの中編ですが、その文体による読み心地が僕には好ましかった。帯に、「心地よい倦怠と虚無」とありますが、その倦怠や虚無は、この世界をそれまでよりも少しだけわかってしまったからこそ宿る種類のものなのではないか、と思いました。
著者の、他の作品もそのうち、読んでみたいです。