三浦哲郎のレビュー一覧
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宝石のような短篇を百篇綴り、壮麗なモザイクに組上げる、著者独創の連作シリーズ第一巻。――文庫裏より
大学の授業でこの本を取り上げるというので、授業中に二篇読んだところ、その上手さにしみじみ感動した一冊。
その授業とは、生徒がそれぞれ文章を書いてきて、授業中に読みあうというものである。当然素人の作品が研ぎ澄まされた文章であるはずがなく(でも一人だけ、きらっとしたものを感じる人がいました)、少々「授業だから」と読んでいるようなところがあった。
そのあとにこの本である。比べ物にならない。というか、比べてはならない。そのあまりの実力差に、私はむしろ感動してしまった。
私の感想を書くより、この文庫は -
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さて、これを「小説」とカテゴライズしたが、果たしてふさわしかったか。
昨年夏に急逝するまで「群像」に連載されていた、痛風の痛みに悩む老いた夫とその妻のやり取りを書いた表題作(無論未完)と、表題作のヒントにしたと思われるメモ「老いてゆく自分に好奇心を。」、「文学的自叙伝」はその名の通り著者の半生記で、こちらは40年ほど前に書かれたもの、著者が師事した井伏鱒二について書かれた3編「亡き師を偲びつつ」「好悪をこえるもの」「鱒二論語のことなど」(いずれも20年から10年ほど前の、おそらく井伏氏の文庫作品に寄せた解説と思われる)、合計6編が収録されている。
恥ずかしながら三浦氏の本は初めて読んだのだ -
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劇団四季の舞台を見たのは小学生の頃だった。奇しくも本屋で手に取ったのは三浦哲郎氏の追悼記念フェアで、『ユタと不思議な仲間たち』の文字を見て、この作品は彼のだったのかと初めて知った。あの舞台を見て演劇をやりたいと思い、声楽を深めていきたいと思った私にとっては心に残る作品の一つである。
児童小説によくある不思議なものとの出会い、私は今でもこの類の児童小説が好きだ。しかし、一つ苦手なものがある。どの小説にも必ず別れがあるのだ。あれがどうも好きになれない。しかしながら、この『ユタと不思議な仲間たち』の別れはあっさりと後味が良いものになっている。物語りも小気味良く淡々と進んでいくのがとても印象が良い。
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私の通った高校の国語には、「課題図書」とよばれる制度があり、3年間の在校中に100冊を読み切るというものがありました。しかも、読んだ本の内容は中間・期末の試験で問題にでるのだから、読まないなんて点数を捨てる無謀な行為だと思われたのです。
そんな強制力の働く読書が楽しかったどうかはべつにしても、100冊の中で出会えてよかったなと呼べる本がありました。この『白夜を旅する人々』が高校時代の中でも一番強烈な印象を残している傑作なのです。
物語は昭和初期の東北。ある一家の兄弟が先天的にかかえる身体的障害から差別に苦しみながらも生きていこうとする著者自身の家族を題材にした魂の告白とも言える物語です。 -
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「忍ぶ川」は三浦哲郎の出世作であり、1960年に芥川賞を受けた。私小説は形を変容させつつ21世紀の現代も日本の文学界にしぶとく生き残っているが、昭和中期頃まではそれが文学の「主流」とみなされていた。青森県八戸に生まれた三浦も、妻との出会いや兄弟姉妹の不幸な死と失踪を題材に、保守本流の「私小説」で作家デビューを果たしたと言ってよい。
新潮文庫で昭和40年以来現在も版を重ねているこの本は、芥川賞受賞前後の初期作品7作を集めている。後年「短篇の名手」と呼ばれるようになってからは、文庫本にして20ページ前後のコンパクトな作品が増えるが、このころはまだ中編ともいえる長さのものが多い(ただし作家として安 -
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「忍ぶ川」に続いて「初夜」「帰郷」「団欒」「恥の譜」「幻燈畫集」と短編が続き、最後それらとは別の話「驢馬」が収録されている。
この小説は作者の体験に基づいた私小説らしい。料亭で働いていた志乃という女に惚れて結婚した主人公。その馴れ初めから物語は始まる。「初夜」では主人公の兄弟姉妹が自殺や失踪を遂げていことが明かされ、その家族の血を引き継いでしまっていることを悩む主人公は志乃に子供は作りたくないと言う。そこに主人公の父が危篤となり父の死を目の当たりにしてそれをきっかけに子供を作ろうという話。「帰郷」は大学卒業後主人公は作家として活動するもの全く売れず妻が内職でアイスクリーム容器を作りそれで生活し