Posted by ブクログ
2018年08月23日
「百舌の叫ぶ夜」
MOZUの原作。
TBSとWOWOWの共同制作で放送されたドラマ「MOZU」(2014年)の「Season1〜百舌の叫ぶ夜〜」の原作です(続編「幻の翼」は、Season1終了後にWOWOWで放送された「Season2〜幻の翼〜」の原作です)。但し、ドラマと原作は結構違う所がある...続きを読む模様。
解説の船戸与一は「逢坂剛はスペインものを書くときは速球を当時、日本国内に舞台を設定するときは変化球を投げる。本書はその変化球の最高の切れを示した作品だ」と評しています。逢坂剛は1ページだって退屈出せないぞと絶妙のコントロールでこの小説を書いたのだと。なるほど。その絶妙なコントロールの良さが、面白さに繋がっているのですね。
一見ただの過激派集団による爆破事件に見えたものが、その爆破事件の被害者を尾行していた百舌、更にその百舌を尾行していた公安第二課捜査官の明星美希、そして現場を担当する公安嫌いの大杉捜査一課捜査官の登場により、事件の背後に隠された恐るべき陰謀が明らかになっていく。詳細に練られたストーリーを感じます。ネタが次から次にテンポよく出てきます。
このネタを倉木尚武(公安部特務第一課捜査)が超絶な存在感によって次第に敵も味方も巻き込んで炙り出していく。その展開はアクションあり駆け引きありで目が離せない。と同時に、妻を亡くし、その妻は実は不倫をしていて、更に死んだ子供はその不倫相手の血が流れている。その上、その不倫相手はこの事件の全ての黒幕であったという次々と畳みかけられる真実によって、倉木が苦しみ、苦しむことによって存在感が増していく。
この倉木に続き、多彩なキャラクターが登場する所もポイントです。そして多くが重く暗い過去に引きずられている。例えば、大杉は、過去の幼児殺人事件で娘と溝を作り、諍いが絶えない。倉木の上司室井は、ある国のテロで娘の夫を失い、娘は心を病んでしまっている。唯一まともに見える明星は、恐怖によって性欲を昇進させるという特殊な一面がある(本書では、そこまで活躍する訳では無く、逆に新谷に捕まる等、チョンボがあるため、この異常な性欲が印象に残ってしまった)。この多士済々な人物群が組み合わさって、ストーリーがダイナミックに進んでいきます。
昭和61年という時代をほとんど感じさせない所は凄く、もう少し早く読むべきであったと後悔させる一作です。※映画は結局観ていないので、これは遅ればせながら小説でカバーするしかない。