コンビニやレストランで、店員として働く外国人を見かけることは珍しくないが、実は彼ら、彼女らの多くは「留学生」「実習生」であり、名目上は働くために日本に来たのではない。
先進国の一つに数えられる日本で働き、母国の家族のために金を貯めたい外国人は多い。一方、日本の企業は、人気のない仕事を引き受けてく
...続きを読むれる人間が欲しい。両者の利害は一致しても、就業ビザは目的が研究、教育等、狭い範囲に限定されている。
そこで、とりあえず日本語を学ぶ留学生として、或いは日本の技術を学び、母国にそれを伝える実習生として来日して、留学生は学業の傍らアルバイトとして働く、実習生は農場等、技術を学ぶためのそれぞれの場所で働くという形が定着することになった。これがうまく機能していれば、何も問題はないはずだが、実際は、これが外国人に奴隷労働を強制するシステムになってしまっている。本書は、何年もこの問題を追い続けた著者の実状報告である。
詳しくは是非本書を読んでほしいが。留学や実習で来日するためには、外国人は本国、日本双方のブローカーに仲介料を支払わなければならない。特に本国の組織に支払う金は莫大であり、年収の7~8年分にもなる。それでも彼ら、彼女らは、金銭価値の全く異なる日本で働きさえすれば、数年で元手を遥かに上回る収入があると信じ、土地を売り、借金をして何とか金を調達し、日本に来る。
しかし、こうして来日した外国人は、あくまで「留学生」「実習生」であるため、労働には様々な条件がつく。例えば、留学生の場合、アルバイトは週28時間までと決められている。滞在費、光熱費、授業料等はもちろん支払わなければならないため、これでは貯金はおろか、生活も覚束ない。そこで留学生の多くは、無届で夜間のアルバイトを2つ、場合によっては3つ、かけもちすることになる。冒頭に「コンビニやレストランで」と書いたが、実際は24時間稼働の食品工場等で朝まで働く例が多い。(篠田節子の小説「ブラックボックス」では、こうした職場での外国人の労働風景が描かれている)
実習生にいたっては、時間外労働は時給に換算すると300円程度にしかならない。実習生の多くはパスポートを強制的に預けさせられていて、自分の意志で行動することもできない状態になっている。(こうした事情は、本書より前に書かれた安田浩一の「外国人研修生殺人事件」に詳しい)
彼ら、彼女らが最も恐れるのは本国への強制送還である。本国には来日のために負った莫大な借金があり、途中で帰国させられれば、待っているのは一家の破滅である。その意味で、こうして来日する外国人は人質をとられているのである。
本書にはその他、留学生の部屋代、アルバイトの紹介料等、何から何まで吸い上げ、大した授業は行わない悪質な日本語学校の実状なども報告されている。安倍政権の成長戦略とかの1つ「留学生30万人計画」とやらも、連動しているようだ。読んでいて、いつの時代の話だろうと驚き、この国の悪しき労働観、差別観に暗澹たる思いにとらわれる。
もちろん、本来の目的で留学生、実習生を受け入れ、成果を収めているケースもあるだろうが、本書にはそうした例は出てこない。それを「偏向」と見る向きもあるかもしれないが。本書の目的は、あってはならないことが横行している事実を知らしめることである。我々は事実から目を背けてはいけない。私は本書を高く評価する。
最後に余談だが、本書には留学生をクイモノにする悪徳大学が出てくる。九州のN大学とイニシャルになっているが、これは都筑学園が経営する日本経済大学のことである。かつては第一経済大学という名称だった。著者は保護者を装ってこの大学の入学式に潜入するのだが、式では、安倍晋三、下村博文からの祝電が読み上げられた。また、安倍・加計問題で物議を醸している今治市の市長菅良二は、都筑学園グループ第一薬科大学を卒業している。教育というものに対する認識が違っているというより、間違っている人間が、ついてはいけない地位に居座っているようだ。