林譲治の本は初めて読む。ハヤカワJAのシリーズもので第41回日本SF大賞、第52回星雲賞日本長編部門を受賞しているので、いつ読んでも良い様に積読はしているのだが、どうも「ミリタリー宇宙SFの旗手」のミリタリーが障害となってこれまで敬遠していた。今回の本はミリタリー色が少ないという前評判だったことから、ようやく満を持して手に取ることにした。本の背を見たら「SF は-1-1」と書かれてあった。ということは、初めて創元SF文庫から出版されたということ。ちょっと調べたら、東京創元社としても初めての出版らしい。そんな記念すべき本、しかも書き下ろしという事で期待はこの上なく高まる。惑星調査が消息を絶った、というのは私の好みのジャンル。さあ、ファーストコンタクトSFの旗手である春暮康一の世界にどれだけ迫れているか楽しみ(年上だけど)。
目的地の惑星カザンまで1万光年離れていて、そこに辿り着くまで7年もかかる。地球から14万8000光年離れた大マゼラン星雲にあるイスカンダル星まで半年で行く宇宙戦艦ヤマトがイスカンダルからの技術供与を受けて行くのとは比べ物にはならない。やはり自前の技術だけでは限界があるようだ。第一次調査隊が調査を終えて帰還するのに15年もかかる。シリアル方式で調査をする、レスポンスの有無を確認しながら調査を進めるのはコスト的には有利だが安全面ではかなり危険なアプローチである。遭難したのかしなかったのか判断するのが非常に難しい。今回は、時間が経過したことにより各種技術は第一次調査隊よりも飛躍的に高まり、今回は宇宙船2隻で行くことも安全性を重視した対策となっている。
大きな出来事が序盤で示された。え?惑星カザンは惑星ソラリス?なんだ、二番煎じかとガックリ来たが、どうやら単なるソラリスではないようだ。そりゃそうだろう。ソラリスから一体何年進んだと思っているのだ?これまでに思いつかないような現象が起こり、それに現状の調査技術で対応する。カザン星人とは何者なのだ?そして、ちょっとした愛憎劇がとんでもない結果へと至る。いやーー、地球人は宇宙に進出する資格があるのだろうか。ヤマトで発生したトラブル(機関士の薮が森雪を誘拐するが地震で死亡)に似た様な人間の弱さは永遠に無くならない。今回も神様の鉄槌(文明調査班副班長の高木ブーがソヨンに向けて発射したレーザー光線を、ソヨンが反射して高木ブーが炭化)が発生した。二つのAIが融合した蒼井(山ちゃんと結婚した蒼井優をどうもイメージしてしまうのが悲しい)と吉野とのラストシーンが心に響いた。これで一気に林譲治のファンになってしまいそうだ。
年内中にもう一作、私の大好きな作品を出してくれないかな。できれば今回の様にミリタリー色が少ない作品。でも、この「惑星カザンの桜」、もし目ぼしい候補がいなければ、今後の賞を総なめするかもしれない。それほど素晴らしい作品であると私は太鼓判を押す。