1自社の重要な要素について理解する
あなたの会社では、どのようなスキルや人的ネットワーク、職種が生産性を向上させるために重要なのか。社内の知識の流れはどうなっているのか。社員は仕事と会社になにを求めているのか。人々は生涯を通じてどのような職業人生を経験するのか。
2未来の仕事のあり方を新たに構想する
これらの点に関する深い理解を土台に、最適な仕事のあり方を設計する。オフィスを協力の場と位置づけ、社員同士が会話を交わし、人と人が偶然出くわす機会をつくってもいいだろう。あるいは、それぞれの社員の自宅を健康と活力の源と位置づけてもいい。
勤務時間のあり方を工夫することにより、集中と調整を促進してもいい。
3モデルをつくり、検証する
構想したアイデアモデルをつくり、潜在的なリスク要因に照らして検証する。そのモテルは、未来に適応できるか。短期的、中期的、長期的に見て、時代遅れになることなく、目的を果たせるか。そのモデルは、すでに始まっているテクノロジーの変化を可能にし、社員がそれに応じたスキルの転換を成し遂げる後押しができるか。そして、すべての社員が公平で正義にかなうと感じられるものになっているか。
4モデルに基づいて行動し、新しい働き方を創造するこのステップでは、新しい働き方のモデルを自社の慣行に組み込み、企業文化に根づかせる。そのためには、リーダーの行動、そしてリーダーが語る物語が大きな意味をもつ。具体的には、リーダーはマネジャーの役割がきわめて大きいことを理解し、マネジャーたちが役割を果たせるよう支援しなくてはならない。それに加えて、社員とのコ・クリエーションを大々的に推進し、新しい働き方のデザインを選択する過程に社員を参加させ、変革のプロセスに社員を関わらせる必要がある。
ここでは、4つのステップを1~4という順序で並べたが、実際にはどのステップから始めてもいい。たとえば、仕事のあり方を新たに構想するステップから開始し、そのあとで社内の職種や社員や人的ネットワークについて理解を深めるステップに移行して展開する。
時間を新たに構想するー課題に超・集中する
新しい働き方を設計しようとするときはたいてい、どこで働くかにもっとも関心が払われる。コロナ禍では、とくにこの点が際立っていた。新聞や雑誌では、オフィス勤務か在宅勤務かがしきりに議論された。しかし、場所のことばかり考えていると、もうひとつの重要な要素を見落とす。その要素とは時間だ。私たちの職業生活で、1日の、1週間の、1カ月のリズムを生み出すのは、しばしば時間配分とスケジュール設計なのだ。
まず、非同時型の働き方について見てみよう。このような働き方をする時間には、ほかの人とつながらず、目の前の課題に集中することにより、生産性を向上させられる可能性がある。
知識労働者にとって、集中して業務に取り組む時間は非常に重要だ。カナダ年金制度投資委員会の投資アナリストたちは、企業のデータとさまざまな調査レポートを詳しく検討し、それを基に説得力ある報告書をまとめ上げる。自分の仕事に集中できる時間があるからこそ、資産の投資運用成績を大きく左右する可能性をもった助言ができるのだ。
難しいスキルを体得する新しい方法
ほかの人の立場に立ってものを考える能力など、基礎的な人間的スキルは多くの職できわめて重要だが、その種のスキルをはぐくむのは非常に難しい。テクノロジーを活用した研修を手がけるマージョン社のマーク・アトキンソンCEOは、リーダーの人間的スキルについて調べてきた。アトキンソンは、私にこう語っている。
人間的スキルの面で優れたリーダーの条件は、ちょっとした行動により、同僚や顧客から最良の行動を引き出せること。真の「積極的傾聴」を実践できるリーダーは、集団内の感情面の緊張をやわらげ、人々の間で合意を形成し、多様性の高い集団をマネジメントできます。優れたリーダーは、内向的な人たちに能力を発揮させることも上手です。
内向的な人たちは、深い思考をもっている場合もある。そうした人たちの類いまれな才能を理解し、そのような人々が活躍できる場をつくるのです。
基礎的な人間的スキルは、多くの認知的スキルや技術的スキルと異なり、なんらかのルールを学ぶ形では習得できない。この種のスキルを身につけるためには、くり返し練習することが不可々なのだ。しかし、ある人が人間的スキルをどれくらい発揮できているかという点は、明確な指標によって把握できる。アトキンソンによれば、「声紋の感情分析により、対人関係をうまくおこなえている人を見わけることができる」という。
この種の感情分析は、たとえば病院の救命救急センターにおけるコミュニケーションを分析するために用いられてきた。スタッフが互いに対して、どれくらい尊大だったり、無礼だったりするか。スタッフ間のうなずきや視線のパターンはどうか。スタッフが偶然、同時に同じ言葉を発したり、同じ行動を取ったりすることがあるか。比喩的に言えば、スタッフ同士が一緒にダンスを踊っているか、それとも格闘しているか。こうしたことを調べるのだ。一緒にダンスを踊っている人たちは、より質の高い意思決定をおこない、協働を成功させ、成功の指標でも高い成績を挙げている。
では、どうすれば、そのためのスキルをはぐくめるのか。アトキンソンはこう述べて
いる。
仕事に役立つ対人関係スキルを身につけるためには、没入型の学習体験が女かせません。
実際の仕事にできるだけ近い状況でリハーサルし、たっぷり練習する必要があります。
そのプロセスでは、試行錯誤を重ねることになります。なんらかの行動を取り、まわりの人たちの微妙な反応を手がかりに振る舞い方を修正し、また試みるのです。訓練をくり返すことにより、いわば習慣の筋肉がつくられます。
学習テクノロジーを活用して、大勢の人たちに重要な人間的スキルを学ばせる方法が見いだされはじめている。そのようなアプローチでは、莫大なコストを費やして教室でセミナーをおこなったりはせず、人間の研修講師とバーチャル・リアリティ(VR=仮想現実)およびAIを組み合わせる。
たとえば、気難しい顧客や社員の話を聞き、対応するスキルをはぐくむためのブログラム。基本的には昔ながらのロールプレーイング形式の研修だが、そこに登場する気難しい顧客や社員は、VRによる仮想のキャラクターだ。強いストレスを感じる場面をりアルに再現し、受講者の脳がVR体験を現実と勘違いするよう仕向けている。受講者はAIのキャラクターとのやり取りを通して気難しい顧客と会話し、さまざまな場面の練習を重ね、試行錯誤をくり返す。そして、どれくらいスキルが向上したかという客観的なフィードバックと主観的なフィードバックを受け、基礎的な人間的スキルの核を成す
りゅうちょう
流暢な会話をする能力を高めていく。
アメリカに拠点を置くホテル運営会社ベストウェスタン・インターナショナルは、こうしたことを非常に重んじている。同社はこの種の研修により3万5000人を超す社員のアップスキリングをおこない、顧客への共感を表現し、顧客の困りごとをただちに解決するために行動するスキルを強化してきた。