伊藤元重の作品一覧
「伊藤元重」の「伊藤元重が警告する日本の未来」「岡本行夫 現場主義を貫いた外交官」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
本書はトランプ関税について、その背景、米国内においてはなぜ目的を達成することができないか、世界貿易秩序への影響、その対策を平易かつ論理的に解説した良書。著者は経済学者であり、かつて日米貿易交渉を担当した実務経験もある。
本書の内容は説得力があり、トランプ関税はその目的を達成することはできないが、世界貿易体制の転換となるものであることが理解できる。
内容のポイントは以下の通り。
著者が貿易ハッキングと呼ぶトランプ関税の根底には「不満ドクトリン」がある。「不満ドクトリン」とは「米国内のグローバリストに裏切られ、外国に食い物にされ、その結果、中間層が代償を払っており、これを報復と強制により回復しなければいけない」というものである。
そしてトランプ関税による混乱は「信じられないほどの資質の欠如」か「策略がひそむ悪意」かまたはその両方である。
関税では中間層を救えない→中間層で製造業に従事しているのは10%に満たない数だから。
関税でアメリカの産業の再建はできない→投資、教育、インフラ、関係者間の調整が必要
関税では貿易赤字は解消できない→貿易収支は支出(個人消費+民間投資+政府支出および総投資)と所得の差(理論でもグローバリストの主張でもなく、会計、算数の問題)
アメリカは自ら築き上げてきた自由貿易のルールの破壊者に回った。WTOの重要なルール「無差別原則」「関税譲許」「紛争解決制度」に対して攻撃を行っている。「無差別原則」とは、ひとつの国に対して貿易障壁を下げた場合、ほかのすべてのWTO加盟国に対しても同じように障壁を引き下げなければならないということ。「関税譲許」とは、国際協定に基づき、特定の輸入品に対して「一定以上の関税を課さない」、または「関税を撤廃・引き下げる」と相手国に約束すること。
世界の他の国に対する処方箋としては、第一に「ルールに基づく貿易体制を守るため、ルールを遵守する」ということ。そして戦略的選択として、待機(米国内の苦境を待つ)、防御(米国の世界貿易に占める割合は15%であり、残りの85%を守り抜く)、行動(攻めの多国間主義)を提案している。
著者が今後の可能性として想定するシナリオは4つ。①1930年代型の混沌②コントロールの利いた多国間体制の漂流③貿易ブロックの対立④アメリカ抜きの再グローバル化。
④アメリカ抜きの再グローバル化は可能性は低いが、このシナリオを取れれば世界経済は順調に成長し、WTOも協調の中心拠点となり得るとしている。そのためには「集団的リーダーシップ」が必要とされ、それはEU、中国、日本、イギリス、韓国、インドなどによる緩やかな連携に基づく協力体制であり、2017年にトランプが離脱宣言をした後の環太平洋経済連携協定(TPP)を日本が集団的リーダーシップでまとめ上げた経験をモデルとして例示している。
【原題】
THE GREAT TRADE HACK :
How Trump's Trade War Fails and the World Moves on
【目次】
日本語版序文
第1章 貿易の大ハッキング
第2章 不満ドクトリン
第3章 カオス 意図したものか、機能不全か
第4章 関税は中間層の助けにならないが、それでもワシントンで支持される理由
第5章 関税では産業の復活はできない
第6章 関税では貿易赤字は解消できない
第7章 アメリカと中国の対立は貿易戦争ではない
第8章 貿易ハッキングは世界を分断するか
第9章 ハッキングによって世界貿易秩序は壊されたのか
第10章 ポスト・アメリカ主導時代への戦略
第11章 なぜリーダーたちは立ち上がらなければならないのか
付録1 関税と工業化の歴史上の事例/付録2 貿易赤字を改善すると考えられていた革新的出来事が、為替レートで相殺されたことを示すわかりやすいふたつの事例
監訳者解説
Posted by ブクログ
・「おもしろい!」「今後生かしたい!」「アイデアとして取り入れたい!」と思った箇所に付箋を貼ったが、これまでの人生で一番多く付箋を貼った本になった。
・著者の文章は明瞭で、読みやすく、内容がよく入ってきた。
・知的好奇心を保つ、文章を書く、学ぶことなどについてひたすら試行錯誤してきた結果が書かれているので説得力がある。
・構成要素の多くが、著者が影響を受けた人物や言葉の紹介である。それらを取りに行く著者の姿勢や、受け取った後の考察がおもしろかった。今のところ私は本書に登場する方々とお会いするようなことはおそらくないし、会うために努力しようとも思えない状態だが、そんな人でも本書を読むだけで、間接的でもそれらの方々のエピソードなどを知ることができるので、得をした気分になった。
【印象に残ったフレーズ・内容】
・その先生の部屋には大きな木箱が一つあった。100冊ほどの本が入る大きさだ。
(中略)「自分の人生で読んできたベストの書籍」の小さな書棚を作り、時間を作ってそうした本を何度も読み返したいと思う。
・原稿執筆はアプトプットである以前に重要なインプットでもある。
・私はいろいろな人との会話で、本を紹介してくれるようお願いすることが多い。そしてなぜその本を推薦するのかも聞くことにしている。それで読書の喜びが倍増するのだ。
・話すという行為の中で出てきたアイデアの中には、驚くほど深い意味を持っていると後で気づくものが含まれていることが少なくない。