竹内洋の作品一覧
「竹内洋」の「アメリカの大学の裏側 「世界最高水準」は危機にあるのか?」「岩波茂雄と出版文化 近代日本の教養主義」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
竹内洋の『教養主義の没落』は、明治から戦後にかけての人文的読書による人格完成を目指した教養主義の変遷を描く名著だ。
本書を通じ、日本の教養主義が伝統的身分文化ではなく、「学校的教養」たる西欧文化の習得だったと知った。これは刻苦勉励を重んじる地方出身の青年のエートス(性格)と親和性があった。同様にブルジョワを嫌うマルクス主義が農村出身者の教養主義と強い親和性を持っていたことを説いている。マルクス主義というもう一つの西欧文化が、ブルジョア文化を貶めることでブルジョワの上位に立つことができたからだ。現代の高齢層の一部がなぜマルクス主義に熱狂し続けているのか少し理解できた気がする。
また、大学進学率が15%を超えてマス化すると、大卒者は大衆サラリーマン化し、思想インテリより実務インテリが好まれるようになった。2003年刊行の本書だが、現在の「文系不要論」の背景が鮮明に理解できる。
著者は教養主義の没落を、日本社会における都市と農村の格差の消滅に起因すると分析する。海外の教養主義のあり方にも関心が広がった。
社会の構造変化と知の変容を見事にあぶり出した、実に見事な傑作である。
Posted by ブクログ
面白いが、日本思想史を理解すればもっと面白いと思う。
己の出自と思想の連続性を考えさせられた。自身の努力(受験、スポーツ)で成り上がったと感じるからこそ、都市型ブルジョワに近い考えを持っているのだろう。
・「その人らしさ」とは『ハピトゥス』であり、出自や社会的地位、青年期の経験にて形成される。『ハピトゥス』が社会的思想に影響を与える(当たり前と言えば当たり前ですが、エリート集団の中にも多様なハピトゥスを持つ人々がいる)。
・ヒエラルキー制度の崩壊により、上中下の階級に実線が引かれなくなる。凡俗な人間ー大衆平均人(サラリーマン)の文化が強く一般化することにより、教養を持つ「変人」「おたく」であることが望ましくない現状になっている。
・『教養』の真の意義はそれを培う場としての対面的人格形成の過程にあるのではないだろうか。教養が実用性を持ち、エリートが傲慢さに溺れず、人間の矜持と高貴さを養うために、新しい時代の教養はどうあるべきなのかを考えていきたい。
5章「文化戦略と覇権」と終章「アンティ・クライマックス」は正直流し読みになっているので、近代日本思想史を浚ってからまた改めてインプットしなおしたい。
Posted by ブクログ
本書は、戦後日本社会の知識人や大学生を支えた「教養主義」という独特の文化と精神構造が、いかに形成され、そして崩壊していったのかを、社会学・教育史の視点から丹念に描き出した著作である。
竹内は、日本の教養主義を単なる「偉い本の読書」ではなく、「立身出世を志向するエリートが、人格陶冶を通じて、特権的な知的・精神的地位を獲得しようとする規範システム」として捉える。この教養主義は、旧制高校や帝国大学といったエリート教育の場で、「リベラルアーツ」の読破と、それに伴う「精神的な高潔さ」の涵養を求め、若者に強烈な価値観を提供した。
しかし、このシステムは、戦後の民主化と高等教育の大衆化、そして何よりも「経済的な成功」を至上とする価値観の台頭によって、その力を失っていく。教養が「実利」に結びつかないと見なされ、専門知識や資格が優先されるようになると、教養主義は権威主義的で非実用的なものとして批判され、「没落」へと至る。
竹内は、この没落を単に嘆くのではなく、教養主義の持つ功罪を冷静に分析する。それは、近代日本における知識人の理想主義的な倫理観を形成した一方で、権威主義やエリート意識を生み出す温床でもあったという両面性を示している。
現代社会における知のあり方、教育の目的、そして我々が何を「教養」と見なすべきかという根源的な問いを突きつけ、戦後日本の精神史を理解する上で大変勉強になった。